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迷い道での出会い

道に迷った。
車社会の当地では、立派な舗装道路で、
道幅も一般の道路と同じなのに、辿っていくと、
人家の前で行き止まり。ということが結構ある。

自宅周辺は昔(聖武天皇の頃)から住居地だったせいか、
道が入り組んでいて、一つ曲がり角を間違えると、
とんでもないことろに出てしまう。

片側3車線に路面電車まで走っている大きな通りは、
歩道も広くていいのだけれど、
広すぎるせいか車が邪魔に停車していたりする。

所用を済ませての帰り道、
徒歩の私でさえ通り抜けできないほどの大きな車が、
歩道にデンと止まっていた。

その手前の車一台通れるほどの細道に入ってみた。
自宅方向へ歩いていくと、行き止まりになっていたり、
ぐるりと一周するだけの道だったり、
歩いているうちに方角がわからなくなった。

大通りへ戻ろうと車の音がする方へ未舗装の道を行くが、
細い道は人家を縫うようにくねくねと曲がり、
車の音が大きいからすぐ近くのはずだが、たどり着けない。

うっそうとした森が、朽ちた塀の内側に広がる場所に出た。
山? こんな市街地に?
昔は由緒ある家だったことを思わせる屋根付きの板塀。
今は空き家か? また行き止まり!

竹藪が入り込んでいる庭には灯篭のようなものもかすかに見える。
と、後ろから女性の声が「どこにいかれます?」
振り返ると白髪の老女が立っていた。

迷い込む人が多い場所らしい。
中学校ならこっち、小学校ならあっち、
と、指さす方角にはあの廃墟の森だ。「行き止まりでは?」
大丈夫、横に細い道が続いているから、通りに抜けられるよ。

珍百景に投稿しようかと思ってるの、あの竹の丈どう思う。
凄い高さでしょ。「確かに田舎の山にしかない高さですね」
この一帯の地主だった人の家。もう亡くなったけどね。

木を切ってほしいって言ってるんだけど、
ぜんぜん! 若夫婦が住んでいるようだけど、詮索しないの。
この一帯は昔小高い丘で、大きなニッキの木(肉桂)が生えてて、
子供の頃はニッキの木の根を掘って食べるのがおやつだったわ^^

「根を掘ってそのまま食べるのですか?」
そう、皮も美味しいよ・・そうだ、ちょっと待ってて。
老女は近くの家に入ると、ほどなく手に木片を持って戻った。

もうあまりないから少なくて悪いけど、かじってみて。
彼女がかじるのを真似てみた。
樹皮から独特の甘いニッキの味が立った。
よかったらまた遊びに来て。

老女は廃墟の森の脇まで一緒に来て、道を示し消えた。
うっそうとした森の横を通り抜けると、
大通りから少し入った、車が頻繁に通る道で、
自宅は目と鼻の先だった。

振り返ってもあの森は不思議と見えない。
キツネにつままれたような気分で家に着いた。
手にはニッキの木片がある。

梅雨空のような朦朧とした気配の中で出会った老女。
もう一度あそこへたどり着けるだろうか。

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