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Vol.13 男性不妊と精子の質

東京都港区北青山にあります不妊治療クリニック「表参道ARTクリニック」です。(ホームページ:https://omotesando-art.jp/

こちらのnoteで生殖補助医療(ART: Assisted Reproductive Technology)やその周辺の分野をご説明する中で不妊について疑問、不安、お悩みをお持ちの方が「そうなんだ!」と理解できる機会をご提供できればと思っています。

男性不妊ってなに?

 不妊治療では女性に焦点を当てられることが多くありますが、不妊原因は男性と女性で約半数ずつあると言われています。
男性にとっても不妊は他人ごとではなく、男性や女性どちらにも起こりうるのです。
男性不妊についてはあまり知られていないのが現状ですが、男性はもちろん、女性にも理解を深めていただくことで、パートナーの方に不妊治療の理解を求める際などに役立つかと思います。
そもそも男性不妊とはどのような状況を指すのでしょうか。
男性不妊とは、精巣内で十分な量の運動精子がつくられ、パートナーの体内で射精されるまでの過程に何らかの問題を認める状態のことを指します。

主な男性不妊の原因は、
造成機能障害:精子の運動率が悪い、数が少ない、精子がいない
精路通過障害:精子を運ぶ通路に問題がある
性機能障害 :勃起や射精ができない
の3つに分けられますが、そのうちの約8割は精子をつくることに何らかの問題がある造精機能障害と言われています。
そこで今回は男性不妊の中でも、造成機能障害に関係する「精子」に焦点を当て基本構造から日常生活での改善点まで詳しくみていきましょう。

精子の基本構造

精子は精液中に1~2%の割合で存在します。その他の98~99%は、精嚢や前立腺の分泌物の混合物である精漿という液体が占めています。

構造としては、機能別に、頭部・中間部・尾部の三つに分けられます。

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<頭部>
遺伝情報が詰まった核が入っている一番重要な部位です。この遺伝情報を卵子に届けます。また、卵子の透明体という膜を破るための酵素が入った先体という部位があります。

<中間部>
ミトコンドリアがあり、これをエネルギーとして精子の動力を発生させます。

<尾部>
精子が泳ぐためのしっぽの役割を担っています。
中間部のミトコンドリアから発生するエネルギーを受け、長い鞭毛を振動させながら前へ進みます。

射精後に持ち主の身体から離れた精子が自力で動くことができるのは、この三つの構造によって可能となっています。

ですが、何らかの理由により精子の動きや形、運動に問題があったり、そもそも精子自体がつくられていないこともあります。
そのような異常が男性不妊につながります。
精子の異常は自覚症状がなく、肉眼で確認できないため、検査をしない限り見つかりません。
そのため、なかなか妊娠しない場合、男性の精液検査が必要になります。

精子の状態はどのように調べるの?

では、検査にはどのようなものがあるのでしょうか。
精子の状態を調べる方法は二つあります。

①精液検査
これは、病院から提供する専用容器に精液を採取し、病院にて胚培養士が顕微鏡や機器を使って精子の状態を調べる検査です。
現在、表参道ARTクリニックでは感染症対策の一環として、原則自宅採精をお願いしています。
通院に2時間ほどかかるなど患者様の状況により、院内採精も可能です。

②ヒューナー検査(保険適応)
ヒューナー検査は、検査の前日の夜または朝に夫婦生活をとった後、子宮の入り口付近の粘液を採取します。
採取した粘液の中にいる精子の状態を顕微鏡で観察する検査です。
この検査では詳しい精子の状態は分かりませんが、粘液中の運動精子の有無や粘液と精子の相性を知ることができます。

表参道ARTクリニックでは、ヒューナー検査で運動精子が確認できた場合、希望により精液検査を省略することも可能です。

また、精子は体調やストレスの影響を受けやすく、精液量や精子数は大きく変動します。
そのため一度目の検査結果が良くない場合は再検査をし、それらの結果を総合的に判断します。
一度目の検査結果が悪かったからとあまり落ち込まず、そんな時もあるという気持ちで再検査をしてみましょう。

精液検査の結果はどう見たら良い?

では、精液検査の結果はどのように見るのでしょうか。
以下の図は、WHOが提示する正常精液所見の下限値(2021年度版)です。
このデータは避妊中止後12か月以内にパートナーが自然妊娠した男性の精液検査の下位5%値を示しています。
この下限値以上であれば、自然妊娠する可能性があると考えられています。

ただし、この基準値はあくまで指標の一つと考えてください。
この基準を超えていても、必ず妊娠できるということではありません。
基準より高くても妊娠しにくい場合もあれば、低くても妊娠が成立することもあります。

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                    <WHOの下限基準値2021年>


精子を元気にするためのポイントは?

精子は体調やストレスに影響されるため、精液検査の結果が良くない場合もあるかと思います。
精子の状態を良くするためには普段の生活でのちょっとした工夫が大切です。
日常生活での改善点をみていきましょう。


<精子を守るポイント7つ>
①禁煙
まず、何といっても禁煙です。
喫煙による精子への影響は計り知れません。
血管の収縮による勃起不全や精子数の減少、運動能力の低下を引き起こす可能性があります。
最近では、喫煙による酸化ストレスが精子のDNA構造を傷つけるといわれています。
パートナーへの受動喫煙のリスクもあるため、妊娠を考えている方は今すぐ禁煙しましょう。

②禁欲しすぎない
精子が体内で生きられる期間は約3~5日といわれています。
精子をたくさん溜めて射精したほうがいいというのは誤解です。
禁欲が長引くと寿命を迎えた精子は死んでしまい、精子の質が下がる原因となります。
溜めずに射精することが元気な精子を保つポイントです。

③ブリーフよりもトランクス
精子はとても熱に弱い生き物です。
精巣は陰嚢に包まれ身体の外側にぶら下がっています。
精巣は熱に弱く、温度によって精子を作る機能が弱ってしまうからです。
陰嚢は寒さや暑さによって伸び縮みをし、日々温度調整を行っているのです。
快適な温度を保つためには、風通しが良くゆったりとした下着がおすすめです。ぴっちりとしたスキニーやジーンズも避けるのが無難でしょう。

④長風呂、サウナは避ける
同じ理由から、長風呂やサウナは局所を温めることになるため短時間で済ませる、または控えることをおすすめします。
とにかく精巣は温めないことが大切です。

⑤自転車に気を付けて
長時間の自転車は、陰茎や陰嚢へのサドルの圧迫に要注意です。
圧迫により精巣の温度が上がるだけでなく、陰茎への血流が悪くなり勃起障害につながる恐れがあります。
もちろん自転車がダメというわけではなく、時々サドルから腰を浮かせ血流を確保したり精巣を圧迫しないタイプのサドルへの変更を検討するといいでしょう。

⑥ノートパソコンは机に
膝上で長時間パソコン作業をすると、精巣の温度を上げてしまいます。
熱くなる機器は膝の上にのせないようにしましょう。

⑦育毛剤は控える
育毛剤は男性ホルモンを抑えることによって脱毛を防ぐ働きがあります。
副作用として、性欲減退や射精障害、精子の減少、勃起不全などの原因になるといわれています。
妊活中の育毛剤は控えるのがいいでしょう。

※これらは一つの考えであり所説あります。


最後に

ここまで精子の構造や検査、日常生活でのポイントについてお伝えしてきました。
不妊治療において、女性の加齢による卵子の質低下は一般的に知られるようになってきましたが、男性も加齢によって35歳くらいから精子の質が下がると言われています。
不妊治療は時間との闘いです。
自覚のある方は現在のご自身の状況を把握する上でも、一度医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。

表参道ARTクリニックでも精液検査、ヒューナー検査を行っております。
男性お一人での来院も可能です。
精液検査はご自宅で精液を採取していただき、パートナーの方にお持ちいただく方法もあります。
婦人科へ来院することに抵抗がある男性は、自宅採精や泌尿器科への受診もおすすめです。
泌尿器科では男性不妊の検査から治療までを行うことができる場合があります。
泌尿器科に受診される場合は男性不妊に対応できるか問い合わせてから受診してください。

妊活でできることは男女ともにたくさんあります。
この機会にパートナーと一緒に日常生活の見直しや受診を考えてみてはいかがでしょうか。

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『不妊治療』と検索すると様々な情報であふれかえっていて、何が正しいのか?何が自分に合うのか?と不安になってしまいますよね。
まずはどのような治療方法があるか、ご自身にどのような治療が必要なのか、それにはどの程度の経済的な負担が見込まれるのかを正しく認識するうえでも、妊娠を希望されている方には医療機関への受診をお勧めします。
専門医に相談することで今まで抱えていた不安も少しずつ解消されることと思います。
その上で妊娠に向けて適切な検査や治療を医師や家族と相談しながら安心して進めてきましょう。

表参道ARTクリニックでは、30年以上不妊治療に携わってきた二村院長が今までの経験を踏まえ患者様一人ひとりに合わせた治療を行っております。
検査や治療に対しての必要性や費用の説明を医師が行いますので、患者様にとって安心して通えるクリニックであると思います。
様々な治療方法を提案し、患者様にも納得いただいた上での治療を行い、少しでも早く妊娠していただけることを目指しております。
「自分には不妊治療が必要かな?」と考えたら、まずは気軽にご相談にお越しください。

表参道ARTクリニック
表参道駅徒歩1分の不妊治療クリニック。
30年以上の経験を持つ院長が必ず診察いたします。
人工授精、体外授精、顕微授精などの治療に幅広く対応し、患者さん一人ひとりが納得できる治療法をご相談、ご提案します。

■こちらのnote
不妊治療を検討されている方、現在不妊治療を進めていらっしゃる方々の不安、疑問が少しでも解消するように、不妊治療にかかわる情報を発信しています。
こちらのnoteに記載の内容は一部ですので、詳細はクリニックにてお尋ねください。

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