見下していた明日5

浄化が暫し進んだ頃の事である。
人間の一部の者が、度々特定の箇所に集まって会合の様なものを開いている、
そんな情報が入って来た。
事前に報告があった集合予定の場所に、人間よりも先に辿り着く。
虚視(きょし)状態に成り、姿を隠す。
虚視状態とは、人間の肉眼では認識不可能な状態に成る事だ。
無法の世界の黎明において地上へ降りた光の天使は、主に
この状態を用いた上で地上に降り、必要であれば解除して人間の前に姿を現した。
と、言っても、人間から見えようが見えまいが、
こちらとしては特に何かが変わった、という事も無い。
いつもと同じだ。

集まって来たのは、嘗て大学の特任教授だった男、
雑誌編集長だった女、「健やか親子21」なる計画を推進していた
日本の厚生労働省職員だった者達等が合計21人集まって居た。
「健やか親子21」と言えば、「愛の鞭ゼロ作戦」という、
「子供の尻を叩いてはいけない」という悪魔の教えを布教していた、
人間達を陥れる為の計画だ。
前回の闇の皇子の視察後、闇の軍勢側から資料を受け取って
目を通していたので、今回はある程度この連中に関して事前知識がある。
この「健やか親子21」のサイトには、あの障害者を虐殺した
アドルフ・ヒトラーととてもよく似た格好をしたアニメキャラクターのコーナーがあり、
「“愛のムチ”って、まちがってる!?」等という、
これまた「子供を叩くな」という、人類滅亡を願う者達の主張が載っており、
やはり当時、無法の世界の最終盤において闇の皇子が主張していた通り、
「税金を使ってナチスの教えを広めようとしていた」というのは、
紛れも無い事実の様だ。ヒトラーに似たキャラクターを使用したのも、
暗に「子供の尻を叩かない事」には、
「ナチスの思想が根底にある事」を現しているのだろう。
「健やか親子21」という計画が始まったのが、
ライオンの様な髪型の総理大臣の頃で、
「児童ポルノ禁止法」も、
ライオンの様な髪型の総理大臣の頃だった。
やはり、悪魔の教えは特定の人間によって意図的に人間達に広められていたのが、
こうして見るとよく理解出来る。

連中、21人の子供の姿をした、者達が樹々の影で話し合いを始める。
闇の皇子から「危険思想の持ち主」と指定された人間ばかりである。
私は部下を配置に付け、連中の監視を始めた。
当然、人間からはこちらが見えておらず、何も気にする様子は無い。
「計画は順潮に進んでおります。各地の仲間と極秘に連絡を取り、
いずれ一斉に奴等に反旗を翻す予定です。」
元厚生労働省職員の男が報告する。
「マスメディアが使えないのは不便ね。
テレビが使えれば、簡単に人間達を騙せるのに。」
元特任教授の男が悔しそうに言う。
「天使の奴等が、メディア関係を全て封じていますからね。
原始的な方法に頼らざるを得ません。
仲間との連絡は、肛門から入れた手紙で行っています。」
ああ・・・そういう事だったのか。
実は闇の皇子から、「人間の健康調査と危険分子の監視を兼ねて、
直腸検査を定期的に行った方が良い。」と言われていたのだ。
人間達が矢鱈と嫌がるので、遅々として進まなかった訳だが・・・
成る程。こういう理由があって人間は嫌がっていたのか。
「忌々しいわね。大体、何が天使よ。悪魔の方が正しいに決まっているでしょ。
ヒトラーさんはね、悪魔の考えに基づいて行動していたのよ。
だから障害者を虐殺するという、素晴らしい
人類最大の功績を残したんじゃないの。それを否定するなんてね、
ガイジ共の味方をする様なものよ。
障害者はね、私達ナチスに殺されるのが役目なの。
それをヒトラーさんは私達に教えてくれたでしょ。
上の人間が下の人間を支配する、当然の事よ。
劣っている日本人を白人さんが支配してくれるの。当然の事よ。
僕はね、障害者が息をしているだけでも許せないの。
アウシュビッツとガス室が無い世の中なんてね、碌なもんじゃないのよ。
子供達に每日「ハイルヒトラー」って言わせなきゃいけなかったの。
その為の「子供のおしりを叩かない教育」だったのよ。
それを邪魔する天使や神なんてね、悪魔に殺されればいいのよ!」
元特任教授の男は声を荒らげた。
成る程。確かに闇の皇子の言う通り、
神への反逆を企む、紛れも無い危険分子だ。
やはり、「子供の尻を叩く事を否定する人間」というのは、
根本的に人間の個体として欠陥品なのだろう。
自分でそう思っているだけでは無く、必ず他者へも
この悪魔の教えを伝播し始める。
人としての義務を否定し、神をも否定する。
作られた事を忘れ、人間が一番偉いと思っている。
猿から生まれた人間だと思い込んでいて、その癖、
猿から人間を作れた事など一度も無い。
嘘に塗れ、嘘を信じ、嘘を広める。
どうしようも無い個体である。

この、悪意の塊の様な連中が、闇の皇子をずっと苦しめて居たのである。

「殺しますか?」
部下がサインを送って来る。
そうだな・・・生かしておいても良い事は無い。
さっさと始末した方が良さそうだ。
この人間達が連絡を取っている連中も、既に全て把握しており
別の地区の仲間がいつでも殺せる状態だ。
「よし。殺せ。」
目配せで部下に指示を送る。

全員、虚視状態を解除する。

解除しない方が楽に殺せるが、上からの指示で
「何も分からない状態では魂を殺すな」と言われている為である。
「なっ、何なのアンタ達!?」
「ひ、ひ、光の天使だ!何処に隠れていたんだ!?」
突然姿を表した事で、人間達は慌てふためく。
霊剣を一斉に振り上げる。
確実に魂を殺さなければ。
だが。

「皇子が処断を行う。担当者は執行を停止して、その場で待機せよ。」
突然闇の天使を複数人連れて、闇の皇子とアクタが現れる。
今の声はアクタのものだ。
我々は霊剣を仕舞って、その場で直立待機をする。
「この者、皇子に仇成した者の中でも特に悪質な者である。
よって、直接の処断が下される事と成った。」
アクタが言い終えるか終えないかというタイミングで、人間が声を上げた。
「障害者が生意気に息なんかしてるんじゃねえ!
呼吸を止めて、さっさと死にやがれ!」
元厚生労働省の職員である。
「そうだそうだ!死ねガイジ!」
皇子は、闇の軍勢は、無言で様子を窺って居る。
「やっぱり自殺しないぞ!アスペは本当に空気が読めないなあ!
障碍者は「死ね」って言われたら自殺しないといけないんだぞ!
それがヒトラー閣下の教えだ!そして厚生労働省の総意だ!」
「アスペざまあ!」
「日本人アスペが!何が近衛兵の子孫だよ!
俺達霞が関の官僚に比べたらな、どんなに良い血筋でも、
所詮日本人は劣等民族なんだよ!池沼ジャップが!」
もうすぐ殺されるかもしれない状況で、未だに悪魔の考えに縋っている人間達。

こんなにも・・・尻を叩かれていない人間は馬鹿なのか。
こんなにも尻を叩かれない事で、愚かに育つのか、
人間という生き物は。
厚生労働省という組織の連中は、エリート教育を子供の頃に受けていたらしいが、
尻を叩かれた事は一切無かったらしい。
尻を叩かれない事、それが人間をここまで駄目にする。
やはり、人間は尻を露出させて叩かなければ駄目だ。
そういう生き物として設計されているのだ。
それをしなければ、生き物として堕してしまう。

一人の人間・・・元特任教授の男が、調子に乗って石を投げ付ける。
しかし、それは闇の天使が掌から放った青白い光条によって、空中で切断される。
・・・だけでは無く、男の右腕にも命中した。
すると、男はその衝撃で跪く。
「あ、あれ・・僕どうして?」
おや?確かに元特任教授の男の右腕に命中した筈だが・・・
特に何の怪我も負っていないようだ。
「僕、誰にも傷付いて欲しく無くて、一方的な暴力が許せなかっただけなのに・・・
あの時、白人が僕に契約を迫って来て、それでナチスなんかに・・・。」
「学生時代まで記憶が戻った様です。ダメージ調整は成功ですね。」
ば、かな・・・闇の天使は記憶だけにダメージを与えられるのか。
「そこまで分かっているのなら、この後どう成るか、分かるよね?」
「僕を・・・殺すのかい?」
「うん。魂を殺すよ。君は人間の中で要らない個体と判断された。
人間は元々、高位の存在に管理される為に生み出された生き物。
管理者が不在の状況下で、君達人間は自分より下だと判断した
障害者を虐げた。そもそも考えてもみなよ。
どうして神はわざわざ障害者という、
欠落した存在が生まれる可能性を設定したのかを。
少し思慮を働かせれば分かるだろう?
自分より下の立場にどう接するかを見て、
人間に僅かでも「上に立つ資格があるか」「生き物として優れているか」
テストしていたんだよ。
結果は御覧の通りだ。
人間には管理者としての能力は全く無かった。
数も沢山増えたけれど、「子供の尻を叩かない」という
悪魔の教えに簡単に騙されて、生物としての優位性も示せなかった。
だから、比較的優良な個体だけは残ると思うけれど、
それ以外は全員処分されるよ。魂そのものを。
でも、本望だろ。お前達が大好きなナチスが、何の権限があるか知らないが、
「障害者は役に立たないから」と虐殺していたんだから、
こうして生物としての劣等性を自ら証明したという事は、
殺されても何も文句なんか無いよね?
ボクは元々、人間では無かったけれど、人間としての罪を背負わされて生まれた。
そんなボクを君達は「アスペ」だの「ガイジ」だの「池沼」だの言って、
馬鹿にしていたよね。
どんなに良い血筋だと証明されても、
馬鹿にしていたよね。
生まれたお前が全て悪いと、
馬鹿にしていたよね。
そして、お前達の「子供の尻を叩かない教育」で育てられた子供に、
ボクは殺されたんだ。
ボクは思うんだ。人間は本当に生かしておいて良いのだろうか、と。
本当はね、神が望んでいないのなら、今すぐ人間は全員殺すべきだとも思っている。
でも。子供の尻を鞭で叩く浄化を行い続ける事で、
まだ人間は再起出来るかもしれない。
だから、今の所は、神には「人間の不要性」を進言しないつもりだ。」
「ありがとう・・・ありがとう・・・。
人間の為に、人間がした全ての悪さへの怒りを堪えてくれて。
全ての人間に代わって感謝します。本当にありがとう。」
元特任教授の男は、頭を地面に擦り付けて御礼を述べて居る。
学生時代は、こんなに純粋な人間だったのか、この男も。


その場に居た21人の人間は、こうして魂を処刑された。
しかし、記憶がダメージを受けた元特任教授の男は、
闇の皇子に最期まで感謝して居た。
日本の厚生労働省に所属していた人間は、
全員一人残らず「危険分子」として常時監視対象と成っている。
その大半がこうして反逆活動に関わっているのだから・・・
本当に皇子の言う通り、ナチスの思想を信じている者は、
悪魔の考えに魂まで染まっているんだな、と思う。

しかし、皇子は帰り際に呟いた。
「無駄な事をしているのかな」と。
そんな皇子をアクタが必死に励まして居る姿が、私の印象に残った。

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