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地球が宇宙ゴミに囲まれる日

 火星移住ロケット1号がまもなく発射される。まずは移住のために必要な資材が火星に送り込まれる。大勢の人類が火星に行くのは、その後だ。この後、2号、3号と続いて、最終的には全人類とたくさんの動植物が火星に送り込まれる計画だ。
 でも、最近じゃ人工衛星やら使い捨てた機材やら宇宙飛行士が落としたハンマーやらが地球の周りをぐるぐる廻っている。大きいものも小さいものも含めて、秒速何キロメートルの速さで飛び廻っているのだから、うまくすり抜けないと大変なことになる。小さいものは弾丸さながらに、大きいものはミサイルさながらに、いつなんどき何が飛んでくるかわからない状況だからである。
 かつて人工衛星を打ち上げるために使った燃料タンクやその他もろもろの機材も軌道上に放置されて、今でもぐるぐる廻っている。故障して使えなくなった人工衛星も、耐用年数が経って放棄した人工衛星も相変わらず地球の軌道を廻っている。大きいものは把握できても、小さいものはどの程度の数がどの軌道をどれくらいのスピードで飛んでいるかは、世界中の誰も知らない。
 もちろん隕石もある。隕石にぶつかる可能性は昔からあった。昔はその可能性はほとんどゼロに近かったからよかったが、今では地球の軌道を廻る人工物が昔とは比較にならないほど増えている。ぶつかる可能性が、もはや無視できないくらいの確率になってきたのである。
 ところで、なぜ火星移住計画が持ち上がったかというと、地球に住めなくなったからである。なぜ住めなくなったのかは、この際気にしないことにしよう。地球温暖化であれ、宇宙人の侵略であれ、戦争であれ、理由はともかく地球を脱出せざるをえなくなったということだ。
 3秒前、2秒前、1秒前、発射。火星移住ロケット1号が打ち上げられた。順調に高度を上げた。こういう場合、通常は地球の軌道を何回か廻ってから宇宙へ飛び出すが、火星移住ロケット1号は一気に軌道を突っ切って、まっすぐに宇宙に飛び出した。成功である。拍手が起こった。
 ロケットは軌道を廻る危険なルートを避けて、ぶつかる可能性が低いルートを選んだのである。それが功を奏したということだ。でもそのために、より大量のエネルギーを必要とした。火星移住ロケット1号は3段の発射ロケットを搭載していた。地球脱出に成功した代わりに、新たに3つの大きな物体が地球の軌道に残された。
 1号の成功に続いて、次に2号が打ち上げられる。その準備をしていた矢先に、空に異常が起こった。通信衛星から外れて宇宙を漂っていた1枚の太陽光パネルが、火星移住ロケット1号が残した燃料タンクに衝突したのである。太陽光パネルは粉々に砕け散り、燃料タンクは大きく3つに割れた。
 これが連鎖の始まりだった。太陽光パネルの欠片と燃料タンクの残骸はてんでバラバラの楕円軌道を描いて廻り始め、他の宇宙ゴミに衝突した。こうして宇宙ゴミの数は飛躍的に増えていった。
 政治家と科学者は、計画を予定通り実施するか、それとも延期するか、あるいは中止するかを話し合っている。人々は、先に行くべきか、様子を見ようか、地球にとどまろうかと考えている。火星移住ロケット2号の打ち上げ予定日は2日後である。

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 そうは言っても、他の星で人間が住める環境を一から作るのに比べれば、地球の環境を修復するほうがはるかに簡単でしょう。地球がどんなにひどいことになっていようとも、新しい星に行こうとするより、地球に住み続けることを選んだほうがいいと思いますよ、たぶん。

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