さよならの向こう側で7

タナトスやフェッシー等数名の集団が、ビルの屋上に居る。
眼下では、相も変わらず下らない事に興じている人間達の姿が有る。

「でも障害者って社会の役に立って無いんスよね?
そんな連中に税金で御金渡すとか、おかしくないっスか?」
「そうそう。だから君はオレオレ詐欺をやったんだよね。」
「そうっスよ。金を持っている年寄りから金を巻き上げて、
世の為、人の為に犯罪やったんスよ。
何が悪いんスか?」
「そうそう。犯罪組織と言うね、慈善団体の為に
彼は働いた。とても立派な少年じゃないか。
それなのに、日本人の障害者ときたらどうだ!
毎日300億円もの障害者年金を支給されているんですよ!
10日で100兆円だぞ!こんな事が許されるか!」

「どんな計算したら、そんな数字に成るのかしら?」
「厚生労働省がテレビで発表したから、
民衆は「有り難や有り難や」って事なんでしょ。
この国は、もうそういう国なのよ。」
呆れ顔のフェッシーの言葉に、エネマは眼下の小事など
心底どうでも良さそうに返す。

「あの近衛兵の子孫と名乗る男はね、
何と一日9999兆9999億9999万9999円も受け取っていたんだぞ!
殺されて当然だ!ヒトラーはやはり正しかった!
ハイル・ヒトラー!」
街角で公開生放送している番組に、
周囲の連中は口々に「ハイル・ヒトラー!」と叫び出す。
「NO!SPANK!」と書かれた鉤十字の立て札を掲げて、
KKKの白装束に身を包んだ連中も声を上げる。
「我々、子供の尻を叩かない教育の勝利だ!
セーブ・ザ・チルドレンはナチスと共に!」

「おうじは一円も受け取っていなかったのにね。
こうして、どんなに潔癖に生きていても、
この国のナチス信者共は障害者を殺そうと画策する。」
「そもそも国民を保護するのは、国の義務でしょうに。
そんな事も分からないなんて、
本当に随分と多くの猿を養っているのね、
この国は。」
エネマは湯気が昇る緑茶を湯呑で、まったりと味わって居る。

「障害者ってズルくないスか?
ズルいっスよねえ?
ズルいっスよねええええええ!?」
まだ十代と思しきオレオレ詐欺の実行犯は、
どうやら厚生労働省側との司法取引に成功したらしく、
その契約通りに民衆を煽る。
「税金は、犯罪者の為にこそ使うべき。」
これが厚生労働省の当面の方針であった。
法律なんて、結局こうやって
権力の都合の良い形に変わって行ってしまう。
そんなものを人々は「宝」と呼んで、有難がっていた。
正に「夢の21世紀」である。

「おうおう、結局「人間様は神様です」って奴等が、
健常者用に作られた社会に貢献していない奴はゴミだって、
また騒いでやがんのか。」
後ろから、一人の男が現れた。
前を開けたトレンチコートを着込んでおり、
紅いレンズが嵌められた丸縁眼鏡を掛けて居た。
名はZ80と言う。
「ゼッちゃん!」
エネマが飲み終わった湯呑を脇に置くと、
すぐに立ち上がってZ80の元へ駆け寄った。
「エッちゃん元気だったか?」
「うん!」
エネマは頭を撫でられて、満面の笑みである。
「はー、年下に頭撫でられるのって、そんなに嬉しいの?」
「フェッシーちゃんも、好きな人が出来れば分かるわよ。
女は愛されてこそ、よ。」
「へいへい、どうせ今まで恋人なんて居た事ありませんよーだ。」
フェッシーはエネマの言葉に呆れながら、その場を離れた。
意図した訳では無いが、結果的にタナトスの隣に来た。
「身内にイチャコラしてるのが居ると、何だかやり難いよね。
私なんて、おしり擦ってくれる人も居ないのに。」
「擦って欲しいなら、擦ってやろうか?」
「ありがと。気持ちだけ受け取っておく。」
タナトスの言葉にそう返すと、フェッシーはそのままビルの端から歩き続けて、
空中を暫く歩行する。
「さあて。そろそろ下らない悪戯をやめさせないとね。」
フェッシーは天高く人差し指を掲げると、
それを地表の連中に向けてゆっくりと振り下ろした。
「ソドムの日と同じに成る様に。」


次の瞬間、民衆の中心から真っ青な炎が巻き起こり、人々の躰を燃やし始める。
化学繊維で織り上がった服はあっと言う間に燃え、
凄まじい速度で連鎖的に引火を引き起こす。
人間が密集して居た為、そこは青い炎の塊と成った。
少し離れて声を上げて居た人間達は、慌ててそこから走り出すが、
今度は一瞬で塩の柱に成った。
またあの小さな金属の四角片が無数に降り注いでおり、
綺羅綺羅と輝いてとても綺麗な光景であった。


「魂に不純物が多いと、良く燃えるね。」
フェッシーは呆けた表情で、そんな事を呟いた。

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