星愛美さん①

星愛美さんについて書くなら、まずは2年前のあの夜のことから遡って書く必要がある。

世の中がコロナ真っ盛りだった頃、私は上京を一ヶ月後に控えていて、今よりも不安定で衝動的に生きていた。

その日は突発的にストリップを観に行こうと思い立ち、突発的に家を飛び出す。
原付に跨がり肌寒さを感じながら、今日の終わりと夜の始まりを葉桜の並木道の中駆け抜けた。

劇場の中に入り、恥ずかしげもなくかぶりの席にどかっと座る。
私が行った時間は遅くてその日の最後の公演だったが、なんだか人が多いなと思った。
後から彼らが星組の皆さんだと分かった。

正直ステージの内容はあまり覚えていない。
その後の出来事が印象的過ぎるからだ。

ただ、星さんは持ち味であるキレの良いダンスと手捌きで、ゴージャスな衣装を身に纏い汗だくになりながらも最後まで笑顔を保ったままだったことを覚えている。パワフルで、全力で、悲しみを振り払ったり受け入れたりするような演技に自然と涙が溢れた。

全ての演目が終わり満足感に浸りながら煙草を吸っていると、お客さんの一人が声を掛けてくれた。
若い女が一人でストリップを観に来て、真っ先にかぶりの席に座るのは珍しいらしい。

「ここの裏におでん屋さんがあって、今からみんなで飲むんだけどどう?」

青天の霹靂なお誘いを酒が飲めないくせに迷わず引き受けた。
なんか面白いことになってきたぞって、ドキドキとワクワクを抱えながら。

そこには既に星組の皆さんがいて、片付けをしていた星さんが少し後からやってきた。

星さんが私の隣に座ってくれて、先ほどまでステージの上で踊っていた美しい人が間近にいてとても緊張した。

私はもうすぐ上京することを話し、彼らは「星組」と名乗り星愛美さんの追っかけをしていることや高円寺のことなどを、星さんは若い頃ストリップ劇場で経験した苦しいことを話してくれた。

みんな冗談を飛ばしながら笑顔で語っていた。

何も持ってない若造にここまでしてくれるんだ、大人ってすげえなと思いながら話を聞いていた。

星さんから聞いた話を、私はずっと忘れないでいようと心に誓い、今でも大切に持ち続けている。
その中にはえげつないことの方が多かったけれど、耳障りの良い言葉なんかとは比べ物にならない意思と信頼があった。

見知らぬ若者に自分の苦しみを明るく赤裸々に語れる人は世の中に少ないと思う。
星さんは、そういう人だ。

「最初飲み行こうって誘われた時、怪しいと思ったやろ?ごめんなあ急に誘って。あのね、星さんのことを応援している人達は、みんな過去に何かを抱えてる。だから分かるの。星さんもそうだから。星さんは強くてかっこいいでしょ?かっこいいんよ。だから応援したくなるんだよなあ。まあ、なんか僕ら、こんな感じでやってんのよ。いつまで続くか分かんないけどね。」

星組の方の「いつまで続くか分からない」という言葉がやけに胸に刺さったような気がする。

その夜、おでんをご馳走して頂き、星さんの特集が組まれた回のザ・ノンフィクションを焼き増ししたBlu-rayまでもらい、至れり尽くせりでホクホクしながら家に帰ったが、やはり何かがずっと引っ掛かり、家族が寝静まる中そっとリビングで貰ったBlu-rayを再生した。

涙が止まらなかった。

なぜみんなが過去の苦しみを笑顔で話し、それをいじり合い、「またね」を繰り返して別れるのか、その答え合わせが出来たような気がした。

あの夜「将来何を目指してるの?」という質問に何も上手く答えられなかった。

そのことが小さな悔いとして、私の心の中に残り続けている。


初めてストリップに行った時の記録はこちらです。
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