リルケ「やもめの歌」

はじめのうちは人生も親切でした
人生は私を温か抱いてくれ 元気をつけてくれました
人生が若い人にはだれにもでもそうすることが
どうしてあのころのわたしに悟れたでしょう
人生がどんなものかを知らなかったのです────
ふいに人生は ただ年を追うだけになり
もう良くもなく あたらしくもすばらしくもなくなりました
まるでまんなかで二つに裂かれたように

それはあの人の罪でもなく わたしの罪でもありません
わたしたちはふたりとも辛抱してばかりいたのです
でも死のほうには 辛抱する気がないのです
わたしは死がやってくるを見ました(なんといういやな来かたでしょう)
わたしは死がつぎつぎに奪ってゆくのを見つめていました
取られたものは もともとわたしのではなかったのです

それでは一体 何がわたしの物 わたしの わたしの物だというの?
わたしのみじめささえも
運命からの借り物にすぎなかったのかしら?
運命は幸福だけでなく
苦痛も悲鳴もとりもどそうとします
滅亡を古(ふる)で買うのです

運命はやってきて わたしの顔の
表情という表情をただで手に入れました
歩き方までもってゆきました
それは毎日つづく蔵払いでした
わたしがこうして空になると 運命はわたしを捨てて
あけはなしにしていったのです

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