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あれこれ(2019後)

保険金殺人の成功率

(2019年9月 129号)

 保険金殺人の成功率はどれくらいでしょうか? 1%? 10%? 50%? それとも・・・

 保険金殺人事件がニュースになることがあります。昔から何例もありました。ところで、私たちが知っているのは失敗例だけです。成功例は知らない。成功例はニュースにならないからです。
 もちろん統計はありません。多分どこにも無い。成功例は世に知られることはないからです。ということは、成功率は意外と高いかもしれないのです。つまり、バレてしまうドジなヤツはむしろ少なくて、まんまと保険金をせしめている方が多いかもしれないのです。ニュースで聞く例は、もしかしたら氷山の一角なのかもしれないのです。
 というわけで、先ほどの【問題】の答えは「分からない」です。解答者の知識不足で分からないというわけではなくて、「答えはあるはずなんだけれど、誰も分からない、分かりようがない」が正解です。(たまにはこんな、答えが無いような問題もよろしいんじゃないでしょうか。統計ってもともと「分からないもの」を扱っているわけですし、最終的に「分からない」ものですから)

 ところで、生命保険というものは、みんなで少額のお金を出し合って、不幸にして亡くなって残された家族にそのお金をまとめて渡すという仕組みです。ただでお金をもらえるわけではありません。あらかじめ掛け金を払っているのです。
 しかもみんなが出したお金がまるまる保険金として支払われるわけではありません。保険屋の取り分があるからです。その意味では、保険の期待値はマイナスということになります。
 その事情は、宝くじや競馬と同じです。みんなで宝くじや馬券を買って、そういう形でお金を出し合って、その途中で経費や税金の形で差っ引かれて、残りのお金を幸運にして当たった少数の人に支払う仕組みです。つまり、死んで保険金を受け取ることは、宝くじや競馬で当たって賞金を受け取るのと同じことなのです。
 ところで、宝くじを買えば、当たることを夢見るでしょう。馬券を買えば、当たることを期待するでしょう。当然です。だとすれば、保険に入れば、保険金が降りることを期待するのも、ありうる話なのではないでしょうか。しかも宝くじや競馬が運任せにするしかないのに対して、保険はその気になれば自ら操作できる部分がないわけではない。そう考えると、なんとかして当てようと工作するのは心情としてまるで理解できないというわけでもないでしょう。
 話を元に戻しましょう。保険金殺人の成功率はどれくらいなのでしょうか? その確率は知りようがありませんが、絶対いるはずなのです。もしかしたら意外と高いかもしれないのです。繰り返しますが、保険も宝くじも競馬も、期待値はマイナスです。胴元の取り分があるからです。加えて生命保険では、保険金殺人に成功した人の分も、掛け金という形で負担しているに違いないのです。そう考えると、生命保険の期待値のマイナスはますます大きいということになります。
 ちなみに、我が家では誰も生命保険に入っていません。同様に、私は宝くじも馬券も買いません。職業柄、私はすぐに期待値計算してしまうから、入れないのです。でも、おかげで私は誰かに狙われる心配もないし、誰かを狙おうという野心も起こらない。こうして我が家は平和なのです。

10!秒はどれくらいの長さか?

(2019年10月 130号)

 1からnまでの整数を掛けた値を「nの階乗」と言い、「n!」と書きます。すなわち、
  n!=1×2×3×…×(n−1)×n
です。具体的には、例えば、
  3!=1×2×3=6
  5!=1×2×3×4×5=120
です。階乗は中学の数学で習うものですが、統計を学ぶ際にもしばしば登場します。ですから、高校でも一応復習する必要があります。
 では、ここで【問題】です。

◇ 10!秒はどれくらいの長さか?
  [ア] に「1ケタの数」を、[イ] に「漢字1文字」を入れて、等式を完成させてください。
    10!秒 = [ア] [イ] 間
          ↑ ↑
    1ケタの数 ┘ └漢字1文字

 では、さっそく計算してみましょう。

         60秒      60分
       ┌─┼─┐ ┌───┴───┐
10!=1×2×3×4×5×6×7×8×9×10
     │         │ │ ↓
     │         │ │3×3
     │         │ ├┘ │
     │         ↓ ↓  │
     │        7日 24時間│
     └──────┬───────┘
           6週間

よって「10!秒 = 6週間」です。(上の計算部分は等幅フォントで表示するときれいに見えます)

 この問題を生徒にやらせてみたところ、生徒はまず「○分間か、せいぜい○時間くらいだろう」と予想するようです。ところが実際に計算してみると、けっこう長い。びっくり!でしょうか。(俗に「!:びっくりマーク」とも言いますね)
 また「42日間」まで計算して、「1ケタの数」にならないと思って、何度も計算し直してみたり、挙句には「問題、間違ってないか?」と言う生徒もいたりします。「週」という単位をつい忘れるみたいで、案外盛り上がります。

予防接種の効果はいかほどか?

(2019年11月 131号)

 ある町である年に実施したインフルエンザの予防接種にどれくらい効果があったのかを調査しました。結果は、
  データ1:予防接種を受けた100人のうちインフルエンザに罹ったのは10人だった。
  データ2:予防接種を受けなかった100人のうちインフルエンザに罹ったのは20人だった。
この結果を踏まえて、2人の人がこう言いました。
  G氏:予防接種の効果でインフルエンザに罹る率が半減した。
  C氏:予防接種の効果でインフルエンザに罹る率が1割減った。
さて、この2つの発言のうち、正しいのはどちらでしょうか?
あるいは、両方とも正しいなら、妥当なのはどちらでしょうか?
もしくは、両方とも妥当なら、この2つをどのように使い分ければいいでしょうか?
それから、しっくりくるのはどちらでしょうか?
※ 2つのグループは予防接種を受けたか受けなかったかという点以外は同じようなグループと考えてください。また、2次感染・3次感染…、予防接種による副作用や罹ったときの症状の重さ・軽さなどは無視して、データ1・データ2の数だけで考えてください。


 さて、予防接種の効果でインフルエンザに罹る「人数」がどれくらい減ったかというと、
  20人-10人=10人
ですね。ところで、残りの90人は予防接種を受けても受けなくても結果は変わりません。
  ◇ 100人のうち10人は、予防接種を受けても受けなくても、インフルエンザに罹った
  ◇ 100人のうち80人は、予防接種を受けても受けなくても、インフルエンザに罹らなかった
のですから。
 では、予防接種の効果でインフルエンザに罹る「割合」がどれくらい減ったかというと、それは「何を分母にするか」によって変わってきます。
  ◇ 「予防接種を受けずにインフルエンザに罹った人」を分母にすれば、10人÷20人=50%
  ◇ 「予防接種を受けなかった人全員」を分母にすれば、10人÷100人=10%
そのように考えると、上記のG氏の発言もC氏の発言もどちらも間違っていないのです。両方とも正しいのです。
 それにしても50%(半減)と10%(1割減)では印象が全然違いますね。
  ◇ G氏のように言われると「予防接種の効果って大きいんだな」と感じ、
  ◇ C氏のように言われると「予防接種の効果ってそれほどじゃないんだな」と感じる
のではないでしょうか。さて、この差は何なのでしょう? この違いはどこから来るのでしょう?
 それは、立場の違いなんじゃないでしょうか?
  ◇ 全員が予防接種を受ければ、インフルエンザに罹る率(人数)は半減する。
  ◇ 自分が予防接種を受ければ、インフルエンザに罹る率(危険性)は1割減る。
ということですから、
  G氏は行政(Government)の立場に立っていて、
  C氏は市民(Citizen)の立場に立っている。
と受け取ればいいのでしょう。つまり、この例の場合、
  行政は「半減」と言うでしょうが、
  あなた個人にとっては「1割減」なのです。
みなさんはインフルエンザの予防接種を受けていますか?

クリスマスのプレゼント交換で確率計算してみよう

(2019年12月 132号)

 クリスマスのプレゼント交換で、みんなが持ち寄ったプレゼントを一人に1個ずつ無作為に配る。このとき「おいおい、自分が持ってきたものが自分のところに来ちゃったよ」という人が現れる確率はどれくらいでしょうか?
 実は(ア)人以上のグループであれば、クリスマス・パーティーに参加した人の誰かがそういう目に合う確率は約(イ)%になります。

 では、ここで【問題】です。(ア)に入る最も小さい自然数とそのときの自然数(イ)を答えてください。
 「約(イ)%」というのは、百分率で表した数の小数点以下を四捨五入して自然数で表した値が(イ)になるということです。
 ちなみに、その状況は「席替えしたときにクラスの中の誰かが『あれっ、前と同じ席になっちゃったよ』とそういう目にあう」のと同じです。人数が1人の場合、2人の場合、3人の場合・・・と実際に計算してみてください。たぶん見えてきます。


 では、計算してみましょう。「n人の人がプレゼント交換するとき、自分が持ってきたプレゼントが自分のところに来ちゃう人がいる確率」を p(n) とします。
  ○ 1人でプレゼント交換したら、必ず自分のものが来ちゃいますから、p(1)=1 です。
  ○ 2人でプレゼント交換すると、全部で2通りのうちの1通りですから、p(2)=1/2=0.5 です。
  ○ 3人の場合は、全部で3 ! = 6通りのうちの4通りですから、p(3)=4/6=0.66… です。
もう少し続けましょう。
  ○ 4人の場合は、全部で4 ! = 24通りのうちの15通りで、p(4)=15/24=0.625 です。
  ○ 5人の場合は、全部で5 ! = 120通りのうちの76通りで、p(5)=76/120=0.633… です。
 この辺でp(1)からp(5)までの値を順に並べてみると、1 ↓ 0.5 ↑ 0.66… ↓ 0.625 ↑ 0.633… と上下運動しながらある値に近づいていくように見えませんか。
 もしそうだとすると、しかもp(4) もp(5) も小数第3位を四捨五入して小数第2位までで表すと 0.63 ですから、n≧4 で p(n)≒0.63 となります。というわけで、【問題】の《答え》は、(ア)4、(イ)63 です。
 意外と大きい値だと思いませんか? また、人数が変わってもその値がほとんど変わらないのも意外ではないでしょうか?

 雑な説明ですみません。きちんと計算・証明するためには「漸化式を立てて解く」など高校・数学のテクニックが必要になりますので、ここでは省略しました。詳しくは、こちら(→ https://note.com/omori55/n/n25b940020af2#7brNu )をご覧ください。
 と言いながら、もう少々お付き合いください。次の問題は人数 n を限りなく大きくしていったときに確率 p(n) がどうなるか、です。実は 1−1/e になるんです。e とはネイピア数(常用対数の底)です。理系の高校生が学ぶ数学Ⅲで出てきます。e=2.718 で計算すると、1−1/e=0.6321 となります。これも確かに約63%ですね。
 なぜそうなるか、なぜこんなところに e が出てくるのかは、高校・数学の範囲を超えていますので、ここでは説明できませんが、なんだか数の不思議を感じていただけたら幸いです。

◇      ◇      ◇

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