さよならの向こう側で4

13月1日が来た。
昨日は12月31日だったから、今日は1月1日の筈なのに、
何故か誰も13月に成った事に疑問を持たなかった。

「あれ?13月に成ったんだね。」
「本当だ。今日から13月だ。スゲー。」
「13月なんてはじめて!」

人々は誰に教えられる訳でも無く、
今が13月だという認識を自然と受け入れて居た。


「人間はいつも、自分が自分の支配者なのだと思い込んで居た。
しかし人間の設計図は我々が所有している。
人間は自分がどう設計されているのか知りもしないのに、
まるで全て分かったかの様に振る舞った。
そこには「科学的」だの、「データ」だの、
そんな浅知恵ばかりが詰まっていた。
今が13月である。それが事実だ。
人間は本能的に13月が来る事を知っていたが、
その時が来るまで脳が思い出す事を拒否する様に作ってある。
だからその時が来るまで誰も気付かない。
月日はずっと繰り返すものだと、自分自身に思い込ませようとしていた。
今が裏切りの月だ。そして終わりの月だ。
人間が裏切ったから、13月が訪れた。」
タナトスの言葉が地を這った。


空からフェッシーが降って来る。
ビルが立ち並ぶ街中の歩道。
向こうから歩いて来た、三十代と思しき女性に声を掛ける。
「御嬢さん。貴女はナチスが好きですか?」
「好きな訳無いでしょ。」
立ち去ろうとする女性。
フェッシーはその腕を掴まえる。
「ならどうして『子どもをすこやかに育てる会』のステッカーなんか、
バッグに貼っているのかしら。」
「そ、それは・・・。」
動揺する女性。
フェッシーはそんな女に人差し指と中指で触れて、
事も無げに呟いた。
「お前はもう生きて無くていいよ。」
次の瞬間、女の体は内側から破裂し、肉体の原型が崩壊した。
人の形が瞬く間に失われ、粉の様なものが後に残って、それもすぐに風で飛んだ。
「あはー!楽しー。」
心底嬉しそうな顔で立ち尽くすフェッシーが居た。
「人間って、何で自分が一番偉いと思ってるんだろうね。
きっとおつむが弱いんだね。それなのに障害者の事を馬鹿にしないと
自尊心を保てないなんて、可哀相。
可哀相だから、命をみんな摘み取ってあげようね。」

兎顔の人間が路地裏の隅から顔を覗かせて、こちらを見て居た。
「こんにちはー。いい天気だね―。」

一つ目が描かれたフルヘルムのメットを被った
全身緑色のコンバットスーツを着込んだ所属不明の兵士達が、
二個小隊程路地から現れて、前衛の数人が自動小銃を構える。

空を飛行するエイが飛来して、
背中に乗った幼稚園のスモッグを着込んだ6歳程の姿の少女が、
エイに向かって話し掛ける。
少女の名はエネマ(enema)と言う。
「アルファレイ、ここでいいよ。」
エイが体を斜めに傾けると、
エネマは体を丸めた状態で地上へ向かって落下する。

謎の小隊のコマンダーが手振りで指示を出すと、
後方の人員の一人がエネマの落下予定地点に向けて
スタングレネードを投げ込む。
周囲に閃光が走って、人混みからは悲鳴が上がる。

高さ数十メートルから着地する少女。
何事も無かったかの様に走り出すと、スカートのポケットからクレヨンを取り出して
それを横に向けた状態で人混みの中を突っ切って行く。
エネマが通り過ぎた後には、切断された人体がゴロゴロと複数転がっていた。


「地球には、75億超の人間が頭(こうべ)を垂れて実って居る。
裏切りの実を刈り取ろう。
一粒も残す事無く。」

空には「収穫祭」という文字が紫色に浮かんでいた。

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