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場合の数の数え方 と 確率の数え方 の違い

 「場合の数を求めるときの数え方」と「確率を求めるときの数え方」は実は全然違います。この点を分かっていないと、確率の問題でしょっちゅう間違えることになります。教える方はそのことを生徒にきちんと伝えないと、生徒たちが出来るようになりません。
 どこが違うかというと、「区別するか、しないか」という点。そしてそこを自覚的にやらないと、なかなか正解に行き着かないのです。
 それを実感するための問題を3題用意しました。【1】は基本問題。ここでくどくどと説明します。その後で練習問題を1つ出します。トライしてください。

【1】 1 円玉、10 円玉、100円玉が3枚ずつ、全部で9枚ある。
  この中から3枚とる。
  (1) 異なる金額は全部で何通りあるか。
  (2) 3枚の合計金額が 111 円になる確率を求めよ。

【1】(1) ひたすら全部書き出せば良い。

3円 , 12円 , 21円 , 30円 , 102円 , 111円 , 120円 , 201円 , 210円 , 300円
の 10通り

 ところで (1) では「1 円玉3枚を区別していない」ことに注目しよう。ここでは金額が問題になっているのだから、金額が異なるコインは区別するが、金額が同じコインは区別しないで数える。当たり前と思うだろうが、確認しておく。

(2) まず典型的な間違いは「(1) の 10 通りのうち 111 円になるのは 1 通りだから、$${\dfrac{1}{10}}$$」というもの(実際そのような誤答が多い。上のように (1) に続けて (2) を出すと、(2) の誤答率がアップする)。なぜ間違いかというと、(1) の 10 通りのものが起きる頻度が等しくないから。
 ここで確率の計算法を確認しよう。

起こりうるすべての場合の数が $${n}$$ 通りで、そのうちある事柄が起きる場合の数が $${k}$$ 通りとする。
この $${n}$$ 通りの起き方が「同様に確からしい」とき、その事柄が起きる確率は $${\dfrac{k}{n}}$$

 つまり (1) の10通りの起き方が「同様に確からしい」わけではないので、$${\dfrac{k}{n}}$$ とやっても正しい確率は求められないということだ。
 では、どうするか? 「同様に確からしい」が守られるように数えるしかないわけだ。
 どうやって? 「同じ金額のコインを区別して数える」ことで、その条件を満たすのだ。
 ここで (2) の正解を示そう。正解は、

$${\dfrac{3\times3\times3}{_9\textup{C}_3}=\dfrac{9}{28}}$$  ・・・(A)

さて、正解が出たからといってまだ話は終わらない。最初に言ったように「何を区別して、何を区別しなかったのか」を自覚的に振り返ってみよう。
 (A) の分母(起こりうるすべての場合の数)を見てみよう。$${_9\textup{C}_3}$$ の 9 は何を区別したのかしなかったのか、C は何を区別したのかしなかったのか、言えるかな?
 ここで $${_n\textup{C}_r}$$ の意味を確認しよう。

異なる $${n}$$ 個の中から(重複を許さずに)$${r}$$ 個取り出すが、
取り出す順番を区別しない場合の数

 すなわち「9」と書いた時点であなたは「9 個のものを区別した」ということだ。つまり 9 枚のコインを全部区別しているということだ。金額の異なるコインはもちろんのこと、金額が同じコインであっても「便宜上区別して数えた」ということである。
 また「C」と書いた時点であなたは「取り出す順番を区別しなかった」ということだ。つまり 3 枚のコインをガバっと一発で取ったようなイメージだ。実際には 1 枚ずつ 3 回に分けて取ったのかもしれないが、「便宜上同時に取ったものとして数えた」ということである。

 細かい話だと思うだろうか。でも、この点をクリアにしておかないと、場合の数・確率の問題で正しい値が出せないのだ。確率が苦手な人は、その点がクリアになっていないからなのだ。この点さえクリアにすれば、あなたは確率が得意になる。だから、私は今くどくど語っているのである。
 話を続けよう。設問 (2) で「なぜコインを全部区別したのか? なぜ取り出す順番を区別しなかったのか?」
 その訳は、コインを区別しないと「同様に確からしい」が守られないからだ。そこが崩れると正しい確率が求められないので、この問題ではコインを区別することは必須なのである。
 一方、取り出す順番は区別しなくても「同様に確からしい」が守られる。ならば、取り出す順番を区別しないで数えた方が場合の数が少なくて済む。だから、取り出す順番を区別しない方が計算が楽なのである。もし「取り出す順番を区別する」なら順列 $${_9\textup{P}_3}$$=504 通りになるのだが、そしてそれで計算しても良いのだが、それでは総数が多くなって計算が面倒だ。結局のところ、組み合わせ $${_9\textup{C}_3}$$=84 通りで計算した方が楽だということだ。
 次に、(A) の分子についても確認しよう。ここで確認しておかなければならないことがある。それは「区別するかしないかを分子と分母(総数)とそろえなければならない」ということ。(A) では分母(総数)を数えるにあたって「コインは全部区別して、取り出す順番は区別しなかった」のだから、分子(111 円になる場合の数)を数えるときも同じように数えないといけないということだ。
 だから (A) の分子が「3×3×3=27 通り」なのだ。1 円玉を区別するから 3 通り、10 円玉も区別するから3通り、100円玉も区別するから 3 通り。でも順番は区別しない(「1 円玉→10 円玉→100円玉」の順でも「100円玉→10 円玉→1 円玉」の順でも同じ)ので「3×3×3=27 通り」。そういうわけだ。

 ではここで「場合の数の数え方と確率の数え方の違い」についてまとめよう。

 まず「場合の数」の問題で「何通りか?」と聞かれたときは「区別するかしないか」は問題文に書いてある(もしくは状況から読み取れる)ので、それに従えばよい。
 それに対して「確率」の問題で「確率を求めよ」と言われたときは「区別するかしないか」は問題文に何て書いてあるかは関係ない。「同様に確からしい」を守ることが絶対条件で、それさえ守ればあとはなるべく簡単に計算できるように「区別するかしないかをあなたが決めればよい」。そういうことだ。

 コツを言うなら、

 何でもかんでも区別すれば「同様に確からしい」は守られる。だから何でもかんでも区別すれば、安心と言えば安心。けれどもそれでは総数が増えてしまうので、計算が面倒になりがち。
 だから「同様に確からしい」を崩さない範囲で、区別しないでまとめて処理できるものは区別せずに数えた方が楽。けれども「区別しない」のをやりすぎて「同様に確からしい」が崩れてしまったら、その瞬間にアウト。正しい確率が出せなくなる。
 だから「同様に確からしい」を崩さないギリギリのところまで「区別せずに」数える・・・これが確率のコツ。

 ながぁーい話だったが、お分かりいただけただろうか。お分かりいただけたなら、次の【問題】にトライしてみよう。

【2】ひもが3本ある。両端6個を2つずつに分けて3回結ぶとき、
  大きな1つの輪ができる確率を求めよ。   (名古屋市大 2000年)

 ポイントは「何を区別して、何を区別しないか」、それを自覚すること。答えは こちら に 。。。

◇      ◇      ◇

順列と組合せとその周辺 〜 
▷ 重複順列と重複組合せ        
▷ パスカルの三角形の裏事情      
▷ 3項定理とパスカルの四面体     
▷ 場合の数の数え方と確率の数え方の違い

確率名人への道 〜 
【1】 場合の数の数え方 と 確率の数え方 の違い
【2】 ひもを結ぶ問題            
【3】 だまされやすい確率          
【4】 気づきにくいダブりとモレ       
【5】 数学でアクティブ・ラーニング例    

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