あれこれ(2019中)
人工知能に文系も理系もない
(2019年5月 125号)
人工知能の燃料は、ビッグデータです。すなわち統計なくして人工知能は動きません。
燃料を力に変えるエンジンが、数学です。エンジンが変われば、得られる力も変わります。
そしてそれらを制御するのがプログラミング。規則正しく事を進めるための仕様書です。
すなわち「統計+数学+プログラミング=人工知能」と言っても過言ではありません。
統計で大事なのは「社会を見る目線」です。数字の処理より、むしろ感性が大事です。
また、ここでの数学の使い方は、理論をはめ込むことです。計算は機械がやります。
そして、プログラミングは言語です。その工程は翻訳作業・編集作業に似ています。
ですから人工知能に文系も理系もないのです。それは今どきの一般教養であっていい。
数学が嫌い・苦手だという人こそ、統計とプログラミングと人工知能を学びましょう。
数学は「(a) 抽象的で、(b) リアリティーが無くて、(c) どこで役に立つかわからない」と言う人がいます。
確かに受験数学と一部の授業にはそういう面があるかもしれません。残念ながら。
でも、統計とプログラミングと人工知能は十分に「 (1) で (2) で (3) 」ですよー。
では、ここで【問題】です。上の文中の (1) に (a) の反対語を入れ、(2) に (b) の反対語を入れ、(3) に (c) の反対語を入れて、文章を完成させてください。次の[選択肢]から選んでください。
[選択肢] 具体的 実用的 現実的 主体的
文学的 恣意的 有機的
前々回・前回と続いてきて、だんだん国語の問題みたいになってきちゃいました。すみません。
《答え》は、順に「具体的(⇔抽象的)、
現実的(⇔リアリティがない)、
実用的(⇔役に立たない)」
のつもりです、一応。
本文の繰り返しになりますが、言いたいことは
◇ 統計+数学+プログラミング=人工知能
◇ 人工知能に文系も理系もない
◇ 数学が嫌いでも苦手でも、統計・プログラミング・人工知能をやろうよ
ということです。
うちの学校では高校1年で情報科を学び、高校2年から文系と理系に分かれます。つまり高校1年の前半に情報科を学びながら文系に進むか理系に進むかを決め、進路を決めた後に情報科の後半の授業が続きます。そういうタイミングですから、私は生徒たちに上の話をするわけです。ITは理系の専売特許じゃない、むしろ文系の方が向いている面もある、数学が嫌いだから苦手だからとITをやらないのはもったいない、と。文系出身の優秀なプログラマー・研究者だっていくらでもいますから。
NHKのスペシャル番組をみよう
(2019年6月 126号)
NHKではいろんな番組をやっています。高校生の興味関心を育てるのに、これを有効に使わない手はないでしょう。普段はアニメやバラエティ番組ばかりみていても、時には「ドキュメンタリー/自然物/科学物/歴史物/海外物/社会問題…」などもみてほしいですね。
そこで、私が夏休みにレポート課題として出している「NHKのスペシャル番組をみよう」を紹介します。「NHKのスペシャル番組」と銘打っていますが、シリーズ物の1回分でもよし、あるいはそれに匹敵する民放の番組でもよしとしましょう。ただし、ニュース・スポーツ・音楽・ドラマなどは除きます。
《レポートの書き方》
A3用紙に両面印刷して半分に折って、A4サイズ4ページ構成のプリントを配ります。
○ 1ページ目は「表紙」で「番組名・放送局・放送日時」と「氏名」を書きます。正確に記録を残す練習も兼ねています。
○ 2ページ目にテレビ番組の内容を「要約」します。ここでの主役はテレビ番組です。あなたの意見や感想を書いてはいけません。
○ 3ページ目に番組をみて「発見したこと・考えさせられたこと・疑問に思ったことなど」を2つ書きます。ここにあなたの独自性が現れます。
○ そして最後の4ページ目に、友達に向けての「紹介文」を書きます。ただし「面白いから見てください」みたいな口先だけの誘い文句は使用禁止です。
ところで、夏休みの宿題といえば、読書感想文が定番ですね。それとこの課題を比べてみると、さて違いはどこにあるでしょうか。
本とテレビの違い、フィクションとノンフィクションの違い、などもありますが、レイアウトも違います。読書感想文では何を書けという指示は一切なくて、与えられるのは原稿用紙のマス目だけ。この課題では書くべきことを最初から分けていて、どこに何を書くかを具体的に指示しています。
さて、私は課題を出した方の立場ですから、夏休みが明けると、それをたくさん読むことになります。これが結構楽しいのです。自分が見ていなかったテレビ番組の内容がわかって、1クラス分の課題を読むと、私自身も夏休みにたくさんのテレビ番組を見たような気になります。むしろ直接テレビを見るより効率的とも言えるくらいで、「意外とお得な役回りだなぁ」と思ったりしています。
私だけではありません。課題を提出する間際に、生徒同士で書いたものをお互いに見せ合っていたりするのです。「あっ、その番組、僕も見た!」とか、「へぇー、おもしろそうだなぁ」とか、そんな声が聞こえてきます。読書感想文ではありそうにない光景でしょうけれど、この課題では最後に「紹介文」を書いているわけですから、生徒たちは他の人に「見てほしい」と思うようです。
そしてまた、この課題を通してNHKなどの番組を見てみようという気になってくれれば、課題として大成功です。これからの大学入試では「いろんなことに興味・関心を持つ」こと、並びにそれを「他人に伝える」ことがとても大事な要素ですから。
DeleteキーとBackspaceキーの共通点と相違点
(2019年7月 127号)
4月、情報科の授業はターピング練習から始まります。その際、ただ早打ちさせても仕方がないと考えて、私は短い文章を書かせています。例えば、次のようなものです。
【1】パソコンで日本語を入力する場合、Spaceバーには2つの働きがあります。どんな場合にどのように働くかを、2つに分けて説明しなさい。
【2】パソコンで日本語を入力する場合、Enterキーには2つの働きがあります。どんな場合にどのように働くかを、2つに分けて説明しなさい。
これを生徒たちはワードで入力するわけですから、その際にSpaceバーもEnterキーも使っています。そしてそれぞれ2つの働きを自然と使い分けているんですね。でも、それを言葉にしようとすると意外と難しい。
生徒たちの典型的な答え方はこうです。Spaceバーは「漢字変換とスペース入力」、Enterキーは「確定と改行」。こんな答え方が多いんですが、設問の「どんな場合にどのように働くかを、2つに分けて」という条件をまるで満たしていません。ですから、その書き方ではボツです。
《解答例》は次の通りです。
【1】入力した文字が未確定のときは漢字変換をし、確定した後はスペースを入力する。
【2】入力した文字が未確定のときは文字を確定し、未確定の文字がない場合は改行する。
こんな練習をした後の定期試験で、次の【問題】を出しました。
【問】ワープロで文書を作成中に、「Deleteキー」と「Back spaceキー」のどちらを押しても同じ結果になる場合もあれば、使うキーによって違う結果になる場合もある。
(1) どういう場合にどのように同じ結果になるのかを、簡潔に説明しなさい。
(2) どういう場合にどのように違う結果になるのかを、簡潔に説明しなさい。
《解答例》
(1) 文字列を選択したとき、
(どちらのキーを押しても)選択した文字列が消去される。
(2) 文字と文字の間にカーソルを置いたとき、
「Deleteキー」を押すとカーソル位置の後ろ(右)の文字が消去され、
「Back spaceキー」を押すとカーソル位置の前(左)の文字が消去される。
念のため申しますが、うちの学校の情報科の授業ではWindowsマシンを使っています。MacだとBack spaceキーがありませんから、Macを使っている学校ではこの【問題】は使えませんね。悪しからず。
ところで、今年4月発行のメルマガ124号にも書きましたが、プログラミング的思考の大事な部分は「言葉に表すこと」だと私は思っています。分かりきっていることをきちんと言葉にすることはとても重要です。そしてそれって案外と難しいことでもあるのです。
宮沢賢治の童話に見る、個性・差別化・あるがまま
(2019年8月 128号)
森のどんぐりたちが「どのどんぐりが一番えらいか?」で言い争っています。「大きいのか、丸いのか、とがっているのか…」。どんぐりたちは、差別化を望み、個性を主張し合い、お互いに競争しているようです。宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」はそんなお話です。
裁判長の山猫は、困って一郎に意見を求めました。そして一郎が判決案を出します。山猫はどんぐりたちにその通りに申し渡して、争いはすぐに収まりました。
さて、出された判決はどんなものだったのでしょう。みなさんも、ちょっと考えてみてください。
判決は「いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらい」でした。毎年繰り広げられて今年も三日間ももめていた争いをものの1分半で解決したのですから、さすがに名判決だと言えるでしょう。おそらくこの判決は、多くの読者にとって予想外のものだったんじゃないでしょうか。そして、その判決に、心が躍るような楽しさ・嬉しさを感じたんじゃないでしょうか。
さて、この判決の真意は何でしょう。結局、どのどんぐりがえらいのでしょうか。またこの判決を聞いて、どんぐりたちはなぜ「しいんとして、堅まってしまった」のでしょうか。どんぐりたちは、そのとき何を考えていたのでしょうか。
では、【問題】です。下のA,B,Cからあなたが判決の真意と考えるものにもっとも近いものを選んで、なぜそのように考えるのかを説明してください。その際、判決を聞いてしいんと堅まりながらどんぐりたちは「何を考えていたのか」についてのあなたの考えを含めること。
(A) どのどんぐりも全部 同じ。
(B) どのどんぐりも全部 えらい。
(C) どのどんぐりも全部 ばか。
頭で理屈で考えるのではなく、あなたの心の声を聞いてみてください。判決を聞いたときの驚き・感心・ウキウキ感を思い出せば、答えが1つに絞れるのではないでしょうか。
ことわざ「どんぐりの背比べ」はAプラン、SMAPの「世界に一つだけの花♪」はBプラン、Cプランは「ケンカ両成敗」、そんなところでしょうか。
文学はいろんな読み方ができるものです。この設問もどれが正解ということはありません。ただこの設問に答える上で大事なことは「立ち位置を決めたら、ブレないこと」です。立ち位置を決める前のフラフラした状態のまま書き始めたのでは、一貫性のあるまとまった文章は書けないでしょう。
この課題、授業中に1時間かけてやっても良いでしょう。始めに童話全文(あるいはあらすじ)を読んで、まず(A) , (B) , (C)のいずれかで1つ文章を書く。ワードなどで打たせても良いでしょう。そして、時間に余裕がある人は2つ目を、さらに余裕がある人は(A) , (B) , (C)のすべてのプランで1つずつ、合わせて3つ書く。3つそれぞれを考えてみれば、読みが深まるとともに、書き上げた3つの文章のいずれもがくっきりとしたものになることでしょう。《文章例》はこちら(→ https://note.com/omori55/n/n3d8d8ed7d6d9 )をご覧ください。
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