見下していた明日4

これは、少しばかり意識を拾った結果である。
人間の構成する社会というもののサンプルとして残しておく。

また、昔と同じに成ったんだ、と思った。
ムチ、という言葉がずっと頭の片隅に残っていて、
それで居て、自由に成った様な成ってもいない様な、日々は過ぎて居た。
ある男性が殺された噂が流れて、それから少しして私は確か・・・
死んだと思う。
有り得ない話だけれど、街の中心部に居た私は、その時ビルより大きい巨人を見た。
金属製の巨人で、その巨人がビルを壊して居て、その壊れた破片が私の頭を直撃した。
気が付くと私はここに居て、体が子供の頃に戻って居た。
ムチ、をされていた頃の姿に。

そして、その記憶を刻み付けた母親も、そこには居た。
私と同じ子供の姿に戻っていたけれど。
もう、ずっと会っていなかった。
家を飛び出して、それっきり。もう思い出したくも無かった。
幸い私は職を得られたし、住む所にも困らなかった。
でもまた、戻ってしまった。
そして、あの巨人の事も、決して夢では無いと知る。
だって目の前には、小さい頃散々聞かされた、御使いの姿が在ったからだ。

白い服を着て、白い翼を生やして、そして手には鞭を持って居た。
その鞭で、私達人間の尻を叩くと言う。
私は絶望した。
これが千年統治なの?エホバの証人から聞いていたのと、全然違う。
そもそも、あの組織は「子供に成る」なんて教えて無かった。
・・・ああ、そうか。
やっぱりあの宗教の連中は、嘘をついていたんだ。
思えば、そりゃそうだ。
自分達の懐の為に、集金システムを作り上げる連中だもの。
一般の平信徒を騙せれば、本当の事なんぞどうでも良かったのだ。

考えれば考える程腹立たしい。
うん、でも一つだけ良い事を見付けた。
自分では尻を叩かれた事の無い母親が、尻を叩かれる姿を見られる事だ。
親はずっと親のままで、一方的に子供を傷付けておいて、
都合が悪く成ると、
「あの時代は仕方無かったのよ。
ほら、大学教授の教育評論家の人も言ってたでしょ?
子供は叩いちゃ駄目なのよ。だから今はエホバの証人も叩いていないのよ。
やっぱりエホバの証人は前進的よね。やっぱり真の宗教だわ。」
・・・この間、母親から掛かって来た電話の内容だ。
昔の証人仲間づてにだけれど、やっぱり連絡先なんか教えるんじゃなかった。
今の話なんかどうでもいい。
私は「昔の私の人生を返して欲しい」のだ。
御誕生日もクリスマスも七夕も桃の節句も、全部「聖書が禁じているから」駄目。
テレビも母親の許可したものしか見せて貰えない。
折角出来た友達も、「世の人と関わっちゃ駄目」だから、遊ぶ事すら禁じられる。
楽しい事は全て取り上げられて、それでいて嫌な事だけは
普通の子供以上に押し付けられる。
学校の勉強も、聖書の勉強も、エホバの証人が作った書籍の勉強も、
毎週三回の集会も、全部こなさなきゃいけない。
一つでもサボろうものなら容赦無く、
「おしり出しなさい。ムチだからね。」。

でも私は覚えています、お母さん。
クラスメイトと喧嘩して、その子に引っ掻き傷を作ってしまった時、
あなたはこう言いました。
「その子は世の人でしょ?じゃあ別にどうでもいいんじゃない。
どうせその子だって、将来は滅ぶんだし。アハハハハハハ!」
私が悪い子だから叩いていたんじゃないの?
全てはお母さんがルールなの?


「浄化を開始する。」
嫌な時間だ。
私は尻を出して四つん這いの状態に成って居る。
また昔みたいに、情けなく泣く事に成るのか・・・。
おしりに痛みが走る。
ん?何だろう・・・あんまり痛くない。
分かった。加減して叩いているんだ。
でも、これでいいのか?
「あの、もっと力を込めて叩かないんですか?」
「我々は怪我させるのが目的では無い。
尻に痛みを与え、浄化する事が目的なのだ。」
そう、御使いは答えた。
成る程。
考えてみれば、使っているのもエホバの証人が使っていた
「鞭もどき」なんかじゃない。本物の鞭棒だ。
エホバの証人の母親達は面白がって子供に激痛を与えていたが、
それは子供に反省をさせる為なんかじゃなかった。
子供は結局母親達のオモチャで、子供を良い子にする為なんかじゃなかったのだ。
確かに痛いのは痛いが、この尻叩きは飛び上がる程じゃない。
何だ、懲らしめのムチとは全然違うものじゃないか。
最後まで叩かれても、おしりは全然平気だった。

母親が叩かれる番に成った。
尻に鞭が振り下ろされる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
大袈裟に叫び始める母親。
ああ、この女は、散々子供の尻をムチ打って来た癖に、
一度も自分では尻で堪えた事が無いのだった。
情けなく声を上げる母親。
私はやっと、この世界に来て感謝した。
この前までの世界では、絶対に叶わなかった、
親が子供に戻って、我が子の苦労を味合わされる世界。
この世界は公正だ。
人間が実現出来無かった、真実の公正な世界だ。

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