VRライブのイマとミライ~VRライブの可能性と未来を語る
このところ、私が足繁く通っているのが「VRライブ」です。
VRライブとはその名の通り、バーチャル空間で開催される音楽ライブのことです。最近はRealityのような3D配信プラットフォームを始め、clusterやVARKなど、VR環境をメインターゲットにしたプラットフォームでの配信も増えて来ています。特にアーティストとしての活動に重点を置いているVTuberの皆さんはかなり力をいれてきているようですね。
私の知っている範囲でも、大御所の輝夜ルナさんをはじめ、朝ノ姉妹プロジェクトの朝ノ瑠璃さん、Realityの顔でもあるHIP-HOPユニットKMNZ(ケモノズ)、cluster公式のアイドルユニット「バーチャルアイドル(仮)」など、数々の”VRライブ”が開催されています。
私自身、朝ノ瑠璃さんの1stVRライブとバチャ仮のライブ、KMNZの2nd VR LIVEに参加しました。
こうしたVRライブは、今でこそ物珍しいですが、今後爆発的に広がっていくのではないか?と私は考えています。それはVRライブというものが、ファンにとっても、アーティストにとっても大きなメリットがあるためです。
今日はそんな「VRライブ」を、ファンとアーティストそれぞれの視点から考え、そのメリットと、今後の課題になるであろうポイントについてお話したいと思います。
キーワードは「VRは人を自由にする」です。
◆場所と時間が自由になる
まず、VRライブの特徴となる点を、現在一般的な現実世界でのライブ(以下リアル・ライブ)と比較して見てみましょう。
リアル・ライブは、参加するには当然ですがコンサート会場へ足を運ばなければなりません。当然現地への移動手段や移動時間、交通費が必要ですし、遠方の方などは前泊・後泊など宿泊費も必要になるかもしれません。
一方、VRライブの会場は、当然VR空間です。観客はVRゴーグルやPCモニタ、ヘッドホンなどを介して、ネットワーク経由でライブを視聴(参加)します。つまりネットワークと視聴用のデバイスさえあれば、自宅でも出先でも、あるいはカラオケボックスなどでも、場所はどこでもよいわけです。
当然、移動時間や交通費は不要となります。言葉にすれば簡単ですが、このメリットの大きさは計り知れません。これはファンから見ると、
・参加のための時間的、金銭的なコストが大きく下がる(=ライトなファン層や、忙しい人なども気軽に参加できる)
・人混みが苦手な人、健康上の理由がある人も参加しやすい
・特に開催地が遠い地方のファンにとってはメリットが大きい
…などなど、こうしたファンにとってのメリットの一方で、アーティストや主催者にとってのメリットも大きいです。なにしろ会場へ移動する必要がないのは、ファンだけではなくアーティストも同じなのです。
・リアル・ライブのコンサートツアーのように、全国を巡業する必要なしに地方のファンを集客できる
・アーティストが移動する必要がない(スタジオ内ですべてが完結する=交通費などが圧縮できる)
一言でいえば、コストを抑えたまま多くのファンへアクセスできるようになるのです。特に海外ファンへのアプローチに対するハードルは劇的に下がります。
最近、様々なVTuberがBilibili動画で中国進出をスタートしているのが、その証拠でしょう。YoutubeとBilibili動画で同時配信というのは、もはや次のスタンダードとなりつつあります。これはライブ配信での話ですが、遠からずVRライブにも同じ流れが来るでしょう。
#Vに国境はいらない …いい言葉ですね。
こうなると、集客できる範囲が広がる一方で、必要なコストは下がるので(損益分岐的という意味で)ライブを開催するハードルは大きく下がります。
また、移動や準備のコストが抑えられることから、コラボやゲスト出演なども非常に簡単になるのではないでしょうか? ゆくゆくは国境を超えたゲスト出演も珍しくない時代が来るでしょう。
ファン側にもメリットがあり、かつ運営する側にも大きな旨味がある。ゆえにイベントとしてある程度定着すれば、遠からぬうちにVRライブの開催は一気に増えるのでは、と私は見ています。
◆演出が自由になる
VRライブの会場はバーチャル空間です。つまり、会場や設備として用意するのはデータであり、リアル・ライブのようにステージを組み立てたり、機材を運んだりという必要はありません。
また現実世界ではコストや安全面の問題から難しかった、派手な演出が比較的容易になります。例えば巨大な花火を打ち上げるとなると、現実では1発数百万円がかかりますが、仮想空間では何発打とうとエフェクトの製作費として数万~数十万円もあれば足りるでしょう。そしてその花火を室内のライブ会場で炸裂させることすら思いのままです。
アーティストが空を飛び回ったり、分身したり、突然爆発したり…そんな物理的な制約から解き放たれた演出は、リアル・ライブには不可能です。なにより、それを発想と現実的な技術力で安価に実現できるので、動員力のさほど大きくないアーティストでも派手な演出が可能になります。
またこうした演出やセット、あるいは衣装といったものを、使いまわしたり転用するのが簡単になるというのも見逃せません。
リアル・ライブの大規模なセットは、設置にも保管にも大きな費用がかかりますが、単なるデータであるVRライブのセットは、一度作ってしまいさえすれば何度も使いまわせます。
これは長くVRライブ活動を続けているアーティストや、複数のアーティストを抱える主催者にとって有利に働くはずです。手持ちのこうしたデータ資産はどんどん増えていくので、演出の幅やクオリティもどんどん広がります。
盛り上げどころの定番曲では専用衣装とセットに早着替えして歌う、とかあのMVと同じセットや演出をライブで…なんて素敵な演出も実現できるでしょう。
またこうしたやり方が広がれば、VRライブ向けの汎用データアセットも増えてくるでしょう。汎用の演出エフェクトを上手く使うことで、資金力がなくても発想次第で観客をあっと言わせるパフォーマンスができるかもしれません。
(その裏返しとしてハンコを押したようなライブが量産される可能性もありますが…)
その他、もう少し別のアプローチとして、朝ノ瑠璃さんやKMNZさんのVRライブで企画された、会場を使ったクイズ大会のようなイベントがあります。○×クイズを出して、○だと思う人は会場左側、✕だと思う人は右側へ移動、という具合です。
リアル・ライブでやったら大混乱必死のイベントも、VRライブ会場ではなんの心配もなく実施できます。これもまた、物理的な制約の少なさゆえの発想ですね。
アーティスト側も会場の雰囲気を見ながらトークしていけるので、この試みはとても一体感があっていいなあと思います。
◆ハコの制約から自由になる
また物理的な制約がなくなるという意味では、会場のキャパシティという問題も大きなインパクトがあるでしょう。
定員という物理的な上限があるリアル・ライブのコンサート会場とは違い、VRライブには原理上いくらでも観客を入れられます。巨大なドーム会場を用意せずとも何万人もの観客を収容できるわです。
こうなるとチケットの争奪戦は消滅し、席の当たり外れという概念すらなくなるでしょう。
また別の可能性として、観客の人数と会場のスケールを切り離せることも挙げられます。
5万人規模のライブ(ドーム公演)と、1万人クラスのライブ(アリーナ公演)、数千人クラスのライブ(大ホール等)、そして数百人以下のライブハウス等での公演では、アーティストとの距離がまるで違うことは言うまでもないと思います(左:ドーム公演 右:ライブハウス)。
リアル・ライブでは当然観客の動員見込み数でこれが決まってしまうのですが、VRライブの場合、たとえば1万人規模のライブでも1000人ごとに10個のコピーした会場に振り分けてライブをすることができます。こうすれば距離感の近いライブが実現可能になります。どころか100人規模のVRライブハウスで1万人の観客相手にライブをすることもできるわけです。
(VRChatの大規模なイベントで、複数のインスタンスに参加者を振り分けるのと発想は同じですね)
なお、現在のVRライブはチケット枚数に限りがある場合が大半です。先日もYuNiさんの1st VR LIVEのチケットがわずか7分で完売し話題になりました。この辺、今はリアル・ライブの人気アーティストなどと状況は変わりません。
が、これは配信プラットフォーム側のキャパシティの限界(配信サーバーの同時接続数の限界)がボトルネックになっているためと思われます。
しかし、今後VRライブがもっと普及し、プラットフォーマーの設備投資や技術革新が進めば、これは解消されていくと思います。今ですら(ペイできるかは別として)十分な資金さえあれば解消の難しくない問題なのですから。
VRライブをチケット争奪戦から解放できるかは、VRライブがどれだけメジャーになり、どれだけプラットフォーマーにお金が流れるかにかかっているのです。皆さん、どんどんVRライブにお金を落としましょう。
◆ファンとの交流が自由になる
VRライブで私が衝撃を受けたことの一つがこれです。
この記事を書こうと思ったきっかけが、まさにこのファンとアーティストが自由に交流できるという点でした。
例えば先程の朝ノ瑠璃さんのVRライブでは、当選したファンの方がステージに登って一緒にお話をしていました。
またバーチャルアイドル(仮)のライブや、KMNZのライブではライブ後にメンバーの皆さんが観客の中を練り歩いて眼の前で「来てくれてありがとう!」とお礼を言ってくれました。
見てください、この距離感の近さ。
こちらはバーチャルアイドル(仮)の前田花奈さんが、ライブ後にファンに囲まれているワンシーン。
私を含め、おそらくVRライブに参加した誰もがこれを感じているはずです。
現実世界だと、アーティストがファンから危害を加えられたりハラスメントを受けたり、というのは時折耳にする話です。ゆえに安全上の配慮から、リアル・ライブでもファンとの接触は一定の制限が設けられます。
「会いに行けるアイドル」としてファンとの距離の近さから話題になったAKBが、2014年の握手会での傷害事件などを受けて物々しい警備体制をとるようになったことをご存知のかたもいらっしゃるでしょう。ごく一部のファンによる意図的なもの、意図しないものを含めたハラスメントなどについても小耳に挟むことがあります。
VRライブではそのような配慮は必要ありません。ファンはアーティストとどれだけ近くにいても物理的に何かをすることはできませんし、進入禁止エリアには入れません。迷惑行為者を強制退場させることも容易です。
clusterなどでは観客のアバターは標準のモブアバターに統一されていますから、アバターを使ったハラスメントなども不可能です。VRライブというのは、観客に対する制限というのがリアル・ライブよりも遥かに容易なのです。
だからこそ、アーティストも安心してリラックスした状態でファンの近くに行くことができるのでしょう。こうした現実のアイドルでは不可能ともいえる距離の近さというのは、おそらくVRライブの革新的で核心的な魅力になりうる可能性を秘めていると思います。VRアーティストとファンは、物理的な距離が遠いゆえに、どこまでも近づけるのです。
◆VRライブの課題1:「会場の熱気」の不在
さて、ここまでVRライブのいい所をたくさん紹介してきましたが、もちろん一方で課題となることも多くあります。
私がもっともポイントだと思うのは「賑やかさ」です。
リアル・ライブでは、観客もまた一つの舞台装置となることで会場の「ライブ感」が生み出されています。例えば曲に対する合いの手、演奏後の拍手喝采、MCへのリアクション、などなどです。
VRライブは観客からの音声発信ができないため、特にリアル・ライブになれた人ほど「寂しい」という感じを受けるはずです。
観客からのリアクションあってこそ、観客とアーティストによる会場の一体感が生まれるということを考えると、これはやはり避けては通れない問題です。
もっともこれは、既に述べた「VRライブの良さ」と表裏一体であるだけに、簡単な解決策が存在しないのが難しいところ。
もちろん、その辺りの問題はプラットフォーム側も認識しているようで、clusterなどでは拍手やサムズアップ、スマイルなど観客側のリアクション機能が実装されています。
またライブの花であるサイリウムも実装されています。VR環境ならサイリウムを手で振ることもできます。
しかしこうしたリアクションは、いちいちメニューを開いてボタンを押して…という手順を踏む必要があります。一方でリアル・ライブでの拍手や歓声は体一つででき、五感で感じることができる。ここに大きなギャップがあります。
VRライブの良さを活かしつつこの問題を解決するには、やはりアーティストの演出、そしてそれ以上にプラットフォーマー側の工夫が必要不可欠です。
私が思いつく工夫としては、例えば、
・シーンに合わせたSEの挿入(歓声、口笛など)
・一定以上の拍手がされると大拍手のエフェクトが入るようにするなど、観客のリアクションの増幅
・VR環境でのジェスチャー機能の実装(手を叩くモーションで拍手ができるなど)
などでしょうか?
もちろん喧しくすればいいと言うわけでもありませんが、たとえ「うるさい」と感じてもボタン一つで設定メニューからON/OFFや調整ができるのはバーチャルの強み。自分好みの会場の雰囲気を選べるよう、準備するというのは一つの手ではないでしょうか。
しかしその一方で、VRライブならではの良さを掘り下げていく試みもまた重要です。何しろこの「会場の雰囲気」を追い求めても、結局はリアル・ライブと同じレベルにしか到達できないのです。
そのためにどんな試みをすればいいのか、私には今すぐ提言できることは思いつきません。が、「リアル・ライブのVR版」ではないVRライブの文化をプラットフォーマーとアーティスト、そして観客が生み出せるか、という点こそが今後の一つの鍵になるというのは、多くの人が認識しておくべきことだと思います。
◆VRライブの課題2:「投げ銭」の難しさ
Realityを始めとする様々なプラットフォーム同様、clusterにも「投げ銭」の機能があります。特にRealityではその投げ銭をギフトとして送り、会場に飾ったり身につけたり、受け取った側のリアクションとして見ることができるなど、そのインタラクティブな面白さが魅力の一つになっています。
しかしトークや企画、視聴者のコメントなどへのリアクションが主となるライブ放送と違い、VRライブはあくまでアーティストのパフォーマンスがメインです。
つまりどのタイミングでギフトを贈ればいいのか分からないというのが問題点です。
リアル・ライブをベースとした今のVRライブは、あくまでアーティストを主としていて、観客からのアクティブな反応を想定したものではありません。しかしVRライブは、観客のアクションを演出側の意図した形で受け入れることができます。
これは間違いなくVRライブの強みで、観客の没入感や熱狂度を高めるには非常に有効なはずです。
今はアーティストもプラットフォーマーも、もちろん観客も「どうしたらいいか分からない」状況です。観客はギフトを投げたくても「投げていいのかな…?」と二の足を踏んでしまいますし、アーティスト側もどうそれにリアクションすればよいのかを決めかねているのではないでしょうか。
このようにリアル・ライブとは違い、まだ生まれたばかりのVRライブには「VRライブの文化」が存在しないのです。
だからこそ、アーティスト、そしてプラットフォーマーが積極的にこうした「VRライブの文化を作る」という気持ちで、どんな風にギフトを投げるのがいいのか、ひいては観客へVRライブへどう参加していくかを提案していくことが求められているのだと思います。
せっかくのVRライブ。パッシブにアピールするフラワースタンドもいいですが、もっとアクティブにアーティストから反応があったら楽しいですよね。
◆まとめ
長々と筆を執らせていただきましたが、皆さんに少しでもVRライブというものの面白さ、そして可能性を感じていただくことはできたでしょうか?
VRライブというのは、まだ生まれたばかりで、可能性の塊です。それでもその未成熟な片鱗でさえ「ライブへの参加しやすさ」や「会場の規模を含めた演出、舞台の自由度」、そして「ファンとアーティストの距離の近さ」などの魅力となって私達を魅了します。
一方で、まだまだ洗練されていないところも多く、特に「VRライブ特有の文化」が存在しないことは最大の問題点でしょう。
観客からの積極的なアクションが制限されている(ゆえに様々な魅力も生まれる)VRライブにおいて、これを解決するにはアーティストとプラットフォーマーが二人三脚で「VRライブの文化を作る」という気持ちで取り組むことが必要不可欠です。
VRライブというものの魅力が世間に広く受け入れられ、リアル・ライブとはまた異なった新しい文化として発展していけるか。
それはこれからの数年にかかっているのではないかな、と思います。
願わくばVRライブの楽しさがたくさんの皆さんに伝わらんことを!
長文にもかかわらず最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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○リプライでのコメント:遅くなるかもしれませんがなるべくお返事します
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◆今回取り上げさせていただいたアーティストの皆さま
○バーチャルHIP-HOPユニットKMNZ
○朝ノ姉妹プロジェクト:朝ノ瑠璃 さん
○cluster公式ガールズユニット:バーチャルアイドル(仮)
前田花奈さん、大鳥一姫さん、風見舞子さん
○輝夜ルナ さん
○バーチャルシンガー:YuNi さん
○バーチャル美少女受肉おじさん:マグロナ ちゃん
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