【レビュー】2022 J2 第1節 横浜FC戦

たまたま文章を書きたくなるいい試合で、たまたま時間があって、たまたま見に行った横浜戦。めちゃくちゃ久しぶりの分析記事になりました。また、こうして嬉々として、記事が書きたくなる試合が続くシーズンになるといいな・・・。色々と図説し始めると終わらないので、大まかな配置だけでご勘弁。あとは皆々様の脳内で補完してください。


1.システム

・大宮は攻撃時433、横浜は守備時442

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・横浜は攻撃時415、大宮は守備時も443

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・横浜はマンツーマンでハイプレス

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2.両チームの狙い


 2-1 大宮保持・横浜非保持

 大宮の攻撃は両サイドでWG、IH、SBが連携してサイド裏を狙う。左はWG柴山が張ることが多く、右はSB茂木が高い位置取り。細かいパスを繰り返しつつ、誰かが裏を狙う。主に左を使うことが多い。ビルドアップは433のままで後ろから丁寧にボールを繋ぐ。クロスの場面ではアンカーがサイドまで寄ってサポートに入り、IHはペナ内に入る。
 対する横浜は大宮のビルドアップに対して、マンツーマンで対応。アンカーの大橋にはDHの斎藤を当て、IHはDHの手塚とシャドーの長谷川がマーク、DFラインはCF、IH、WGへの縦パスを狙う。左右のCBは下りていく選手、DH裏で浮いてしまった選手にも前に出て対応していた。


 2-2 横浜保持・大宮非保持


 横浜の攻撃は325もしくは手塚が左CBの位置にサリーしての415。まずはCFのヴィゼウ、シャドーの小川への縦パスを狙い、それが難しい場合は横パスを繰り返して縦パスを入れるタイミングを伺う。縦パスが入ると、サイドに展開し、クロスからゴールを狙っていた。時折、対角のロングボールで一気に大宮を押し込む場面も見られた。主に左サイドを使い、シャドー長谷川の個人技、SB高木のオーバーラップ、両者の連携を駆使して、大宮の右サイドを崩しにかかる。
 これに対する大宮はリバプールのようにミドルゾーンや前プレではWGがSBを背中で消して、アンカーが415の1を見て、IHは縦パスを消しつつSBに入った場合に対応する。自陣からミドルゾーンでは433のままで守備することが多かった。



3.横浜のプレスに圧倒される大宮(試合開始〜54分までの各局面)

 3-1 大宮保持・横浜非保持

 大宮はビルドアップの局面で、横浜のマンツーマンに完全に抑えられてしまう。両CBとアンカーを抑えられたことが痛かった。これでは容易にサイドを変えることができず、横浜は縦パスを狙いやすくなっていた。対人が強い横浜の守備陣にWGやCFへの縦パスに反応されてしまい、うまく前進ができない。このようなチームには足元がうまい上田が効いてくるのかもしれない。前半の途中から大橋を中央に下ろす場面もあったが効果的ではなかった。唯一、うまく前進できたのが25分の場面で、右から左に素早く展開することで、やや横浜のプレッシャーが遅れたところを小野と柴山のコンビネーションでプレスを剥がしていた。これを見ると、やはり上手くサイドを変える事で前線の選手が少しでもフリーになる時間を作る、という点はビルドアップの局面においては重要なのだろう。
 サイドの崩しに関しては、左サイドの柴山と小野の連携が良かった。前半のチャンスはほとんど左から作っており、19分には小野のインナーラップから決定機も作った。


 3-2 横浜保持・大宮非保持

 大宮の前からのプレスが全くハマらず、うまく制限がかけられない。自ずと3センターの担当するエリアも広くなり、縦パスの制限もかけられない。
 また、DFラインの4枚は横浜の前線の5枚に対して数的不利。このため、対角のロングボールで容易に相手にボールが収まるし、ファーの選手は空きがちになる。このような形は再三見られたが、失点しなかったのは横浜のゴール前の精度に助けられた部分もあったように思う。
 45分の横浜の追加点の場面はライン裏に飛び出した齋藤、その動きに合わせた手塚は見事だったが、何より大宮がラインを上げた瞬間にタイミングよくライン裏を使ったのがうまかった。大宮としては流れの中で、再三素早い寄せで攻撃の目を摘んでいた大橋がDFラインに入っており、手塚への対応が遅れてしまったことも影響したのではないか。なお、この形はこれ以降も見られ、ペナ付近まで押し込んだ際に横浜の狙う攻撃の一つでもある模様。


 3-3 トランジション

 両チームともトランジションが素早く締まった展開が続く。大宮はトランジションでの大橋のボールに寄せる素早さが良かった。ただ、ボールを奪うシーンは少なく、奪ったとしても横浜の守備陣形が崩れているわけでもなかったので、カウンターにつながることはなかった。
 一方で横浜は前述の通り、ハイプレスによる制限自体は成功していたものの、ショートカウンターにまで繋ぐことはなかなかできずにいた。しかし、39分の場面、大宮のCB西村が油断していた隙に長谷川が猛プレッシャーをかけボール奪取。齋藤の素晴らしいミドルシュートが決まる。また、横浜は自陣でボールを奪ってから素早く前線に縦パスを供給できていた。長谷川が何度かサイドへスプリントしていたが、これを生かせるようになると、鋭いカウンターを打てるようになるはずだ。


4.矢島・富山による大宮の活性化(54分〜77分までの各局面)

 4-1 大宮保持・横浜非保持

 54分に大宮は武田に代えて富山を投入、富山は右WGに入り、矢島が左IHになる。富山が入ったことで、前線に起点を2枚作ることができ、ロングボールを放り込むことが多くなる。その結果、横浜のDFラインが低くなり、中盤でも少しずつボールが持てるようになる。ここで効いていたのが矢島だった。2列目に降りたことで前向きかつフリーでボールが受けられ、2つのゴールに関わる。
 まず、60分に左サイドなら矢島の精度の高いクロスが入り、SB茂木が決める。この際、横浜は大宮のスローインに対して人数をかけており、ゴール前には3枚しかいなかった。ボールサイドに積極的に人数をかける守備が裏目に出た形だった。
 63分の同点弾もスローインからだった。今度は右サイドを崩して矢島のテクニカルなシュートが決まる。サイドで崩してマイナスのクロスを入れるという形はこれまでも何度か狙っており、茂木と三幸のコンビネーション、矢島のマイナスで受けるタイミング、いずれもが素晴らしかった。
 両方のゴールとも横浜のボールホルダーへの寄せが遅れていることが大きく、試合開始からペースを飛ばしていた分、体力の消耗なのか、集中力の低下を生んだのだと思う。
 そして、71分には小野のロングボールから河田が潰れ役となり富山が決定機を迎える。前半にはこうした攻撃は見られなかったが、小野の正確なキック、河田のポストプレー、富山の泥臭いプレーが合わさり、見事な攻撃だっただけに、入らなかったのが残念だった。


 4-2 横浜保持・大宮非保持

 富山の投入をきっかけに、大宮の3トップはDFラインに積極的にプレスにかけ、中盤の3枚もこれに連動する形で、横浜の中盤を抑えにかかる。この結果、横浜はこれまでのように中央で前線への縦パスが入れられなくなる。67分に横浜はヴィゼウに代えて伊藤を、齋藤に代えて安永を投入したが、なおもこの状況は変わらない。
 一方の大宮は72分、矢島に代えて大山をそのまま左IHに入れる。大山投入の意図は415の1を抑えること、前線にロングボールが入った際のセカンド回収や追い越しを期待されたもの。攻守両面でインテンシティーを高め、3点目を取りにいく采配。この結果、更に攻勢を強めた。


 4-3 トランジション

 大宮の守備がハマり出した結果、トランジションでも大宮が優勢になる。横浜のビルドアップが思うように出来ない中、中盤でボールを奪取し、カウンターへ繋げるシーンも見られた。



5.勢いを生んだ富山の負傷(77分以降の展開)

 77分に横浜は小川に代えてクレーべ、高木に代えて山下を投入。クレーベはCFに入り、起点となる役割、山下は大宮の前線からのプレッシャーで中央からの進路が防がれてしまったため、右サイドからドリブルで前進させる役割。
 78分富山が負傷。中野が柴山と入れ替わりで左WGに入る。前線からの守備、起点作り、セカンド回収など大宮に勢いをもたらしていただけにこの交代は痛かった。
 互いに直接前線に放り込むシーンが増えるが、両チーム共に高いインテンシティーでゲームが続く中、ゲーム終盤の91分、サイドに張ったWB山下のパスをペナ内で伊藤が受けて山下に落とす。新里が堪らず足をかけてしまいPK。これをしっかりクレーベが沈めて大宮は万事休す。直前に山下に縦へ突破されてしまった小野は完全に縦を切った守備、大山も内側からアプローチしており、斜めのパスは予測できたはずだが、伊藤の良い動き出しに新里は後手に回る。山下に足をかけてしまったのも手痛いミスだった。



6.総評

 両チームともにインテンシティーが高く、お互いに今シーズンを期待させる出来だったように思う。戦術、展開含め開幕戦に相応しい好ゲームであった。

 6-1 大宮の総評

 大宮は前半ビルドアップがうまく行かず、今後の課題になることは明白であるが、先制点を除き危ないボールロストがなかったことは評価できる。また、後半は選手交代を機にロングボール主体の攻撃も披露し、攻撃パターンに幅を感じさせるとともに、ただ上手いだけではなく、インテンシティを強く発揮できる部分も見せた。また、両サイドのコンビネーションは非常によくWG、IH、SBで誰がどのタイミングで裏抜けするのか、パス役に回るのか瞬時に判断できており開幕戦とは思えないクオリティであった。言わずもがな、この試合の主攻は左サイドで、特に矢島が左IHに回ってからの攻撃は目を見張るものがあった。大橋がサリーして新里が左SBの位置に入り、攻撃の起点になる場面があったが、このサリーするタイミングが良かった。大橋は攻守両面で地味ではあるが、クレバーな選手で、矢島と共に今シーズンの主軸となる選手であろう。
 また、守備面では前半のスイッチが入らない、ダラダラとしたプレスは残念だったが、富山の投入によりプレスのスイッチが入るようになった。曖昧な守備を続けていた河田や柴山も生き生きとDFラインにプレッシャーをかけており、後半のために温存していたのかと疑いたくなる運動量であった。


 6-2 横浜の総評

 横浜の強力なハイプレスはJ2の他のチームも恐れ慄くものだった。両ワイドの素早いプレス、DFラインの対人の強さ、これを突破できるチームはなかなかいないはずだ。ポイントとしてはいかに横に揺さぶりをかけられるかであろう。
 また、攻撃面ではいわゆるミシャ式の415、主に左から放つ鋭い攻めと、押し込んだ際の横パスから一気にライン裏を狙うロブパス。ゴール前のクオリティはまだまだこれからだと思うが、攻守両面で末恐ろしいチームだ。
 個人的にキーマンなのは手塚だ。ビルドアップの局面では縦パスの配給役となり、時折見せる対角のロングボールも精度が高い。押し込んだ場面ではテクニカルなスルーパスを出せる。対戦相手はこの選手をいかに抑えるかがポイントになる。


7.新加入選手の印象

 7-1 大橋

 大橋はネガティブトランジションの局面で、捕まえるべき相手に対して素早くプレッシャーがかけられていた。守備の予測がいいのであろう、地味に見えるかもしれないが、チームの攻守のバランスを保つ上で非常に重要な役目を果たしていたように思う。ハイプレスの局面では前線からの制限さえできれば水を得た魚のようにボールを刈り取ってくれるだろう。ボールを受けた際にはシンプルに捌くことが多かったが、ミドルゾーンで時たま見せるサリーの動きは左サイドに厚みを生み、効果的な攻撃を作り出していた。
 今シーズンのアンカーの役割がこの試合の大橋のそれであるのであれば、競争相手は三門になるはず。


 7-2 三幸

 前半の三幸は攻撃ではいい形で右サイドまでボールが運ばれるシーンが少なく、守備では上記のように前線でうまく制限がかけれらなかったために、影が薄かった。が、21分に柴山への対角の正確なロングボールを出したシーンは良かった。この試合、IHからのサイドチェンジが少なく、こういったパスは攻撃に違ったテンポを生み出すので今後に期待。また、後半も目を見張るようなプレーはなかったものの、時折見せる中距離のパスは流石で、茂木との連携が良く、二点目にも絡んでいた。


 7-3 武田

 武田はビルドアップでは横浜の前線からの制限もあり苦しい局面でボールを受けることが多かった。ただ、21分にペナ内で小野からのパスを受ける場面が見られるなど、敵陣深くでスペースに飛び込むような動きに特徴がある印象。後半にはミドルゾーンでの柴山、小野とのコンビネーションから河田の決定機を生むこともできた。


 7-4 茂木

 この試合では左が主に攻撃ルートであったため、頻度としてはそこまで攻撃に絡むシーンは多くなかったが、先制点を奪い、2点目を演出するなどしっかりと結果を出した。
 守備面では、横浜の5枚の前線に対して大宮のDFラインが4枚であり、横浜の主攻が左であったことから後手に回ることが多かった。ペナ脇での粘り強い守備は今後の課題であろう。


 7-5 矢島

 前半は横浜のハイプレスに晒され、いい状態でボールを受けることができなかった。しかし、後半に左のIHになると持ち前の攻撃センスを発揮。得点シーンで見せたキック技術、スペース入るタイミング、シュートの技術、いずれも今後の活躍を期待せずにはいられない働きであった。間違いなく、今シーズンのエースとなる選手である。


 8.既存戦力の印象

 サイドバックにコンバートされた小野、彼を左SBに起用するメリットは当然ながら攻撃面にある。高い精度のロングボールやクロスが出せる事、WGへ鋭いパスもできる。インナーラップでボールを受けることもでき、19分にはそのような形で決定期を演出。DHをやっていたこともあり、中に絞って守備する際の動きも的確。課題はサイドでの守備対応で、決勝点の起点は小野が対応していた山下のパスだった。この試合では顕著ではなかったが、元々中盤の選手だけにゴール前でのクロス対応はどうなのか、心配ではある。
 また、良い印象をもったのは柴山で安易なボールロストもなく、堂々のプレーぶり。クロスもすれば、シュートも打って、試合が終わるまで運動量も落ちない。若さを感じさせない安定した働きで今シーズンの活躍を期待させた。

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