パナマ文書はどこから流れてきたか?
パナマ文書はどのようなルートを経て流れてきたのか。それはおそらく当分は明らかにならないだろう。少なくとも今現在はそれに関する報道はない。けれども、国家機密が数十年後には明かされることがあるように、パナマ文書の流出経路も数十年後には明らかになる可能性はある。
だから推測の域を出ないのだけれど、それでも推理することはできる。そこで果敢に推理してみよう。そうすれば、ドンピシャリの正解でなくとも、おおよその流れはつかめるかもしれない。さもありなんと思っていただければ幸いである。
まず手段から考えよう。どうやってパナマにある企業(法律事務所)からデータを入手したのか。それについては、今どきのご時勢を考えれば、サイバー攻撃によるものだと考えるのが妥当だろう。
世界にはたくさんのハッカー集団がある。日本でもアメリカでも民間企業や国家機関がハッカーに攻撃されたり、情報を盗まれたりということがしばしば起きている。
国家主導でハッカー組織を組織していることもある。よく言われるのは中国だが、アメリカやロシアなども他国の情報をハッキングしていることだろう。その点については日本は攻めも守りも甘いが、サイバー戦争という言葉があるように、世界の多くの国で攻撃と防衛の両面でハッキングの腕を磨いている。それが世界の常識である。
では、サイバー攻撃を仕掛けたのは、どこのハッカー組織によるものか。それについては、パナマ文書が世に出た地点をみれば見当がつく。
パナマ文書の存在を明らかにしたのは、ドイツの新聞社「南ドイツ新聞」だった。本社はドイツ南部の都市ミュンヘンにある。誰かがそこに電子データを持ち込んだのだ。
その地は、米ソ冷戦時代において西側諸国の最も東、東側諸国と向き合う最前線だった。東ドイツやチェコと目と鼻の先である。冷戦当時、その地は東側諸国に対する諜報活動の拠点だった。そういう歴史がある場所で、サイバー戦争に備えるべき現代において、今も諜報活動をしていても不思議はない。
そのことを念頭に置いて、再び「サイバー攻撃を仕掛けたのは、どこのハッカー組織によるものか」と考えたとき、最も自然に出てくるのは「ドイツの諜報機関」である。
もちろん、証拠はない。先ほど書いたように、本当のところは当分明らかにならないだろう。でも、だからこそ推理するべきだし、私なんぞが推理しても許されるのだ。推理を続けよう。
ところで、タックスヘブンの情報を手に入れて公表することに、ドイツとしてのメリットはあるだろうか。つまり、動機はあるだろうか。大いにあるのである。
それはドイツがEUの中心になっていることと大きく関係している。たとえば財政破綻寸前のギリシャを経済大国ドイツが支えている実態があるが、その負担に対してドイツ国民から不満の声が上がっている。ギリシャの財政が健全化するためにはきちんと税を集めなければならないわけで、ドイツはギリシャに対してそれを求めているのだけれど、ギリシャの金持ちがタックスヘブンに逃げてしまったら、ギリシャ財政の健全化は望めない。
そして、その問題はギリシャだけに限らない。ドイツ本体にとっても同じことだ。「金持ちは税を逃れて、貧乏人が税をむしり取られる」という視点は個人レベルではわかりやすい話だが、国家レベルの視点でみると「徴税がうまくいかないことは、国家存亡にかかわる事態」なのだ。
しかもEU内にもタックスヘブンがある。ルクセンブルクやモナコ公国(モナコはEUには加盟していないが、EUの中に位置していて、ユーロを使っている)である。そして実はイギリス国内にもある。イギリスはもともとイングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの連合国であって、地方の権限が強い。結果として、イギリス国内にタックスヘブンがあるのである。しかもそのイギリスにはEUから離脱しようとしている。イギリスを含むタックスヘブン国に対してドイツが警告を発するのは、いかにもありそうなことだろう。
以上まとめると、
これらのことから「ドイツの諜報機関がサイバー攻撃によってデータを得た」と私が推理した次第である。そして「地元の新聞社を通じて世界の報道機関にデータを流した」ということだ。
ところで、戦争を禁止する条約がないのと同じように、サイバー攻撃を禁止する条約はない。それどころか、各国ともサーバー戦争を想定して、攻撃と防御の両面で備えているのが現実だ。また、タックスヘブン(租税回避地)に資産を移すことが違法でないように、他国をサーバー攻撃することは違法ではない。それどころか、優秀なハッカーは民間企業からも政府機関からも引く手あまたである。
仮にドイツの諜報機関のハッキング行為によるものだとして、私はそれを非難するつもりはない。むしろ拍手を送りたいくらいである。「メルケル、よくやった」とハグしたい気分である。
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