繰返し

あれは未だ若かりし頃だ。
年末年始を友人宅で過す為に
車で移動していた時の話…

一人暮らしの私に友人が
私の実家でお正月を過ごそう、と
仕事納めの後迎えに来てくれた。

もう既に夜は遅かったが、先ず
友人の彼氏の居る博多へ向かった。

何処ぞの峠に差し掛かった時
車、一台も通らないな、と思っていた。
音楽を掛けながら、下らない話をして…

ふと、左側を見れば動物の形をした地蔵が。

あれ?

と思ったが気の所為だと思い
友人との会話を楽しんでいた。

其れから暫くして友人がこう云った。

「あれ?此の峠、こんなに長かったっけ?」

友人曰く、ゆっくり走っても三十分も走れば
峠を下り平坦な道に出る筈だ、と。

だが、既に二時間以上走っている。

私は違和感を思い出し訊ねた。

「あのさ、何回か登り下り繰返してるけど
道間違えたの?」

すると、友人は困惑したような顔で…

「此の道は一本道で、一度下りたら
右左折の道があるだけだよ。
そんな何回も登ったりしないって」

……………え??

私も困惑してしまった。
そして、違和感を覚えた事を伝えた。

「下りた位の左側にさ。
犬っぽい地蔵が在るんだよ…毎回」

そう…
あの地蔵を過ぎると、又登っていた。
だから、此の近隣は
昔から信仰に厚い土地かな?と。

…そして、もう一つの違和感。

「あのさ、ずっと走ってるけど
一台も車、見てないよね。前も後ろも」

私の実家の田舎の深夜でさえ
車は絶えない時代だ。
だから、ずっと違和感を感じていた。
乗用車は勿論、深夜の配送トラックすら
すれ違わない、此の異常な時間。

私も、友人も、恐怖が顔に現れる。
思わず吃り口調になったり、
やけに早口になったり…


そして又、峠を下りる場所に差し掛かった。

「ほら!見て!お地蔵さん!」

私の大声に友人はスピードを落とし
其の地蔵を見た。

赤い前掛けが動物の姿以上にはっきり映った。

「下りた、ね。もう直ぐ右折の筈だから」

友人の言葉も虚しく…
車はもう一度、峠を登り始めた。









コレも実話です。
今だから、友人、と云っていますが、当時はバイト仲間なだけでした。

北九州から博多、博多から大分へ…

の道中の話です。

此の何度も登り下りを繰返して居るだけで、事故に遭った訳でも無いし、ナニか出て来た訳でも無いのですが…

只々、延々と登って下りる、地蔵を見る。を
繰返しました。

途中、余りにも何回も繰返すから、
あ、私寝てるんじゃ?運転してくれてる友人に悪い事してるんじゃ?
と、思ったものですが(笑)

お互いに峠から出られない恐怖、ガソリン無くなる恐怖、を口にしながら…
何時間も走っていた筈なのに、朝が来なかったのも恐怖でした。
 
此の侭、出られないのかな…と泣きが入って来た頃…対向車の灯りが見えたのです。

すると、下りた先の地蔵を見た後…
友人の云った通り右左折出来る道に出ました。

其処は、矢張り深夜でも乗用車、トラック等が走っている道でした。

やっと博多に行けるな、彼氏待ってくれてるかな、と友人が時計を見ると…
峠に入って出て来た今の時間は三十分程しか経って居ませんでした。

……………怖っ。

今でも、たまに友人と電話で話す時、此の峠の出来事が話題に上ります。
そして思います。 
視えるヒト、だったならナニか視えて居たのかな、と。








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