新田零(25)の場合

#いいねした人の小説を書く
〜@hakuouki235編〜

褌にもそれなりの種類があるらしく、六尺とか越中とか黒猫とか色々あるらしい。俺自身はそんなに褌に興味なんてないので、つけ方さえ分かっていればなんでも良いのだが、俺がバイトしてる職場では時々客から褌の種類だとか歴史だとかの講釈を聞かせられる時がある。

何故かと言うと俺が働いてるのは褌バーなるもので、同性愛者に向けたいわゆるコンセプトバー、褌を履いた店員が褌を履いた客にお酒を注ぐという職場だ。客層はガッチリ系とかデブ系とかそこらへんの大柄な客が多く、店員もそれらと似たり寄ったりの体型の人間が多い。とにかく、俺は週末は半裸で半裸の男たちに酒を注ぐバイトをしているのだ。

今日も出勤するかと控え室で褌をつけていると、新人のれいくんが「褌がないです〜!」と騒いでいた。褌はそれぞれに貸与されているのだが、基本的には店長が洗って管理してくれてるので無くなるなんて事は滅多にない。なんで普段履いてるやつをなくせるんだよ、と思いながらも俺は「俺の余ってるやつ貸すよ」とれいくんに自分の予備の褌を貸した。

れいくんは25歳とこの店では一番若く、天然で可愛らしかったのですぐに店での人気を勝ち取った。俺も入ったばかりの頃は同じような年齢だったが、あそこまで客の顔を緩ませた事はない。
バーなのでお酒を楽しむ場所ではあるのだが、結局のところ客は褌を履いた店員や他のヤラシイ客を見に来てるので、この褌バーという場所においては、どんなに酒の注ぎ方が上手くても、話が上手くても、結局は"可愛い"かどうかで人気が決まるのだ。詰まるところ、男はエロいかどうかでしかものを見てねぇんだよ。

れいくんの話であった。れいくんは同じバイトの中では古株である俺に良く相談をくれる。俺も彼の顔は可愛いと思うので相談に乗ってあげている。可愛くなかったら面倒などみない。
「なんか最近よく褌無くなるんですよ〜!」
とれいくんが言ってきたので俺も「分かる〜!あれ無くすよね〜!」と、とりあえずの協調をしておいた。いや無くなさいけどな。

完全にれいくんに乗せられている事を理解しながらも俺たちは良いバイト仲間としてやっていたある日、れいくんが「先輩!あのお客さん嫌です〜!」とバックヤードで泣きついてきた。
彼の指差す客を見てみると、まぁよくいる客といった風貌の中肉中背の眼鏡をかけたヒゲ親父が1人でちびちびと酒を飲んでいた。

あんなんを弄ぶのむしろ得意とするところだろ、と思いながらも「なんで?臭いの?」と聞いてみると「臭くはないです〜!」との返答。
臭いのもイケるもんな、と思いながら「じゃあなんで?」と次の言葉を促すと、「あの人、この前僕が帰る時に店の前でずっと待ってて怖かったんです〜!」とのこと。

「出待ちってこと?」と聞くと「ストーカーです〜!」と被害者意識バリバリの偏見が飛び出す。ごちゃごちゃうるさいな、と思っていると「先輩!今日、ラストまでいて下さい!それで、またあの人が店の外で待ってたら、一言言って欲しいです〜!」とれいくんが言ってきた。俺は面倒見が良い方なので、渋々これを承諾した。顔が可愛いからな、顔が可愛くなかったら殴っている。

お客は全員はけて閉店準備まで済ましたところで店長に声をかけて帰り支度をする。そういえば、れいくんとラストまで一緒するのは今日が初めてだったのだが、こいつ行きと帰りで服変えてるのか。来た時は半袖短パン姿だったのに、今はタオル生地みたいなパジャマ、ジェラピケ?だったか?、とにかくあのバカな女しか着ないようなアホの格好をしている。

「別にそんなに危ない人には見えなかったけどな。普通にれいくんのファンで出待ちなんじゃないの?」
「人は見かけによらないんですよ〜!ほら!僕だってこう見えて意外と少食だったりするんですよ〜!」
知らね〜

店の扉からちらっと外を覗くと、いた。あの中肉中背男性だ。俺はれいくんの方を振り向き、「いたよ。どうする?」と聞く。アホみたいなパジャマを着たデブ男がファイティングポーズを取りながら言う。

「先輩!ガツンとやっちゃって下さい!」

殺してもいいってことか。人に手を汚させるなよ、やれやれと考えながら何か凶器はないか?とバッグの中を漁る。持ち物の中で一番武器になりそうなのはモバイルバッテリーくらいだ。とりあえず、何かあったら素手で応戦しよう。

店を背にして立っている中肉中背男性の後ろにじりじりと近づき、腿に蹴りを喰らわす。

「なにか御用でしょうか?!お客様ぁ!」

「ち!違うんです!違うんです!許してください!」

「何が違うんだよ。」

「あ、あの、別にれいくんが可愛いから後を尾けようとしてた訳じゃなく…!」

「尾けようとしてたんじゃねぇか!」

「すいません!もうしません!許してください!」

とりあえずの反省を見たので、中肉中背男性は解放してやり店に戻る。れいくんには「殺したよ」と報告する。「わぁ〜!ありがとうございます〜!」と目をキラキラさせながら、れいくんは喜ぶ。

しかし本当にストーカーだったとは。俺は念のため店長に報告しようと店長がいるであろう控え室に戻る。

「店長〜、いますか〜?」

電気をつけると店長はいた。先程までれいくんが履いていたであろう褌に顔を埋め、全力でにおいを嗅いでいた。

「ち、違うんだ!俺は別にれいくんの褌を嗅いだり、持ち帰って色んなことに使っていたりはしない!!」

俺は全力で店長の腿を蹴った。可愛いってのも意外と大変らしい。

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