メイズルス兄弟「セールスマン」

まず歩第一の感想は、これはドキュメンタリーなのだろうか?ということ。
登場人物は、聖書のセールスマンで俳優ではないのだが、あまりにも自然な言動をカメラの前で「演じている」ように見える。
そして、その言動をカメラは的確な(事前にリハーサルをしたかのように)位置と構図で捉えている。
いわゆる「ダイレクト・シネマ」と呼ばれるドキュメンタリーで、音楽もナレーションもない。
「ワイズマンのように」というありふれた形容が浮かんでくるが、ワイズマンのような「自然なドキュメンタリー」ではなく、「フィクションのようなドキュメンタリー」だ。
登場する人物たちは、自らの言葉を信じていないように見える。ただ豪華に装丁された聖書を売るという目的のために、言葉は発せられ、買わなかった人たちへの悪態はつかれ、買った人たちには感謝の言葉ではなく、徒労のようなお世辞が話される。
中でも、それぞれのセールスマンたちが聖書販売への決意を述べるミーティングのシーンでは、いくらの売り上げを上げるという目標の言葉の空虚さが際立つ。

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