2021.03.25

髪が伸びてきた。私の髪型には有効期限というか賞味期限みたいなものが設定されており、その具体的な期限は「白髪が目立ち始めてきたら」である。25歳成人男性にしてはおばあちゃんのような基準で髪型の有効期限を決めているものだと自分でも思うのだが、私は昔から若白髪が多く髪が伸びればそれこそおばあゃんと言っても差し支えない量の白髪が見え隠れする。外見にあまり頓着しない私でもおばあちゃんに見間違われるのは我慢ならないらしく、その我慢ならなさを以って毎回髪を切りに行っている。

しかし昔から美容院に行くことは非常に億劫でそれは何故かと言うと、美容師と話すのが辛いからと言うほかない。判で押されたような根暗である私は当然美容師との会話すら億劫に思ってしまうのである。
東京に越してきてから利用している美容師さんはそんな俺の気性を察してかそれほど喋ってこず、一通り髪型の方向性を決めた後は雑誌の束をつらつらと持ってきてこれでも読んでてくださいと気を遣ってくれる。しかし私は根暗の中でも中途半端に要らぬ気を遣ってしまう根暗であるから、いつ話されても大丈夫なように渡された雑誌メンズノンノの表紙に印字された「田中みな実のおススメ小物」という文字をじっとみつめて髪が切られるのを過ごしている。いや読めよという話なのだが、気遣って話してくれた時に雑誌読みながらだとなんか態度悪いかなと思ってしまうし、そもそも美容師と二三言言葉を交わした後にどんなタイミングで雑誌を読むのに移行していいのか分からなかったりするのでこんな奇怪な状況になってしまうのである。


そろそろ使っている財布にも有効期限が来ている。もう使って8年くらい経とうかというところであるので、それなりにボロボロになっている。田中みな実もこの財布はおススメしないだろうというボロボロさだ。というか5年目超えたあたりで人に「財布ボロボロですね」と言われたので、それなりというか完全にボロボロである。ボロボロと言われてから3年も経っている。ボロボロの向こう側にいっている。輝きの向こう側の正反対、ボロボロの向こう側である。


この財布は大学2年生の頃に手に入れた。時期も正確に覚えている。何故かと言うと当時良くしてもらっていたおじさんに買ってもらったそれなりに高価なものだからである。当時、大学の友人の間で財布を新しく買い替えるのが流行っていた。ポールスミスだったりブルガリだったりちょっと高価な財布を買って”大人”感を出すのである。私も棚ぼた的に頂いた高価な財布を初めて行ったクラブイベントのバーカウンターで友達に自慢したのを覚えている。
大学2年生で初めて行ったクラブで慣れない酒に酔いながら、高価な財布を自慢する。今思い出すと完全にこいている。調子、こいているのである。

あいつこきすぎてないか?なにを?調子を...


そう言われてもしょうがないほど、当時は高価な財布を持てたことを喜び、調子こいていた。今思い出すと恥ずかしいを通り越してなんだかニヤニヤしてしまう。あまりにもこきすぎているからだ。
なので私の人生の調子こきのベストエピソードとしてこの財布は思い出深いものになっている。しかし時は移ろい、高価な財布もボロボロに。これでは流石に調子こけない。


頂いた物に感謝しつつそろそろ新しい財布を買わなくちゃな、田中みな実も小物に注目してることだし、といった感じで今は古き財布に思いを馳せていると髪型は毎回良い感じになっているのであった。

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