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連載記事(2016前)

著作権の侵害にならないもの

(2016年1月 85号)

(1) 秋は文化祭のシーズンです。文化祭で発表・展示するにあたって、著作権に十分な配慮をしてください。さて〔問題〕です。次のア~オの中から、著作権法で「著作権者の許諾を得ずにやってよい」とされているものを2つ選びなさい。もちろん学校祭ですから、入場無料・出演料なしです。
  ア ステージに上り、観客の前で、人気歌手の歌をうたう。
  イ 歌の練習のために、楽譜をコピーして出演者に配る。
  ウ 生徒の作品を、本人の了解なしに展示する。
  エ 説明文の補足として、他人の文章を出典を明記して引用する。
  オ 装飾として、アニメキャラクターの絵を自分で描いて、壁に貼る。

(2) ア~オの中から、著作権法の保護の対象となっていないものを2つ選びなさい。
(保護の対象でない=著作権が認められていない=誰でも自由に使える、と考えてよい)
  ア NHKニュースで流された、津波が三陸の町を襲う映像
  イ 科学雑誌ニュートンに掲載された、原子力発電の仕組みを説明するための図
  ウ 文部科学省のWebサイトに毎日載っている、日本各地の空間放射線量測定値
  エ 朝日新聞に掲載された、東日本大震災復興基本法の内容をまとめたもの
  オ 読売新聞に掲載された、復興特例公債法の条文

 東日本大震災が起きた年の暮れに出した問題です。
 さて、著作権を授業で扱うと「あれやっちゃダメ、これやっちゃダメ」という話になりがちですが、それじゃ何もできなくなっちゃいそうで、結局は何の指針にもならないでしょう。
 また「やっていいこととやっちゃいけないことの間に線引きする」のも無理があります。現実にはグレーゾーンがたくさんありますし、そもそも合法・違法の判断をするのは裁判官の仕事であって教員の仕事ではないはずです。
 むしろ大事なことは「やっていいことをきちんと押さえる」ことではないでしょうか。著作権法の第三十条~第五十条に「一定の条件の下で利用者が著作物を利用/複製できる」場合が示されています。
 この問題は「著作権法で『やっていい』とはっきり書かれているもの」を選ばせる問題です。
 さて、この問題の答えは、

(1) ア 営利を目的としない上演等   (著作権法 第三十八条)
  エ 引用             (  〃  三十二条)
(2) ウ 単なるデータ(著作権法 第二条の「著作物の定義=創作的に表現したもの」に該当せず)
  オ 憲法・法令・判決など     (  〃  十三条)

です。
 これらは、遠慮せずに正々堂々とやっていいのです。もちろん勝手に拡大解釈するのは禁物ですが。
 他のものはやらない方が無難でしょう。あえて「違法」とは呼ばずに「グレーソーン」と呼びたいと思います。(「裁判に訴えられても勝つ自信があるなら、どうぞ」と私は授業で言っています)

2015 の回文っぷり

(2016年2月 86号)

【問題】「たけやぶやけた」のように、上から読んでも下から読んでも同じ言葉になるものを回文といいます。
 さて、年が明けて2016年になって、すでに2015年は終わってしまいましたが、実は2015年は回文年でした。というのは、2015という数が見事な回文数だからです。
 もちろんそのままでは回文ではありません。前から読むと「2015」で、後ろから読むと「5102」ですから、まるで違います。けれども、2015を素因数分解すると、回文になるのです
    2015=13×5×31
ほら、見事な回文になりました。右辺は、右から読んでも左から読んでも「13×5×31」ですね。

 では、ここで【問題】です。十進数の2015を二進数で表しなさい。

《解答》
 なにはともあれやってみましょう。
(※ ここでは上付き文字が使えないので、「2のn乗」を「2^n」と表記します)
    2015=1024+512+256+128+64+16+8+4+2+1 (← 32 が抜けている)
      =2^10+2^9+2^8+2^7+2^6+2^4+2^3+2^2+2^1+2^0 (← 2^5 が抜けている)
      =11111011111 (2)
おやっ、またまた見事な回文になりました。二進数表記したものは、右から読んでも左から読んでも「11111011111」になります。
 というわけで、《答え》は「11111011111」です。

《解説》
 なんのことはない、単に十進数を二進数に変換するだけの問題といえばそうなのですが、たまたまきれいな回文風の数になったものですから、問題を作ってみました。2015を素因数分解すると回文風になるという話はネット上で見かけたものです。
 実はこの問題を思いついたのはつい最近のことで、実際の試験にはまだ出していません。2015年は終わってしまったけれど、2015年度ということならあと1回だけ使うチャンスはありますが。
 試験に出していないので何とも言えないのですが、もし出したら正答率は思いのほか高くなるんじゃないでしょうか。というのは、2015という大きな数を二進数に直すと計算ミスが頻発しそうですが、上のように出せば生徒たちは「回文になるのかな?」と思いながら計算するでしょうから、計算ミスは減ると思うのです。回文風の結果が出た生徒は自信をもって答え、そうならなかった生徒は計算し直して、多くの生徒が正解に辿り着くような気がするのですが、いかがでしょうか。

東京特許許可局はどこにあるか?

(2016年3月 87号)

【問題】次の文章が正しければ解答欄に「○」を書き、正しくなければ〔 〕内の言葉をふさわしい言葉に書き換えなさい。
(1) 著作権は〔役所に届け出て認められた〕時点から発効する。
(2) 東京都民が特許を申請しに行く役所は〔東京特許許可局〕である。
(3) 著作権を英語で〔Write Right〕という。

 知的財産権に関する誤文訂正の問題です。

(1) 特許権などは「役所に届け出て認められた時点から発効」しますが、著作権は「届け出などしなくても、創作した時点で発行」します。というわけで、正解は「創作した」です。「作った」でもまぁいいでしょう。「発表した」や「作り始めた」はバツでしょうか。「完成した」ならよさそうですね。

(2) 「東京特許許可局」は実在しません。架空のものです。霞が関の端から端まで探しても、都庁ビルの全フロアの隅から隅まで調べてもきっと見つからないでしょう。もしかしたら地下X階の端っこに・・・いや、たぶん無いでしょう。
 では特許権をどこに申請したらいいかというと、「特許庁」です。都民だろうが県民だろうが、特許庁です。経済産業省の一部ですから「経済産業省」でも良いかもしれませんね。

(3) 「著作する」とは「書くこと」ですから「著作」を英訳すると「Write」になりそうですね。「権利」はもちろん「Right」です。というわけで、著作権を英訳すると「Write Right」・・・ごめんなさい。ウソです。おやじギャグですみません。
 もとい。「著作権」を英語でいうと「Copy Right」です。つまり著作権とはずばり「コピーする権利」なわけです。日本の著作権法では著作権の一部として「複製権」があるという形になっていますが、やっぱり「コピーする権利」が著作権の最も基本的な権利だと考えるべきなんでしょう。

 以上から、正解は (1) 創作した (2) 特許庁 (3) Copy Right です。

 ところで実際に採点してみると「○」と書いた答案がちらほらありました。意外と○が多かったのが(2)でした。「東京特許許可局」が間違いであると分かっていても、「特許庁」という単語が出てこなかったのかもしれません。でも、役所名を覚えることにあまり意味はないと思うし、要するに私が「東京特許許可局」と言いたかっただけなので、出来なくても気にしないでくださいね。(3)でご丁寧に「Write」を過去分詞形に直しているものもありました。なるほど現在形よりは近づいた感がありますが、外国人に伝わるでしょうか。

ザツから始めてマシにする

(2016年4月 88号)

 文化祭のシーズン、会場では警備体制を敷く。最近ではそういう学校が多い。ガードマンを配置したり、教員が巡回したりして、怪しい人物がやってきたらマークするなり、お引き取り願うなりして混乱を防止する。
 さて、そういうときの判断基準は、見た目。「人を見た目で判断するな」というが、不特定多数の中からターゲットを絞るには他にどんな基準があるだろう。もちろん、見た目で悪人と決め付けているわけではない。いわば、見当をつけているのだ。そして往々にして外れる。
 ところで、似たような判断の仕方は〔IT機器でもネット技術でもいろんなところで使われている〕(2)。たとえば、手書き文字判読システム。読みにくい文字でもとりあえずいずれかの文字と判断して、ユーザーが修正すればユーザーのクセを学習して、少しずつ精度を上げる。そして使えば使うほどヒット率が向上する。これは情報技術の1つであるが、ベースには「ベイズ推定」という定式化された理論がある。それは、ざっくり言えば、高校数学で習う「条件付き確率」に他ならない。
 「人を見た目で判断」するのも結局はそれと同じことをしているのである。まず、見た目で「怪しい」と思う。言葉は悪いが、仮に「悪人率50%」と判断したとしておこう。そこで声をかける。そして相手の顔を見る。穏やかな表情ならその率を下げ、慌てた様子ならその率を上げる。次に相手が声を出す。「なんですか?」ときたら率を下げ、「なんだてめぇ」ときたら率を上げる。 ・・・
 人の感覚による判断とコンピュータによるデータの蓄積という違いはあるが、「はじめに(A) 、続いて(B) 、しかし(C)」という流れは全く同じなのだ。
 その点については、情報科の授業でやった「モデル化とシミュレーション」も似ている。いろんな社会現象や自然現象をシミュレーションする際に、それに影響を与えるすべての要因を盛り込むことはできない。だから正確に再現することはできないが、シンプルなモデルでうまくシミュレーションできたら、より複雑でより現実に近いモデルを作ることもできるだろう。
 「見た目で判断」であれ「ベイズ推定」であれ「モデル化とシミュレーション」であれ、それから得られるものは「正しいもの」ではなくて、「マシなもの」である。それで十分役に立つ。

(1) 空欄(A),(B),(C)に入れるのに適当な文を、各1行で書きなさい。
(2) 〔 〕(2) の例を「手書き文字判読システム」以外に1つ挙げなさい。

 「情報の科学」にある「モデル化とシミュレーション」をやった後の定期試験に出した問題です。設問は、難しいというより、無茶な問題だったかもしれませんが、答えを見れば「なるほど」と思っていただけるんじゃないでしょうか。問題文を読むことで情報技術の一端を感じていただけたら幸いです。(なお、ベイズ推定に関する試験問題は2015年11月発行のメルマガ83号にも載せました)

<解答例>
(1) A (はじめに)雑な基準でとりあえず判別する
 B (続いて)データを集めながら少しずつ精度を上げる
 C (しかし)どこまでいっても正確なものにならない

(2) 漢字変換の候補/グーグル検索のヒット率アップ/迷惑メール自動判別/アマゾンのお勧め本 など
※ 指紋認証などはダメ。自動学習されたら、すぐに破られる。

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