三宅唱「ケイコ目を澄ませて」

手話の文意が映像下部の字幕ではなく、インサートタイトルで表示されるのを観た時、本作は傑作だと思った。
しかし、劇中で全ての手話がインサートタイトルで説明されるわけではない。最初の主人公と弟の家賃の会話、主人公がボクシングを休みたいとノートに会長宛てに書いた手紙の後に交わされる弟との会話のみインサートタイトルが挿入される。

川辺のカフェでケイコと聾者の女性二人が手話で話すシーンでは字幕もインサートも出てこない。

光と影も印象的なシーンを作り出している。

河岸に佇むところを警官に職質された後、電車の高架下を通る時に、鉄橋の上を通る電車の光がケイコを照らし出す。そして、電車の動きに合わせてケイコが闇と光の間に浮かび上がる。

ケイコが乗るバスが首都高(?)のトンネルから出ると、車内に光が入り込みケイコが陰から光の中に現れる。

圧巻は、対戦したボクサーに挨拶をされたケイコが土手を画面右手に駆け上がっていく姿をカメラが追っていくと、正面に光を受けていたケイコが土手の上でシルエットとなり、画面右手にシャドウボクシングをしながら走り過ぎていく。

そして、本作は音と動きについても興味深い。
ミットを打つ音、ボクシングのステップなどミュージカルの歌と踊りのような豊かな側面も持っている。

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