海を飲む
あなたがレスキュー隊だったらよかったのに。この深くて重い海から私を引き上げてくれるレスキュー隊だったらよかったのに。
海は思っていたとおりに深くて、でも思っていた以上に重くて、ここから抜けだすことはできなかった。
ただ世界を真面目に見つめてただけなのに、もう戻れなくなるなんて思ってなかった。
あなたに助けを求めようかと思ったけど、あなたにそんなことはさせたくない。あなたは「悲しい」と言ってくれるけど、きっと自分を満たすためだけの言葉なんだろう。
月が海面を照らし始めて、海は静かに揺れていた。そこに私の影はなかった。
遠くで聞こえる機械音。あなたがコピーされていく。
世界は私のために止まってくれるのだろうか。
海を飲むしかないのだろう。ここから抜けだすには、この深くて重い海を、すべて飲みこむのだ。
でもやっぱり、すぐに酔ってしまうから、あなたがそばにいてくれると嬉しい。
私は特別なんかじゃない。でも特別じゃないわけでもない。
ただ海があまりにも広すぎるだけ。
あなたがレスキュー隊だったらよかったのに。
ただ私を抱きとめて、黙ってここから引き上げて。
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