山名悟史（34）の場合

#いいねした人の小説を書く
@Sad_toc編

「ねぇ、俺たち付き合って何年になる？」

「ん？あぁ、何年だったか。そうだ、8年だ。この前の8月で丁度8年だな。子どもだったらもう小学生3年生くらいか？そろそろ異性が気になる歳かな。オグロプレーリードッグだったら、産まれて死んでるくらいだ。いや、それは飼育寿命だから野生だったら、生まれて死んで、また生まれて死んでるくらい付き合ってるね、僕たちは。」

「オグロプレーリードッグの一生で例えないで欲しいな。生き死にが多くて、なんだか悲しくなる。」

「ごめんよ。しかし8年か。長いな。僕はついこの前まで新入社員だったのに気づいたらもう中堅社員だ。年齢ももう40は過ぎてるから当たり前と言えば当たり前なんだがね。ただ、僕からしたら自分が40を過ぎていようが好きな相手と8年も過ごせているというこの事実に、遂に僕もここまで来たかと感涙ものだよ。君と夕飯を食べていると殊にそう思う。ああ、こんな僕にもこんな普遍的な幸せ享受出来るのかとね。僕もそんなに成長したんだとね。」

「一つ聞きたいんだけどさ、どう思ってる？SEXのこと。」

「SEXのこと？そうだね。SEXのことを真剣に考える事は最近なくなっていたな。最近入社したあの子は仕事が良くできるとか、将来は庭に苔を生やしたいなとか、ああそうだ、苔をこう球体にして飾るのが流行ってるらしいんだ。苔ボール？なんだかゴキボールみたいだね。兎に角、その苔ボールを部屋に置きたいんだ。さとし、今度一緒に選んでくれないかい？」

「苔玉ね。良いと思うよ。ベランダで育てるならスナゴケが良いかな。あれは乾燥に強いから。けど、今はSEXの話だよ。」

「そうだったね。それで、ああ、SEXか。確かに僕たちはいつからかSEXをしなくなったね。それについて何か思うことがあるのは分かっている。じゃあSEXをしようか。そうだ、先日から金玉に毛が生えたんだ。一本、綺麗に金玉の中央に生えている。僕はこれを大事に育てようと思う。是非、さとしにも見て欲しい。これをSEXの皮切りにしてもいい。」

「本当？この歳にして初めて金玉に毛が生えたの？それはすごい事だよ。けど、それはSEXの皮切りにはならない。俺があなたに求めるSEXは金玉に毛が生えている事から始まるSEXじゃない。」

「ああ、そうだね。SEXには雰囲気、というやつがあるよ。しょうがない。じゃあSEXをしよう。君が好きだ。僕は勃起しているよ。とりあえずジャンケンで先攻か後攻か決めよう。」

「SEXでジャンケンはしないよ。」

「そうか。では、コイントスか？それともダイス？ああ、プロ野球だったらホームチームが後攻だな。けど、僕は永遠のチャレンジャー。ビジターは僕だ。では先攻をもらうよ。」

「もしかしてSEXのやり方忘れた？」

「……」

「確かに俺たちはしばらくSEXしていなかったからね。やり方を忘れるのも無理はないよ。」

「覚えてるよ。」

「覚えてないでしょ。」

「覚えてる。こう、最初はキスをするんだ。お互いの手を取ってね。熱いキス、僕は勃起している。」

「それから？」

「それから？…そうだな。愛だよ。SEXをエモーショナルなものにするには愛は必要不可欠だ。愛が2人を強くする。」

「それで？」

「それで？…そうだな。身体に触るんだ。一生懸命触る。そうするとさとしの桃のような香りに体が包まれて僕は動けなくなる。甘美だよ。あとは何もいらない。僕たちの間にあるのは多くの愛と君の使っている少しのフェラガモの香りだけ。」

「それじゃ足りないよ。」

「足りない？じゃああとは何がいるんだ？」

「…分からないけどさ。いや、俺も分からないよ。最近SEXなんてしてないからさ。」

「そうか。じゃあ2人で一緒に考えよう。もう2人とも良い歳だけどさ、良いじゃないか、SEXのことを知らなくたって。これからキスから先のことを一緒に考えよう。」

「じゃあ、キスの次は何をするの？」

「そうだな。…ちんちんだよ。ちんちんを掴むんだ。ああ、そうだお互いにね。お互いに優しくお互いのちんちんを掴むんだ。いいだろ？良さそうじゃないか？」

「うん。なんだか良さそう。それはとっても魅力的に思えるよ。」

「そうだろう？じゃあとりあえず脱ごう。社会性も捨てて脱ぎ散らかそう。脱ぎ散らかすことなんて中々出来ないよ。僕らは大人だから脱いだ服はきちんと洗濯機に入れてしまうからね。けど、今日は別だ。脱ぎ散らかそう。そして、SEXが終わった後に布団の下からパンツを探すんだ。こう、布団をパタパタやって探すんだ。楽しそうじゃないか？ほら、さとしも。」

そう言ってパンツを脱ぎ顕になった彼の金玉には、長い長い一本の毛が生えていた。それが俺たちの久しぶりのSEXの皮切りとなった。