有坂豪(25)の場合

#いいねした人の小説を書く
〜@goucellulite編〜


◇有坂豪の学生時代の友人

「俺、ちんこに入れ墨いれるわ。」
そう言ったのは俺の高校時代からの友人である有坂であった。
なんて?ちんこに入れ墨?どうしてその必要が?
色々疑問が浮かんできたが有坂の目を見ているうちにその疑問も彼の妙に綺麗な瞳の中に吸い込まれていった。それらの疑問は、まぁ有坂だし。で説明がつくほど彼はどこか変わっていた。元々独特の雰囲気を持った友人であったが、最近は特にそれが顕著で劇団の演出をやってるだとか物書きをしているだとかそういう芸術方面の仕事をしているという噂もあれば週末はかなりの確率で酔っぱらっており一体こいつは普段何をしているんだと仲間内でも時々話題に上がる。飲んだくれている割には女の影も見えないし、この前なんていきなり坊主にしていた。あんな唐突の坊主はICONIQくらいしかやらない。なにか嫌なことがあったのか?おい、相談乗るぜ、金と女以外ならな。と言いかけたところで有坂は時計を見ながらヤベ行かなきゃと呟き、じゃあまた!と急いで荷物をまとめ去って行ってしまった。

◇有坂豪のゲイバーバイト仲間

「それで、どんな風に入れ墨をいれようか迷ってるんですよね。」
そう言ったのはバイト仲間である豪くんであった。始発が始まった為客もあらかた帰り閑散となった店内で閉店準備をする傍ら、豪くんは自らのちんこに入れ墨をいれる話をしだした。それ自体は別段驚くことはなく彼はどこか突拍子もなく妙な行動をとる癖があり、この前もいきなり坊主にしたりしていた。いきなり坊主にするなんて夏木マリくらいのものだと思っていた。しかし彼の行動の多くはユーモアに満ちており、その甲斐あってか客商売であるこのバーの店子でもかなりの人気を博し客に愛される店員となっている。客は店子が若ければとりあえず喜ぶが、俺が彼の年齢の時でもあそこまで客の顔を緩ませた覚えはない。
その彼がちんこに入れ墨をいれるというのだからこれもなんらかのユーモアであり、意味のある行動なのだろうと思えてくる。親からもらった体に傷をつけるなんて!という理由で整形や入れ墨を嫌う風潮はもはや過去のものとなり、ダイバーシティ東京、自分らしく生きましょうぜとなっている昨今。ちんこに入れ墨をいれるのも別におかしな行動ではないかもしれない。そもそも俺らは親にもらったケツ穴にちんぽを挿れまくりガバガバにしているので今更入れ墨がなんだという話でもある。穴だらけ、姦通しまくりである体に自分らしさを刻むのも悪くないかもしれないと考えていたら洗い物は全て洗い終えてしまったらしい。店内の清掃も済ませた豪くんと一緒にその日は店じまいをしそれぞれ帰宅することになった。彼は別れる最後までちんこにどんな入れ墨をいれようか迷っているようだった。

◇有坂豪のリアル相手

「色々考えたんですけどやっぱこれしかないなと思ってちんこに入れ墨いれたんですよ。」
そう言ったのは今日のリアル相手である豪くんであった。
え、なんで?思ったことをそのまま口にしてしまった。ちんこに入れ墨を?え?なんで?どうしてその必要が?溢れだす疑問が止められない。俺もこれまで様々な相手とリアルしてきたがちんこに入れ墨をいれた人間とのリアルは初めてであった。
現代社会で出会いの方法というのは沢山あるがより多くの人間と出会う為に必要なのは限りなく無色であることだ。癖をなくし自分という色を限りなく薄めることによって多くの人間と迎合することが出来る。ナイモンで長文アピールする必要なんかないし、Twitterで面白いことを言う必要もない。ナイモンは身長体重年齢と身体画像だけ晒しておけばいいし、Twitterもイケメンのつまらないツイートをいいねしているだけで仲良くなれる。自分という個を主張する必要など一切なく、他者の色に染まる努力さえしていれば世の中を渡っていけるのに、ちんこに入れ墨を?全くその必要性が分からない。豪くんという個はそれなりに知っているつもりだ。芸術方面に強くユーモアのある子。この前なんていきなり坊主にしていたし。いきなり坊主にするなんて峯岸みなみくらいのものかと思った。そういう強い個にも合わせられる自信はあったのだが、ちんこに入れ墨を入れるとなれば話は別だ。そのあまりに強すぎる癖に俺の中の無色がアラートを鳴らしている。今すぐこいつから離れろ、と。
刹那そんなことを考えていると豪くんがなぜちんこに入れ墨をいれるのか?その理由を落ち着いた調子でゆっくりと話し始めた。

「世の中って差別と偏見に塗れてるじゃないですか。肌の色による差別、宗教による差別、こっちの世界だと体格による差別だとか顔による差別。果てには差別を行う者への差別も生まれています。差別は悪い事なんですけど、きっと誰しもこういうこと思ってしまうと思うんです。例えばGMPD限定乱パのAVに細い人がいたらちょっと、ん?ってなりますよね。僕もなります。もちろん差別意識を表出するのは悪いことです。けど自分の中にある差別意識を認めてあげるのも大事だと思うんです。何かのきっかけで自分も差別をしてしまうかもしれない。GMPD限定乱パに細、ん?これは当然思うことです。だから声高に差別への糾弾を行うのはどうかと思うんです。人が当然思ってしまう小さな心の動きにどう向き合うか。僕たちはもうそういうところまで考えを広げないといけないんじゃないでしょうか。」

なにを言っているんだ?この子はなにを言っているんだろう。
俺が困惑する様子を察してか豪くんは優しい調子で続けた。
「ちんこ、見ますか?」
なにもかも分からなくなった俺がふり絞った最後の言葉は本能より発せられた「見ます」という言葉だけだった。ファミレスの店内であったが豪くんは下へ目配せし机の下を見ろと促した。机の下を覗くと豪くんはちんこを露出しておりその陰茎には

Love Me Tender

そう刻まれていた。

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