狭間の世界14

「伸びろ。」
神剣を横薙ぎする直前のタイミングでそう命じると、神剣はイメージした通り、
因子の最奥の居る位置まで刀身が伸長され、空中に停止して居る因子の集団の中央を
一気に切り裂いた。
「今の攻撃で136体の因子が死にました。」
無感情に言う、宙に浮くあの白い翼を一対背中に生やしたいつもの男。
「光の神剣は後何本あるの?」
「今のが最後の光輝の神剣です。」
「え?」
何とも予想外な答えだった。
「じゃあもう攻撃手段は無いの?」
「いいえ。まだ神剣は残っています。」
「ああ、成る程。」
「はい。貴方様専用の神剣、暗黒の神剣でございます。」
「だろうね。それはデチューンされてないって事だね?」
「ええ、そもそも自衛用の暗黒の神剣は、失敗作を流用した物なので。
この暗黒の神剣ならば、闇を司る貴方様ならば8回は振れます。」
暗黒の神剣を男はボクに手渡した。
「それが限界なの?」
「いいえ。時間的にそこまでしか鍛えられなかったのです。
もっと膨大な強化時間があれば、攻撃回数は増やせると思います。」
「そっか。まるでRPGだねえ。」
「はい、その様にすぐ理解出来る様に、貴方様の地上での教育課程では
ゲームを好きに成る様にしておりましたので。」
「うん、知ってる。それと何故今に成って、貴方「様」なの?」
「馴れ馴れしい、と上から叱られましたので。
貴方の」
「言わなくていいよ。分かってるから。
今まで通りで構わない。他人行儀な方が疲れる。」
「分かりました。ではそうします。」
話が終わって、男はボクから離れた。

のんびり話をして居る間に、因子も状況を理解したらしく、
バラバラに浮いて居た者達が一箇所に集合し始めた。
そして、集合した因子は形を変え、一つの何かに姿を変化させた。
チョビ髭の男の顔・・・アドルフ・ヒトラーの顔だ。
「子供は叩いちゃ駄目よー!」
巨大なヒトラーの顔がけたたましい声を発する。
ははっ、成る程。
確かに因子の共通する意識としては、結局そこへ帰結するのだろうな。
古い因子も新しい因子も、共通する悪意は結局それを選ぶのだ。
「元々因子は、悪しき魂の意識だけを飛ばした存在なので、
あの様な形状変化も容易なのでしょう。」
「そうだね。」
タナトスが解説をしてくれたので、ボクはついでに剣を振る。
すると流石に警戒して居たのか、集合体は構成して居た因子を分離させ、
バラバラに成って回避する。
しかしそんな事はボクも分かって居るので、もう一度逆方向へ振り返す。
すると避けられた事で油断して居たらしく、大量の因子が斬撃に巻き込まれた。
取り敢えず、上に逃げた集団を先に斬ったので、下へ逃げた集団も斬っておく。
三度目の暗黒の神剣の横薙ぎも、かなりの数が巻き込まれる。
「今の攻撃で、453体死にました。」
数も多いので、死ぬ数も半端では無い。
それにしても、光の神剣と違って闇の神剣は、いちいち「伸びろ」とか言わなくても
思うだけで勝手に伸びてくれるので、実に便利な武器だ。
「残り66体です。」
白い翼の男は告げる。
再び因子は集合して、ヒトラーの顔に変化する。
「ひっ、卑怯だぞ!」
さっきよりも随分と小さく成ったヒトラーの顔が非難の言葉を吐く。
「何が卑怯なものか。お前達因子は悪しき魂から生み出された、
そもそも生きて居る事自体が不自然な存在。ならば、お前達が生きて居る場所は
何処であれ、そこがお前達因子が死ぬ為の場所だ。
死ぬるべき存在に存在に死を与えているのだから、寧ろ当然の事だろう。」
言い終えると同時に剣を振るが・・・流石に避けた。
「フハハハハハハ!残念だったなアスペ!
その長い剣では、空中では攻撃出来ても地上スレスレでは攻撃出来まい!
アハハハハハハ!ガイジは、障害者は、劣っている存在!
頭が悪過ぎて、手も足も出ないのだろ?んー?どうしたどうしたジャップ?
白人と違って、日本人の障害者は本当に頭が悪くて劣っているからなあ!
ガハハハハハハ!」
「捕まえて。」
そうボクが言うと、急降下したヒトラー頭の真下に、大きな口が開いた。
「え、何で?」
口が一気に閉じて、口の端から生えた牙が喰らい付く。
「やめろ!離せ!まだ死にたく無い!」
どうやらこうして喰らい付かれると、内部へのダメージと拘束によって、
バラバラの因子状態に成って逃げる事が不可能らしい。
ヒトラー頭が逃げようとすればする程、360度からの牙が食い込んで来る。
丁度良いので、ボクは狙いを定めて剣を振った。
右へ左へ。そして右へ。
最後の横薙ぎは口が牙を放してくれたので、ヒトラー頭は再び安心してしまったらしく
上昇してしまい、また大勢死んだ。
「残り1体です。」
「見りゃ分かるよ。」
残る因子は1体だけ。
大きな口が消えて、地上にポツンとへたり込んで居た。
男みたいな格好をした、障害者差別をするのが大好きな女、
フェミニストだった。
しかし、逃げる事は出来無い。
フェミニストの周囲には大きな一つ眼が無数に睨んで居て、
黒い手が無数に体を掴んで居るのだ。
暗黒の神剣の攻撃可能回数は残り一回。
これで始末をする。

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