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冬の通学の思い出(003/100)

大学時代、最寄りの駅まで自転車で通っていた。少し先の駅にでれば、割と大きな駅があった。けれども、住んでいるところは住宅街で、夜更けには車もたまにしかすれ違わないようなところ。夜に立ち漕ぎをしながら、ちょっと上を見上げる。そうするとキラキラした星が見えるほどだった。

冬は自転車通学にとって厳しい季節だ。耳がちぎれるくらいに痛くなるし、手袋は絶対に忘れてはならない。仮に忘れでもしたら、手先の感覚はなくなる。

夏の汗だくの立ち漕ぎも辛かったが、冬の冷たいキンキンの風をあびながら帰るのはもっと嫌だった。寄り道して、帰るのをやめたくなるくらい嫌だった。

でも、冬の自転車通学で唯一好きな時間がある。それは朝、それも日が昇る前の時間だ。まだ真っ暗な中走り出し、夜と朝が混ざり合う流れを感じられる。早朝の澄んだ空気は特別だった。

当時、朝イチの電車に乗ることが多く、それに乗るためには5時台に家を出る。1日の中でも最も寒い時間帯。自転車を漕ぐと自然と息があがり、吐き出す息は真っ白に立ち上っていく。新しい空気を目一杯吸いながら、全力でペダルを漕いでいた。

朝と夜が混ざり合う空模様に、シンとした真新しい空気。人の気配も感じない。まっすぐな道に自分がひたすら全力疾走するだけ。自分だけがそこに存在しているような時間だったように、思う。

その特別な時間は駅が近づくにつれて終わる。魔法が解けるような感じで、現実に近づく。

今はどんなに始発に乗っても、あの澄んだ瞬間はない。


100日チャレンジ 003/100
ひとこと:犯人しか知らない言葉を書きたくて、思い返しながら書いてみた。

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