千代子の中に熊がいる(お茶代3月課題)


今は昔、ベアーズチョコというお菓子があった。
チョコに混じりてグミの入った、様子のおかしな食べ物である。

はじめてそれを食べたとき、私の味覚は途方もなく未発達であり、絶妙な食感にビビッて即吐き捨てた。
なにせチョコレート菓子といえばキョロちゃん一択の時代である。
見れば明らかに違う食べ物だとわかりそうなものだが、皴ひとつない脳みそを有する私は「中のピーナッツが腐ってる!」と嘆き大粒の涙を流した。
当時はまだチョコの中身がピーナッツかコーンパフしかないと思い込んでいたため、以後はじめてキャラメル味を食べるときにも同様の涙を流すことになるのだが、無知とは本当に恐ろしいことである。風評被害も甚だしい。

そう、ベアーズチョコとは熊型のグミを内包したチョコレートなのである。
カラフルな見た目をした奇怪なお菓子は、コマーシャルも奇怪だった。
産婦人科で診察を受ける島倉千代子に医師が「熊懐胎」を告げ、「千代子の中に……熊がいる……」というセリフのあと、「チョーコのなーかに熊がいる〽」という歌が流れるのだ。
メーカーはUHA味覚糖。思えば当時からシュールでユニークなコマーシャルが多かった。

はじめてそれを見たとき、すべすべした脳みその更地部分に、特大の稲妻が落ちたかような衝撃を受けた。
15秒の尺とは思えない情報量。あまりにもおもしろすぎやしないか……。
驚くべきはツッコミ役がいない。千代子は唖然としているし、医師は事も無げにお祝いの様子である。
超音波検査で確認しているようだが、熊は結構なサイズである。
一体どのくらいの時間をかけて大きくなったのか?もしかしたらそれは、熊のかたちをした腫瘍なのかもしれない。
しかし、体内の熊はめちゃくちゃ元気に動いているのだ。
謎は尽きない。気になりすぎる。思わず商品を買いたくなる。というか、私も体内にクマを飼いたくなってきた。

このテキストを書くにあたり、おもしろいと感じたポイントについて改めて考え直してみたが、やはり自分は言葉遊びが好きなのだと思う。
全体像を捉えてはじめて、見えないものが見えてくるのがおもしろいと感じる。
願わくば、影だけを描き込んで文字を浮かび上がらせるような作品をつくりたい。平面な言葉にたくさんの意味を持たせたり、解釈の余地をつくったり、もっと可能性に富んだ文章を書いてみたい。

思い浮かんだことを思い浮かんだままに書いてみたが着地点を完全に見失ってしまったので、一旦チョコレートを食べて落ち着こうと思う。
ひとまずは締め切り直前の焦りからくるハイテンションなスピード感が伝われば幸いである。

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