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Vol.11 母体に近い環境を目指す培養室の環境づくり

東京都港区北青山にあります不妊治療クリニック「表参道ARTクリニック」です。(ホームページ:https://omotesando-art.jp/

こちらのnoteで生殖補助医療(ART: Assisted Reproductive Technology)やその周辺の分野をご説明する中で不妊について疑問、不安、お悩みをお持ちの方が「そうなんだ!」と理解できる機会をご提供したいと思っています。

既に採卵の経験がある方はご存じかと思いますが、不妊治療クリニックのような生殖補助医療施設には「培養室」という精子や卵子を扱う専門の部屋があります。その中では、胚培養士が精子・卵子・受精卵を取り扱う培養のエキスパートとして働いています。
ただ培養室は外から見えない場合が多く、胚培養士も医師や看護師に比べると患者様と接する機会が限られています。

皆さんがクリニックに預けた卵子や精子がどのような環境でどのように扱われているのかよくわからないまま、後日結果だけ知らされるということについて不安を感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

培養室の説明といっても、培養の機械、中で働く培養士など、様々な要素がありますが、こちらのnoteでは大枠となる培養室の環境をご説明させていただきます。
まずは培養室の環境について知っていただくことで安心して、クリニックに卵という命の元になる細胞を預けられるようになればと思います。

培養室に求められる環境

皆さんが目に見えない部分ではありますが、体外受精や顕微授精といった施術の大半は培養室内で行われることになります。
通常は体内で行われる受精を人工的な施設内で行うわけですから、培養室には可能な限り母体に近い環境づくりが求められることになります。

母体とはどんな環境なのか

母体と同じ環境と聞いてもなかなかイメージがつかないかと思います。
また、一口に母体といっても、その中には様々な器官があります。
その中でも受精は卵管膨大部という場所で行われるため、「卵管」に絞ってご説明いたします。

ヒトの中心温度は37℃前後で卵管も同様です。
また大気中と酸素濃度が21%であるのに対し、体内には約8%以下の酸素量しかありません。
血管を通して栄養素を卵管液から受け取って栄養素を受け取って老廃物を体外に出すようなことが起こっているため、これらを再現する必要があります。

卵管内を再現する機械「インキュベーター」

この母体の卵管内を再現するために培養室内には「インキュベーター」という機械があります。

表参道ARTクリニックで使用しているタイムラプスインキュベーター>

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インキュベーターとは、細胞培養を行う装置のことで、温度・湿度・二酸化炭素濃度・酸素濃度を一定に保つことができ、細胞を卵管内環境に近い状態で培養できます。
培養室では、卵子・精子・受精卵(以下、胚)のすべてにインキュベーターを使用することになります。

先ほど説明した卵管内の環境を再現するために培養室のインキュベーターの設定は、温度37℃、酸素5%、二酸化炭素6%となっています。

インキュベーターもその機能によって種類がわかれていて、酸素調節が可能なものを、マルチガスインキュベーターといい、胚培養を行う最適条件とされています。
より良い、胚を育てることが出来ます。

また、受精卵を培養庫内にあるカメラにより随時観察記録できるタイムラプスインキュベーターがあります。
インキュベーター内のカメラが、定期的に撮影するので、培養業務外の時間もどのように胚が受精および成長していたかを確認することができ、胚分割の異常も確認できます。
胚を外界に出さずに観察記録ができるため、胚のストレスを軽減することができます。
当院においても、タイムラプスインキュベーターを使用しています。

さらに、母体の卵管内に近い環境を作るために、胚は「培養液」という液体の中で培養されます。
培養液は卵管液の代わりであり、受精や胚の成長を担う栄養素が含まれています。
胚は分割していく中で、求める栄養素が異なるため培養液の成分は重要なポイントです。

インキュベーター外の環境

胚を扱うインキュベーターの中が可能な限り母体の卵管内に近い環境になっていることがご理解いただけたかと思います。
では、インキュベーターの外の環境、つまり培養室自体はそこまで気を遣われていないのかというと当然そんなことはありません。

培養室自体もその温度や空気の清潔性などに細心の注意が払われています。

培養室は1年中一定の室温25℃~28℃に保たれています。
また可能な限りクリーンな空間にするために空調も特殊なものが使われています。
クリーンな空間でないと細胞にストレスが加わり、細胞の成長に悪影響を与え、細胞分割が不良となりえるからです。

培養室は常にHEPA(へパ)フィルターという微細な塵も逃さない特殊なフィルターを通した空気が入り、その空気が他の部屋に出ていく状態(他の部屋の空気は逆流しない状態)になっています。
このHEPAフィルターは私たちの身の回りの生活家電においても、空気清浄機や掃除機に使用されています。

さらに体内に近づけるために重要なポイントが光です。
当たり前ですが、体内には光は入ってきません。

胚は光によって、その発生に悪影響を及ぼすことが確認されているため、培養室は太陽など光の遮断された空間であり、通常、窓がない空間です。
そのため、胚や卵子を操作するときは、光による影響を抑制する必要があります。
培養室の照明は可能な限り暗くし、顕微鏡下での観察操作においても明るさを制限します。
ただ単に暗くするだけではなく照明器具の種類も重要です。
蛍光灯には、少量の紫外線が含まれているため、近年はLED電球を使用している施設が多くなっています。

また、胚を観察する顕微鏡は、ハロゲンランプからLEDランプをケースが増えています。
LEDランプは光量を上げても発熱量が抑制されるためです。
ただしLEDランプの中には青色光が強いものもあり、これは胚にとって悪い影響を与える可能性が報告されています。
よって、培養室の照明や顕微鏡観察時の光量や観察時間にも注意が必要です。

当院のクリーンベンチ内の顕微鏡はLEDランプを使用しており、胚にとってより良い環境つくりを提供しています。
光源一つとっても細心の注意を払った環境になっています。

実際に卵を扱う特別な机「クリーンベンチ」

ここまで、実際に卵を受精・培養するインキュベーター、また培養室全体の空間についてご説明しましたが、
最後に、卵子・精子・受精卵の操作、培養液の調整等を行うために使用する作業台のような機器、「クリーンベンチ」についても知っていただければと思います。
こちらのクリーンベンチにもHEPAフィルターが使用されており、HEPAフィルターを通して培養室内に入ってきた清潔な空気が、さらにクリーンベンチのHEPAフィルターで濾過され、綺麗な空気をベンチ内に循環させ、無菌に近い状態で作業が行われます。
クリーンベンチは綺麗な空気だけではなく、ヒートウォーマーという機械が設置してあり、37℃に設定することで、胚をインキュベーターから外界に出しても温度の低下を抑えることが可能となります。

最後に

ここまでのご説明で皆さんから預かった卵子や精子を可能な限り良い環境におけるよう、様々な取り組みがなされていることがご理解いただけたかと思います。
反対にこれらの外界からの刺激を最小限にするための取り組みが培養室の密閉性を高くしており、見学などもできないので、イメージがつきづらい要因となってしまっているので、こちらのnoteを通じて少しでも培養室の理解、また卵という命の元になる細胞を預ける上での安心につながればと思っています。

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『不妊治療』と検索すると様々な情報であふれかえっていて、何が正しいのか?何が自分に合うのか?と不安になってしまいますよね。
まずはどのような治療方法があるか、ご自身にどのような治療が必要なのか、それにはどの程度の経済的な負担が見込まれるのかを正しく認識するうえでも、妊娠を希望されている方には医療機関への受診をお勧めします。
専門医に相談することで今まで抱えていた不安も少しずつ解消されることと思います。
その上で妊娠に向けて適切な検査や治療を医師や家族と相談しながら安心して進めてきましょう。

表参道ARTクリニックでは、30年以上不妊治療に携わってきた二村院長が今までの経験を踏まえ患者様一人ひとりに合わせた治療を行っております。
検査や治療に対しての必要性や費用の説明を医師が行いますので、患者様にとって安心して通えるクリニックであると思います。
様々な治療方法を提案し、患者様にも納得いただいた上での治療を行い、少しでも早く妊娠していただけることを目指しております。
「自分には不妊治療が必要かな?」と考えたら、まずは気軽にご相談にお越しください。


表参道ARTクリニック
表参道駅徒歩1分の不妊治療クリニック。
30年以上の経験を持つ院長が必ず診察いたします。
人工授精、体外授精、顕微授精などの治療に幅広く対応し、患者さん一人ひとりが納得できる治療法をご相談、ご提案します。

■こちらのnote
不妊治療を検討されている方、現在不妊治療を進めていらっしゃる方々の不安、疑問が少しでも解消するように、不妊治療にかかわる情報を発信しています。
こちらのnoteに記載の内容は一部ですので、詳細はクリニックにてお尋ねください。

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