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阿吽(あうん)の呼吸の作り方

 周辺情報を大量に浴びせて、でも肝心なことは絶対に言わない。これが日本人の典型的な議論なんだな。先日ある人と議論(というほどのものでもない)して、そう思った。
 あれもこれもごちゃ混ぜにして、要点を溶かし込んで解消することを図っているかのようである。記事にしてみて、日本的議論の特徴がくっきりと浮き出てきたように思う。
   ◇ 相手の立場でものを言う
   ◇ 相手の気持ちを慮る
   ◇ わかり合う
 いずれも良いことのように見えるが、実は裏がある。相手の領分にずけずけ口を出す一方で、自分のことはだんまりを決め込む。要はそういうことなのだ。でも、お互いにそういう姿勢でいれば、それはそれでうまくいくのかもしれない。
 相手のことを自分の中に取り込み、自分のことは相手にゆだねる。これが日本的コミュニケーションの理想形なのかもしれないな、阿吽(あうん)の呼吸みたいなものはこうして生まれてくるのかな、と思う。
 そしてこうなると「相手に問い質すことは、日本的コミュニケーションを破壊する行為である」とされるのは当然だよなぁ、と思うのである。

 あっもちろん「問い質してはいけない」なんてこれっぽっちもボクは思っていませんから。それより「聞いたことにはちゃんと答えてよ」って思う。

相手の立場でものを言う

 ある提案をして、それが採用されるか却下されるか、その審査結果を聞く場面。何の提案かというと、そうだな、とりあえず何かの企画を提案したということにしておこう。まぁ生活保護申請でもクラブ設立に関することでもなんでもいいんだが。

担当者(以下Aとする): 残念ですが、却下されました。
提案者(以下Bとする): はぁ?
A : いや、まことに残念ながら、却下されたということです。
B : あのう … それって、こっちの言い方ですよね?
A : はぁ?
B : 却下されたのは私です。あなたではありません。
  残念なのも私です。あなたが何を残念がるんですか?
A : あぁ、確かにそうですね。では、私は何と言ったらいいんでしょう?
B : そちらが言う場合は「却下した」と言うべきです。
A : はい、却下しました。申し訳ありません。
B : 申し訳あるかないかは関係ありません。
  ところで、なぜ却下したんですか?
A : 慎重に審査したんです。
B : それは却下の理由じゃないですね。私は却下した理由を尋ねています。
A : だから、その、他にも却下された人はいるんです。
B : あのう … まさかそれが理由じゃありませんよね?
A : あぁ、確かにそうですね。
B : ところで、却下した理由は何ですか?
A : そうですね … あなたがおっしゃることはよくわかります。
B : え?
A : だから、あなたの提案はごもっともなんです。
B : だったら、なぜ却下するんですか? それは提案を採用する理由にはなっても、却下する理由にはなりませんよ。
A :  …
B : 話を戻しますが、私の提案は採用されたんですか?
  それとも却下されたんですか?
A : 却下されました。いや、違う。却下しました。
B : なぜですか?
A : そうですね … あなたの提案が理解を得られなかったということでしょう。
B : あのう … それも私の立場の言い方です。あなたは審査した側の人ですから、その立場で発言してください。
A : では、何て言ったらいいんでしょう?
B : 「理解しなかった」と言うべきです。あるいは「理解できなかった」と言うべきです。
  「理解を得られなかった」のは私です。あなた方は「理解しなかった」あるいは「理解できなかった」のです。
A : いや、そういうことじゃなくてですね 。。。
B : では、却下した理由は何ですか?

 ここまでの所要時間は約 20 分。まだ本題に入っていない。
 提案者Bは、6回同じことを尋ねている。「却下した理由は何ですか?」と。
 担当者Aは、それに対してまだ回答していない。Bに難癖をつけられているとAは感じているのかもしれないが、Bはただ理由を聞いているだけなのだ。
 今日の現実のやり取りをもとに構成しました。実際にこんなやり取りをしてきたところです。下に続きます。

相手の気持ちを慮る

 「提案を却下した」という告知を受けた際に提案者(B)が担当者(A)に「なぜ却下したのか?」を尋ねたが、何度聞いても理由を答えてくれなかったという話でした。その続きです。

A : まだ納得していただけないでしょうか?
B : えっ? あなたは私を納得させようと思っていたんですか? 私は納得したいと思っていないし、「納得させてくれ」などというお願いもしていませんが。
A : お互い、考え方が違うんですね。
B : おやっ、今度は私の思考回路の話ですか? 私の心と頭は私が勝手にうまくやりますから、心配してくれなくていいです。私はただ、却下した理由を知りたいだけだから。
A : でも、もうずいぶん長い時間話していますね。
B : あれっ? 理由を話していただきましたっけ? 私、聞き逃しましたか? 提案書に不備があるというなら、整えて出し直します。提案書のどの部分がダメというなら、その部分を考え直します。でも、そういうことはおっしゃっていませんよね?
A : そうですね。 特にどこがどうってことはありませんね。
B : でしたら、今のままでは私は対処のしようがないんです。だから、却下した理由を伺っています。
A : でも、他にもいろいろお話ししました。
B :「慎重に審査した」のは却下した理由じゃありませんよね? 「他にも却下された人がいる」のも理由になりませんよね? 「その提案はもっともだ。よって、却下する」ってのはまるで筋が通りませんよね? 
  あと1つ、理由になりそうなものは、あなた自身が撤回しました。
A : えぇっと、何でしたっけ?
B : あなた方が提案を「理解しなかった」というもの、あるいは「理解できなかった」というものです。
A : いや、私は「理解を得られなかった」と言ったのです。私たちは提案書をしっかり読みました。ですから「理解しなかった」は当たりません。
  そして中身をしっかり理解しました。ですから「理解できなかった」も当たりません。
B : どうしてあなたの立場と私の立場をいきなり入れ替えちゃうんですか? 「理解を得られなかった」のは私です。私はあなた方の論理を伺っているのです。あなた方がなぜ却下したのか、を聞いているんです。
A : それって言葉尻の違いだけですよね。実質的な意味は同じじゃないんですか?
B : そういうことでしたら、それでも構いませんよ。あなたは「理解を得られなかった」と説明した。私はそれを、あなた方が「理解しなかった」あるいは「理解できなかった」と受け取る。
A : いや、「理解しなかった」といって、私たちが拒絶したように思われても困ります。「理解できなかった」といって、私たちがバカみたいに思われるのも困ります。
B : ようやく話がかみ合ってきましたね。困るかどうかはあなたの問題ですから、私は口出ししません。
  でもね、私はそれ以外に受け取りようがないんですよ。提案をまともに見ていないなら、あなた方の職務怠慢です。ちゃんと見たのにわからなかったのなら、あなた方の能力不足です。
A : だからぁ、そうじゃないって言ってるでしょ!
B : ことは、その理由はボツですか?
A : 当たり前です。
B : では、何が理由なんですか?
A : しつこいですね。
B : ホントそうですね。いつまでたっても、あなたは何一つ理由を言わない。ところで、別にあなたは却下した理由を言わなくてもいいんですよ、ホントは。
A : あれっ? そうなんですか?
B : ただ「却下した」という結果だけを伝えてもいいんです。その場合は、私は「提案を、何の説明もせずに一方的につぶした」と大声で言うだけです。
  「慎重に審議した」ことを理由に挙げてもいいんです。その場合は、私は「こんなものが理由になると思ってる人たちなんだよ」と触れ回ります。
A : 脅すつもりですか?
B : えっ? 誰が誰を脅すことになるんですか? 理由を尋ねることが脅しですか?
A : いや、そういうことじゃありませんが 。。。
B : ところで、却下した理由は何ですか? 
  言わないなら言わないでもいいんだけど、言うようなフリして延々と引っ張らないでほしいな。言うなら早く言っちゃってよ。じゃないと前に進めない 。。。

 話を始めてからここまで、所要時間は約 40 分。しつこいのはAさんか、Bさんか、どっちだ? でもあと 20 分ほどで決着します。あとひといき。
 次がようやくファイナルです。

わかり合う

 40 分間のやり取りが続いた後の最後の 20 分の実況中継です。

B:ねぇ、そろそろ手を打ちませんか?(ウソでもいいから理由が欲しいの)
A:そうしましょう。(いいかげんうんざりしてるからね)
B:これまで出てきた中で、却下した理由になりうるのは「理解うんぬん」だけですね。
A:そうですね。(またそれか!?)
B:では、詰めましょう。(他には何も出てきてないんだから、しょうがないだろ!)
  ところで、その理由をどう受け取るかは、あなたと私で違っていいんですよ。
A:あぁそういうことですか。(だったら簡単に話が済んだのに)
B:はい、そういうことです。
  (あんたが持ち出して、あんたが2回も撤回したんだろうが)
  立場が違うんだから考え方・捉え方が違って当然です。
A:確かにそうですね。
B:でも、あなたが「理解を得られなかった」って言うのはダメですよ。
  この場合、立場は明確ですから、そこをずらしちゃ反則です。
A:意外とめんどくさいんですね。
B:単純です。
A:でも、そんなんでお互いにわかり合えますか?(お前とわかり合うのは無理だろうな)
B:えっ? あなたはわかり合おうとしていたんですか?(こいつ、オレの話をまるで聞いてない)
A:もちろんです。
B:あのう ・・・
  私は最初からずぅーと、却下した理由を聞いているんですが 。。。
A:あぁそうでしたね。(こいつ、病んでるのかな?)
B:話を戻しましょう。(こいつ、日本語通じているんだろうか?)
  「理解できなかった」から提案を却下したってことで行きませんか?
  これなら立派に理由になります。これでいいですか?
A:はいはい、わかりました。それで結構です。
B:ありがとうございます。ようやく回答をいただきました。
  あなた方は私の提案を「どうしようもなく低レベルでスカポンタン」
  だから「理解できなかった」と思えばいいんですよ。
A:いや、そこまでは言ってませんけど。
B:一例です。あっ、そんなことより、今のあなたの発言、「理解できなかった」という理由を撤回するって意味じゃないですよね?
A:あはは、大丈夫です。いまさら撤回しませんよ。
B:あぁよかった、安心しました。
A:ところで、あなたの方ではその理由をどのように受け取るんですか?
B:あれだけ「具体的にわかりやすくコンパクトに」書いた提案書なのに「理解できなかった」。「新しいものを受け入れられず、想像力も働かない」人たち。だから「理解できなかった」、と。
A:(キッとにらむ)
B:理由がわかって、ようやく対処法が見えました。あきらめます。
  ありがとうございました。 メリー・クリスマス!
A:はぁ 。。。

 現実のやり取りの中では、記事に書いたこと以外にボクが理解した部分・納得した部分が多々ありました。お互いによく知ってる者同士のやり取りですから当然です。
 でもね、ボクの質問に対する回答という点に限って言えば、基本的な流れは記事に書いた通りだったんですよ。もちろん、いろいろ脚色し、べたべた着色しましたが、基本的な流れはね。
 ボクは審査結果を他の仲間に伝える役回りだから、理由を知る必要がありました。 だから、聞いたんです。そしてようやく聞けた理由が、記事に書いた理由だったというわけです。
 実は「哲学同好会の設立申請」だったのですが、考えることに照準を当てようとしている団体に関することだから、ボクはきちんと理屈を通したかった。このやり取りそのものがまさに考えることだから、その団体の格好のテーマになりうると思ったし。
 実際には、記事のように物別れというか、あきらめて撤退するわけじゃありません。ボクとしては次の手を考えています。実際どうするかは、年を越してから仲間と相談しますが。
 記事の中ではあれこれ書きましたが、本当は感謝しています。ありがとうございました。

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