狭間の世界3

「赤ん坊は産まれた直後、もし呼吸していないのなら、
両足首を掴んで逆さに持ち、尻を叩いて呼吸をさせる。
産まれた時から尻を叩かれる、その事だけ見ても分かると思うんだけれどね。
人間が育つ事と尻を叩かれる事。この二つは切っても切り離せない関係で、
もし尻叩きをやめてしまったら、人は人であって人間では無く成ってしまう。
その時、人類は自らの営みを維持出来無く成って、
必ず滅亡する。人類という種が途絶える様に作られている。設計されているんだ。」
相も変わらず、崩れ掛けたビル街で二人は会話をして居た。

「皇子は夜と闇を司っているんですよね。」
「そうだよ。最初に昼と光を司っている者が地上に派遣された。
それが裁きの子だった。
と成れば、必然的に次に派遣される救いの子は、
夜と闇を司っている事に成る。
だからアイツは、人間を出来るだけ沢山操って、
「夜は怪しい存在、闇は邪で悪しき存在」と
世界上に広める事にした。」
「そして計画は成功した。・・・かに見えた。」
「操られていた人間には、成功に見えた、筈だろうね。
そもそもさ、どうしてバプテスマのヨハネが救いの子、なの?
片方は天から派遣されているのに、片方はただの人。
どう考えても釣り合わない。
そして、裁きの子と同時期に生きた、というだけで、
その異様な持ち上げられ方、それがそもそもアイツのやり口な訳で。
テレビも同じ方法で操作していたよね、アイツはさ。」
「でも皇子は、キリストも嫌いなんですよね?」
「まあね。あの男が作った宗教の末裔のせいで、
ボクはずっと苦しめられた、苦しめられている訳で。
そう考えると許せないという思いはあるよね、確かに。」
「でも、それは不可抗力な様なものじゃないんですか?
まあ、皇子なら不満を言っても、立場的に問題無いとは思いますけれど。」
「うん、人間なら不敬だとして、罪に成るだろうけれどね。
あの男に関しては、ずっと嫌いな訳じゃないと思うよ。
それに本当に嫌なら、嫌うより無視するでしょ、きっと。」

「でもさ、おしりを叩いたからって、決して助かる訳じゃないんだよね。
丸出しを尻を叩かれて、それを子供が自ら望む様に成って、
子供は裸で居る事を受け容れられる様に成る。
でもそれは素地が出来上がった段階であって、
そこから更に、人として正しい行動を繰り返しながら、
最終的に正しい判断が可能な人間に育つ必要がある。
そうでないと、最期に待ち受ける試練に耐えられない。」
「統治の世界の最期に訪れる試練ですよね。
本来は無法の世界の最期にも存在する筈でしたけれど。」
「そうだよ。その時が近付いて来ると、
再び無法の世界の最期と同じ状況が作られる。
ボクが間違っていた、と言う噂が伝搬し出して、
「子供の尻を叩いてはいけない」と吹聴する売名に成功した人間が現れる。
その人間は「子供の裸も決して晒してはいけない。
子供の裸を晒せ、と言う人間は子供を強姦するつもりの、
凶悪な犯罪者だ。」と、必死にテレビで喧伝し始める。
そして、残念ながら、人間の大半はそれを信じる。
人間というのはね、分かり易い権威にとても弱いんだ。
だからこそ、尻を丸出しにして、必死に叩いて教育をして、
自分で考え、自分で答えを出せる人間を育てなければいけないんだけれど・・・
困った事に、「可哀想だ」と感情論でそれをやめさせようとする人間が
再び現れて邪魔をする。だから、統治の世界に成っても、
完全に尻叩きの教育が実施可能かと言うと、微妙だろうね。
一時的には叶うかも知れない。でも、逃げ出すのも自由だからね。
逃げた先に待っているのは、試練の後の死だけれど、
でも人間ってさ、安易なものに縋り付きたく成るから。
仕方無いよ。
きっと、それが取り返しが付かない過ちだと気付いた時には、
もう世界は尻を叩く教育を完全に認めた世界だろうし。」
「それが平定の世界、なんですね。」
「まあね。」

「人間が長い間、神が統治していない時代、放置されていた時代、
無法の世界がどうして必要だったのか。
それはアイツとの契約も勿論あったけれど、
理由はそれだけじゃないんだ。
シュメール人を覚えてる?」
「えっと・・・どんなんでしたっけ?
すみません、歴史はどうも苦手で・・・。」
「大丈夫だよ。シュメール人はキリスト誕生より遥か以前、
紀元前3800年頃に突如歴史に現れた人々の事だよ。
彼等は高度な文明や技術を現地の人々にもたらして、
その地は大いに繁栄した。
にも関わらず、それ以上の技術は発展させる事は出来無かった。
それは彼等が「技術を教えて貰っただけ」だったから。
結局現地の人間達も、伝えられた文明の恩恵に預かっても、
それ以上の事は出来ず、他民族に滅ぼされてしまった。
実は、これが無法の世界が必要だった理由なんだ。」
「自らの力で文明や技術を生み出し、その使い方を学ばないと、
本当の意味では活かす事が出来無い?」
「その通り。
正確には、自らの力で「生み出したつもり」に
成ってくれないといけなかった。
大事なのは「使い方を正確に学ぶ事」だからね。
本当はね、人間は自分達で色々な技術を生み出したと思い込んでいるけれど、
それは間違いなんだ。
実際には遺伝子内にシークレットデータが書き込まれていて、
人類がその技術が必要に成った時、特定の条件を満たした人間だけが
そのシークレットデータを引き出す事に成功する様に作られていて、
それで「自分達が発明した様に見える」状況を作らせていたんだよ。」
「ひょっとして、今までの全部そうですか!?」
「そうだよ。インクだろうが羽ペンだろうが、
テレビもラジオもインターネットも
車も飛行機も船もみんなそう。
だってさ、少し考えれば分かるでしょ。
どうしていつもいつも、人類が困ったタイミングで
都合良く新しい技術が生まれて来るの?
不自然にも程があるでしょ。」
「まあ確かに・・・言われてみればそうですね。」
「シークレットデータは特殊な記述で書いてあるから、
解読不可能だし、記述だと言う事自体、人間は認識出来無い。
だから、「自分で考えた」と思い込む。
でも、そこは大事な所じゃない。
大事なのは、技術を使いこなせる様に成る事。
統治の世界でも、平定の世界でも、
インターネットやテレビは存在するからね。
原始的なものだけれど、情報伝達の技術としては
とても必要なものだから。」
「つまり無法の世界は、学習の時代でもあったんですね。」
「そういう事に成るね。
因みに「生み出した思い込んだ技術」には、
人殺しの道具なんかも入っているけれど、
それは「間違った道具は使っていけない」と教える為に、
人類に必要な教材として存在している。
当然、実際にそれを勝手に使って誰かを傷付けていたのは、
間違い無く人間達自身の責任だ。」

「無法の世界においては、神は直接統治を行っていなかった、
という点は、エホバの証人が言っていた事と同じですね。」
「それは連中が知っていた、数少ない真実の一つだからね。
だからこそ、キリスト以降、あからさまな奇跡はほぼ無かったでしょ。
まあ、ボクが殺されるというアイツ側の契約違反が発生したから、
その時点から契約履行は不要に成って、
あんな事が起こった訳だけれど。」
「はい。私も活躍の機会を貰えました。」
「うん、御苦労様。御蔭様で闇の軍勢も表舞台に立ったね。
統治の世界はキリストが統治する、これも連中の主張は正解。
但し、地上にはボクが残って、政治、教育、メディア、全てに関与する事に成る。
これは連中も知らなかった事。
そして、その為にもボクは必要な事を無法の世界において、教育される必要があった。
子供への丸出しおしりへのぺんぺんと、子供が裸にされる必要性、
この二つに関しては本来子供が必要だった事だから当然として、
それ以外にも、女という性別は男以上に暴力性を含んでいて、
正しく教育を行わなかった場合、それが現実に発露してしまう事、
それとこれは子供の裸とも関係しているけれど、
子供は不必要に隠すと、子供自身を傷付ける結果に成る、という事。
例えば、学校ではトイレに入って大便をすると、
それだけでいじめられる。何故か?
それは、子供が不必要に排泄シーンを隠されてしまっているから。
人間は誰だって、肛門から大便を出すのに、
それを子供時代から隠してしまうから、
その排泄をするトイレという場所が、いじめの温床に成ってしまう。
隠されていなければ、子供は大便の排泄を当然の事と認識出来るのにね。
小便は他人のを見る機会もあるけれど、大便を見る機会が
ギャグ漫画の中にしか無いというのは、
完全に毒としか状況言えないだろう。
ギャグ漫画が悪いと言うのでは無くてね。
だからこそ、統治の世界に成ると、子供は皆、
尻が丸見えの状態に成るトイレを使わされるし、
それによって子供は大便の排泄というものを
誰でもする当然の事と認識し、
またそれにより、人は皆同じである、平等な存在である、と認識する。
人は何故、尻の穴から大便を出すのか?
それは、人だから、なんだよ。」
「人が自らの立場を弁える為、という必然性でもあるんですね。」

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