クレール・ドゥニ「美しき仕事」

全く期待せずに観たが、いい作品だった。
蓮實重彦がもうひとつな映画監督として名前を挙げていた。確かに何か突き抜けてはいない。冒頭のクラブで人物のクローズアップでつないでいくところからいまいち興味が湧かず、やたらと人物アップが多いことに辟易していた。
ところが、ドニ・ラヴァン演じる外人部隊の軍曹が新人として入隊してきたサンタンと彼の上官を引き離すために、道を作ることを口実にして、岩だらけの場所で地面を掘る(道路を整備する作業?)シーンあたりから、映画への興味が湧いてきた。
ただ、ひたすら部隊の訓練、食事が続いていくのだが、何か映像から目が離せない吸引力があった。それはもちろん、ドニ・ラヴァンのサンタルへの嫉妬という物語としての吸引力ではない。その吸引力が何だったのか色々考えてみても分からない。そういうところがSight and Soundで最高の映画の7位に選ばれた所以であり、蓮實重彦がいまいちな監督として名前が挙げられる理由なのかもと自分勝手な解釈をしてみた。
しかし、ニール・ヤングの「Safeway Cart」が部隊が岩だらけの場所を走るシーンで流れてきた時はニヤニヤしつつ、なぜこの曲を選んだのかさっぱり分からなかった…。
サンタンが隊の規律に違反したことで隊から離れた場所に連れて行かれて隊に戻ってくる罰を与えられる。その途中でコンパスを見た際にコンパスの磁石が回り続ける。見終わった後、観客の男性が「あれはドニ・ラヴァンの意地悪では?」
と言っていた。なるほど、そういう解釈もできるとやはり映画は映画館で観るといいなと思って帰路に着いた。

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