永遠の庭-150

何処かの狭い空間の中で目が覚めた。
それは木製の狭い部屋で、どうやら自分は座ったまま寝て居たらしい。
「ここは馬車の中ですわ。」
向かいの座席に座る西洋兜を被ったドレス姿の貴婦人らしき者が、そう答える。
「貴女は?」
「ジャーラコッドですわ、闇の皇子様。」
落ち着いた声である。顔は兜で完全に覆われておりよく見えないが、
若い娘のそれでは無い事だけは分かる。

ふと。
馬車が止まる。
ジャーラはスッと立ち上がると、何処からか一振りの剣を取り出して、
そのまま馬車の外へと降りた。
馬車の前に一人の全裸の女が居た。
しかし、それは感情の無い何かに見えた。
ジャーラコッドは、剣を振り上げると何の躊躇も無く斬り殺した。
「どういう事?」
「人間ではありません。貴方様は因子という者を御存知でしょう?
それのとても弱い者、とでも認識すれば宜しいかと。」
「そうなの・・・?」
何だか釈然としない話だ。
釈然としないと言えば、結局ここが何処なのかも分からない。
何やら夕焼けに染まる荒野、という感じの場所だ。
ジャーラは御者に一瞥をくれると、御者は無言で会釈をした。
それは、猫耳の様な突起が頭に双つ付いた黒いローブを着込んだ、
暗く黒く沈んだ闇に紅い二つの眼が光る御者であった。
この馬車は四頭立てで、馬は白い毛並みに両眼は蒼く光って居た。
ジャーラは既に馬車の中へ戻ってしまったらしく、自分もそこへ戻る事にした。
ボクが座席へ座ると、それを見越したかの様に、馬車は再び走り出した。

「RPGだと思えば良いのですわ。」
「何が?」
「全てはロールプレイなのです。貴方様が貴方様を演じて居る、
そう思えば気楽に楽しいで御座いましょう。何事も。」
「これは現実だよ。知覚が、全てがそう告げている。」
「不真面目でも良いのです。この世界は享楽。
或いは享楽という名の自由なのです。」
「自由には責任が伴う。それを忘れたから前世界における人間は
ああいう事に成った。」
「貴方様を愉しませる為にこの世界は存在する、そういう事にしておきましょう。」
「単一の自意識を満足させる為に、他の複数の自意識が存在する訳じゃない。
全ての魂が幸福だと感じる事が、平和という事だ。」
「得てして幸福は客観性を伴わないものですわ。」
「そう思って全てに納得しろと?」
「そこまで傲慢な結論ではありませんわ。」
この女は結局何を言いたいのだろうか。
雲を掴む様な事を言われた後で、数瞬の沈黙が通り過ぎた。

「ボクに、どうしろって言うの?」
「自由にすれば良いのですわ。全ては自由なのです。」
未だに暮れぬ、永遠の陽光に咽び上がる大地で。
暗い赤紫に輝く荒野の中を馬車は疾走する。

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