鈴木英夫「目白三平 亭主のためいきの巻」

冒頭のクレジットでの雨のシーンから、主人公目白三平が出勤前に靴が古くなり、雨が染み込んで来ることを妻にコボすシーンへとつながっていく。この靴が映画の終わりの夫婦の関係修復の伏線となっている。
玄関を真横から撮る構図で目白三平演ずる笠智衆がカメラの方に向いた時、彼の顔が下から照らされ、サスペンスのような雰囲気が突如現れる。

目白三平が出勤した後、団令子演ずる新婚夫婦の妻と夫が仲人の礼を言いに目白家にやってくる。
その会話途中での三平の妻の望月優子の唐突な顔のアップが挿入される。
その時のセリフは覚えてないが、とにかくアップにするような劇的なセリフではなかったと思う。

養老院に手紙を出した三平の次男冬木が返事をくれた老女に会いに養老院へ行くシーンは、物語から逸脱した「不要な挿話」である。
老女の返信内容がナレーションで流れる中、何か狭い塀のようなものの上を空を背景に歩いていくショットが特に印象的だ。

左卜全が年老いた気の弱い押売りとして現れるシーンは、その老人の寂しげで哀れさを感じる様子に養老院の老女もこんなに寂しく、哀れなのでないかと思わせ、冬木を老女のもとへ向かわせるきっかけとなる挿話だと思うが、左卜全の存在感の方が物語を超えている。

物語から逸脱しているこれらの細部こそ、本作が「映画」であることの理由である。


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