上田文貴(24)とむなげ(?)の場合

#いいねした人の小説を書く
〜@syakipon1222 & @munage_user編〜


朝、目が覚めると見知らぬ男が隣で寝ている事に気がついた。驚きの声を上げベットから転がり落ちる。ベッドから離れ少し遠くからその男を見てみると、なんだか見覚えのある顔をしていた。実際に会った事がある訳ではない。そうだ、こいつは…いや、この人は…

俺、上田文貴は同性愛者である。わざわざ居直って言う事でもない。現代では普通の価値観として同性愛は認められており、犬好き、猫好き、同性好き、のようにそれらと同列に語られる程度である。なので俺も大柄な男性と少し大きなちんぽに興奮するだけの至って普通の青年なのである。

犬好きや猫好きにそれぞれ愛好家のコミュニティがあるように同性愛者にも同じ趣味趣向の人間が集まるコミュニティがある。それの一つ大きなものが、Twitterだ。

Twitterの説明なんて今更する必要ないと思うので割愛する。あれです、主な使い方としては半裸を投稿して承認欲求満たすやつです。終わり。
要は俺はこのTwitterってやつと相性が良かったのか、生来のユーモアと無責任さが合わさり、適当に発言するだけでそれなりに協調や賛辞を頂けるようだった。俺は一々脱がなくても指先一つの発言だけで、Twitter内でのコミュニティに参画していけたのである。

そして、この人だ。この人はそのTwitterというコミュニティにおいて俺に時々絡んでくる人だ。軽口を叩き合い、この人のセクハラ紛いの発言を軽く流すことが最早通例となっている相手。スキンヘッドで口髭をたくわえ、奇々怪界な動画を偶にタイムラインに流す男。なにを以ってその名前にしたのかは想像もつかないが、名前は、そう、むなげ。隣で寝ていた見知らぬ男の正体はむなげ、その人だったのである。

「うーん、あれ?ここどこだ?」
起きた。俺のベットの上でむなげさんの髪一つない白いスキンヘッドが揺れる。近くで見るとまるで白人のちんぽだな、と俺は思った。

「あれ?ふみじゃん!東京きたん?」

「むなげさん、ここは大阪です。そしてここは俺の部屋です。」

「え?ふみの部屋?へー、結構綺麗にしてんじゃん。」

「なんで彼女が初めて部屋に来た時みたいな事言うんですか。そんなことより、むなげさんが何故ここにいるのか、説明して下さい。」

「俺も覚えてないんよね。昨日、高円寺で飲んでて、電車に乗ったとこまでは覚えてるんだけど、それから先の記憶がない。気付いたら、ここで寝てたのよ。」

「中央線が大阪まで続いてる訳ないでしょう。それになんで俺の家知ってるんですか。どうやって家に入ったんですか。その変なシャツはなんなんですか。」

ハンギョドンのシャツを着た男、むなげさんは頭をぽりぽりと掻き、笑いながら話す。

「いやー、分からない事だらけだね!あとこれはハンギョドン!可愛いでしょ?」

無邪気に笑いながら頭をぽりぽりと掻くむなげさんにつられて、俺は視線をむなげさんの頭へと移す。あれ?なにかおかしい。白いスキンヘッドだとは思っていたが、白すぎやしないか?いや、白すぎるというより、頭の向こう側の壁紙が透けて見えるというか。
思わず近づいて見てみると僅かだが、むなげさんの頭頂部が透けているように見える。

「…むなげさん、頭、触ってみても良いですか?」

「え?う、うん。いいよ。は、初めてだから優しくしてね…?」

「その彼女ムーブなんなんですか。」

意を決してむなげさんの頭頂部を触ってみる。結果として俺の手がむなげさんの頭に触れる事は出来なかった。俺の手はむなげさんの透けている頭を貫通し、手のひらは家の壁紙を捉えた。この現象に驚いたのは俺だけではなくむなげさんもだった。

「こ、これって…!」

「お、俺って…!」

「「幽霊になってるーーーーーーー!?」」


状況を整理すると、むなげさんは昨日遅くまで高円寺で飲み朝方に電車に乗った。その時点でむなげさんの記憶は途絶えており、起きたら俺の家のベットの上で寝ていたという事だ。
そして色々と実験をしてみて分かった事だが、むなげさんには触ることが出来ず、そして頭頂部はうっすらと透けている。むなげさん自体は全ての物に触れる。別に俺だけに見えてるという訳ではなく、他の人にもむなげさんは見えている。むなげさんが俺から離れようとすると、いつの間にか俺の近くに戻ってきてしまう。

以上の事から鑑みるに、むなげさんは今日の朝方、電車に乗った後に何かが起こり絶命。そして非常に中途半端な形での幽霊となって俺に取り憑いた、という訳だ。

「なんで俺に取り憑いたんですか!」

「知らないよ〜。俺がふみのこと一番に考えてたからじゃないかな!ガハハ!」

むなげさんは我が家のおやつであるお煎餅をバリバリと食べながら、あっけらかんと笑っている。そして、「こんな味だったけな?」と歌のような事を呟きながら、またガハハ!と笑いテレビを見始めた。
俺は、勝手にお煎餅を食べるな、なんで幽霊なのにメガネかけてんだよ、などと思いながらむなげさんを観察する。

事実としてむなげさんはここに存在している。先程、昼飯でファミレスに入店した際に店員は自然と「お二人様ですね。」と言った。定番の幽霊ものだったら幽霊は取り憑いた人にしか見えないとかなのだろうが、むなげさんは他の人にも見えている。幽霊っぽいところと言えば、こちらからは触れないところとうっすら透けているところくらいだろう。普通、幽霊は足が透けてるものだと思っていたが、むなげさんは何故か頭頂部が透けている。なんでだよ。

「な〜、ふみ〜、お腹空いた〜」

「幽霊なのにお腹空くんですか?」

「あ、そういう考えは良くないな、ふみ。おけらだってアメンボだって皆んなみんな生きているんだぞ。俺だって腹くらいは空く。」

「むなげさんはもう死んでますけどね。」

「お、こりゃ一本取られたネ。」

そう言えばお昼ご飯も普通に食べてたなこの人、と思い俺は外にご飯を食べに行く準備をする。

「なにが食べたいですか?」

「居酒屋行こうよ。」

「え、嫌ですよ。むなげさん頭がうっすら透けてるんですよ。人の多いとこ行って騒ぎにでもなったらどうするんですか。」

「え〜!いいじゃん!行こうよ〜、居酒屋〜」

「嫌ですよ。ラーメン屋とかでぱっと済ませましょ。」

「居酒屋行きたい!行きたい!」

駄々っ子のようにゴネ始めるむなげさん。おっさんなのにゴネるなよ…と思いながら見つめていると、むなげさんは急にふん!と鼻を鳴らし

「いいよもう!行かない!行かない!餓死すればいいんでしょ!何も食べなくて餓死するよ俺はもう!」

とそっぽを向いた。むなげさんはもう死んでるんですわ、と思いながらも、面倒ごとを避けたい俺は彼が折れてくれるのを待った。しかし、一向に彼は折れようとせずただ時間だけが流れていく。そして遂にワンワンと泣き始めてしまった。

こうなるとこちらが折れるか世界が終わるかじゃないと収拾がつかないと感じ始める。おっさんの涙ほど無価値な物はないが、とは言え俺とむなげさんはTwitterで散々と軽口を叩き合った仲である。その仲の人間がワンワンと泣きながら「俺は死にやすよ〜!」とよくわからない口調で自棄になっているのを見ると、なんだか心が痛むような気がしないでもない。

「分かりました。分かりました。今からお店探すんで待っててください。」
俺がそう言うとむなげさんはたちまち泣き止んで、
「お、やる気満々だねぇ。」
と言ってきた。俺の脳内には「後悔」という文字が美しい楷書で表示された。

居酒屋に着くとむなげさんは店員さんに
「お腹が空いてるんだけど、何かすぐ出るものありますか?」
と聞いた。自分のお腹の空き具合を申告する必要は全くないなと思いながら見ていると店員さんは
「それでしたら、枝豆か冷奴なんかすぐ出せますよ。」
と説明してくれた。むなげさんはそれに
「んー、じゃあ、やみつきフライドポテトで。」と返した。彼が変人の理由はこういうところだな、としみじみと思う。

乾杯をした後、むなげさんはグビグビとビールを飲むと上機嫌に話し出した。

「いやー、俺死んじゃったのかもしれんけど、ふみのとこに取り憑けてほんと良かったわ!これから楽しくなりそうだ!」

「俺は結構迷惑してますよ。」

「そんな事言って〜。ふみだって俺と話せて少し楽しいんじゃないの?」

そう言われて、そんな事ありません、と言いそうになるがそれは少し躊躇われた。確かに、俺がTwitterを始めて間もない頃から俺の下らないツイートに反応をし続けてくれたのはむなげさんだ。今までの日々を反芻すると確かにむなげさんと話していて楽しかった自分がいるのも事実だ。

「お、唐揚げキター!」

むなげさんは「俺、めちゃくちゃ唐揚げ好きなんだよ。死ぬほど好き。」と幽霊ジョークを交えながら唐揚げを食べ始める。

「確かに楽しかったは楽しかったですよ。」

俺は俯きながら小声でそう呟いたが、むなげさんの反応はない。不思議に思って顔を上げるとむなげさんはなんだか苦しそうな顔をしている。俺は嫌な予感がしてむなげさんが食べた唐揚げを見る。
あ、塩だ。この人、唐揚げに塩つけて食べるんだ。塩。幽霊。
あ!!!!!!清められる!!!!!!

僕は急いでむなげさんに駆け寄り、肩を抱くように側に立つ。

「むなげさん!!大丈夫ですか!?!?むなげさん!!!」

むなげさんは胸を苦しそうに抑えながら呟いた。

「あっつい…!」

熱いだけかよ。
これからよろしくね、むなげさん。

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