塚本伸一郎(24)の場合

#いいねした人の小説を書く   
〜@tsuka0801a編〜


アメフトなんていう男臭いスポーツをしていても男らしさを備えたやつなんてそんなにいるわけもなく、実際は女の尻ばかり追いかけるケツだけ星人が跋扈しているのが我がアメフト部の実態である。そうは言っても俺も男の尻を追いかけてアメフト部に入ったと言えなくもない半ケツだけ星人なので彼らをどうこう言うのは同族嫌悪にあたりそれも虚しいだけだと内省する日々を送っている。

都内近郊の大学院に通い社会学の研究に勤しむ傍ら、大学のアメフト部に在籍している俺は多忙な毎日を送っていた。もうほんとに忙しかった。平均睡眠時間は3時間で昼は研究、夜はを主にNetflixに時間を使っていた。院生なんて大体こんな毎日を送っている奴らばかりで、違いと言えばネトフリで韓国ドラマを見るかhuluでコナンを見るかぐらいの違いしかない。忙しない日々の癒しと言えば在籍するアメフト部で男たちを視姦するか金玉マッサージ専門店で金玉マッサージを受けるくらいだ。梨泰院クラス、金玉マッサージ、視姦、イカゲーム、金玉マッサージ、金玉マッサージ、金玉マッサージ、日々を羅列するならばこんな毎日を送っていた。

どんなに日々が忙しくても面白いことは中々起こらず俺の世界は繰り返しの毎日の中で随分とつまらなくなってきている気がした。そしてユーチューバーの誰と誰が喧嘩しただとかユーチューバーのあいつが髪を染めただとかそんなつまらないことが話題に上がるくらい世の中はつまらなくなってしまっていて、それは俺の人生にも同じようなことが起こっていて髪を染めるのがロックンロールになるなら俺も染めてやるよ、と大学の図書館で金玉マッサージ店の予約サイトを眺めながら静かに呟く。そこにアメフト部の部長である平澤が声をかけてきた。

「おい、塚本!なにやってるんだ?」

「勉強だよ。資料探してるの。」

「なんだよ、つまり暇してんだな?じゃあ風俗行こうぜ。」
平澤はゴリラのような風貌の大男でその身体の発達具合には目を見張るものがある。そして曲がりなりにも自分と同じ国立大学の院生であるのだから肉体と同様に知能もそれなりに詰まっている。しかしこの男は口を開くたびに俺を風俗へと誘ってくる性欲ゴリラである。一度、構内で彼の研究発表の場に居合わせたのだがその姿は才子そのもので経済的価値というクロス軸を以って世界中の事々物々を分析せしめていた。しかし学問の外にいる彼はただの性欲ゴリラでありアダム・スミス先生も草葉の陰で泣いているばかりであろうという有様だ。平澤は外見だけなら俺の好みなのだが、いかんせん女好きが酷く俺にもしょっちゅう女の話をふってくる。だから俺は平澤に対して外見ありがとう内面さようならという気持ちを反復横跳びさせながら接している。

「やだよ。しこって寝ろよ。お前の右手はバナナの皮と包皮を剥くためだけに存在しているのだから。何より風俗は高くつくけどしこれば0円。俺たち苦学生にしこる以外選択肢はないんだよ。」
俺は60分8千円!という謳い文句の金玉マッサージ店のサイトをしげしげと眺めながら後ろの平澤を制した。

「なんだよ、お前はつれないな。なんだかんだ言ってお前と風俗行ったこと一度もないぞ。高橋はよく行ってくれるのに。あと松井も。あと氷室。布袋もよく行く。」

「友達BOOWYかよ。とにかく俺は興味ないんだ。」

「お前は女の影もないしな。どんな女がタイプなんだ?」
平澤の女好きは確乎不抜でどうしても女の話題をしたいらしい。つまんね~。俺は女の話をしたくてここにいるんじゃない。かといって社会学や経済学の話がしたいわけでもない。男だよ、男の話がしたくて俺はここにいるんだ。ちんぽだよ。ちんぽちんぽちんぽ。

「ちんぽ!!!」

「ちんぽ??!!」

「ああそうだよ。ちんぽだよ。俺は今ちんぽの話をしたいんだ。ちんぽの話をするならここに残れ。しないなら出ていけ。二者択一だ。選べ、ちんぽかちんぽじゃないか。」

「・・・・・・」
平澤はちんぽじゃなかったらしい。ここがもし漫画の世界ならこの後俺は平澤にカミングアウトをして平澤はそれを受け入れ良い雰囲気になっていくものだが、現実ってのは漫画みたいに面白くなくて反対にめちゃくちゃつまらない。ノンケが実はゲイなんてことは起こらないし、ちんぽはケツにそう易々と入らない、いい加減にしろよと思いながらも、ユーチューバーが髪を染めることがロックなら俺がちんぽと大声で叫ぶこともまたロックだろと考え俺は平澤にちんぽと叫んだことを忘れることにした。

どんな女がタイプなんだ?
平澤が言っていた。俺からしたらどんな男がタイプなんだという話になるのだが、折角だから考えてみる。
まず筋肉は絶対だ。身体は太ければ太いほどいい。最近はジェンダーレス男子なんていう言葉も生まれ、短髪マッチョな「男らしさ」と結びつくマスキュリニティーを脱ぎ捨てた男性も誕生しているようだがその手の輩は好みの正反対だ。社会的な態度としてその手の文化が生まれることについてはむしろ好感を持つが、やはり男にスキニーパンツは似合わない。太いパンツを履け。手首を鍛えろ。リンゴを素手で潰せ。筋骨隆々で敵を殺せ。筋肉と暴力こそが男の真髄であり、男の真のアクセサリーとは高級腕時計でも磨かれた革靴でも仕立ての良いオーダーメイドスーツでもなく敵の血しぶき、生首、内臓である。
横目にちらと男性ファッション誌の表紙が映る。「今年の冬はウールでタフに品よくキメろ!」と書かれている。やかましい。男が生地の素材を気にするな。男たるもの、素材を気にする場合は「この記事は刀や矢を通しやすいか」「敵の火炎攻撃に耐えうる難燃性はあるか」という点のみに意識を向ければいい。素材名など気にしず、服屋では「燃えにくいやつを頼む」と注文しろ。

そこまで考えたところで俺の目の前にまた平澤が現れた。もしかしてちんぽか?

「塚本、見つけてきたぜ。ちんぽマッサージしてくれる店。」
そう言って平澤はスマホの画面を見せる。60分1万2千円!※ちんぽマッサージ(金玉含む)オプション2千円の文字が躍る風俗サイトだった。俺は大きくため息を吐いた後、平澤を無視して再度60分8千円の金玉マッサージ店のサイトを開いたのだった。

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