狭間の世界7

13月3日の朝だ。
海に面した公園からも、水面がキラキラと耀くのがよく見えた。
「先程の因子ですが、恐らく、本来の戦闘形態であった場合、
無法の時代の闇と違い身体が侵食されてしまうので、
それで夜間は人型状態への擬態を行って居たと思われます。」
「そっか。ありがと、教えてくれて。」
ボクはタナトスに礼を言った。

と、向こうの方から幼い少女と、紅い眼鏡を掛けた長身の男が歩いて来るのが見えた。
「おーい!」
「御姉ちゃん!?」
それはエネマとZ80であった。
「はじめまして、でいいのかしら?皇子、宜しくね。」
「ある意味「はじめまして」じゃねえけれどな。
俺達はずっと一緒に戦って居た様なモンだぜ、なあ皇子さん?」
「ああ、Z80の言う通りだ。
これは「はじめまして」じゃない「はじめまして」だ。
ボクもそう思う。」
「私達は、皇子の書いた話の中で既に会って居るものね。」
そう・・・ボクは嘗て「さよならの向こう側」という話と、
「狭間の世界」という話を書いた。
それは当時、ただの下らない作り話の一つであり、
誰も現実の事を書いているなどと思って居なかったのだ。
以前の体の時の母親でさえ、「聖書の中に書いてある」と自分の解釈を信じていたし、
ボクの話は何度しても相手になどして居なかった。
つまり、ボクとボクの言葉は、全てゴミであった。
誰も未来の一つの可能性だとは思っていなかったのである。
しかし皮肉な話だ。
結局、人間は一番選んではいけない
「救いの子を殺す」という選択肢を選んでしまった。
結果的に人類には、「千年間、丸出しの尻を鞭で叩かれる」という、
一番辛い未来が用意されてしまった訳だ。
「尻を叩かれる事」から逃げ続けた結果。
一番苦しい形で尻叩きの教育が実現されるのだ。
とは言っても、遡れば当時は結局ボクが嘘つきなのであって、
本物の嘘つきこそが正義者なのである。
何とも言えず、人類という生き物は愚かな方向へ進んでしまった。

まあ、いい。
ナチスが世の中を支配している限り、どんなに真実を話しても、
ボクは結局、ずっと嘘つきのままだったのだ。
しかし、それは必ず終わりが来る。
そう、どんな形でも必ず終わりが来る。
人類が望もうとも、望むまいとも。
明けない夜は無いのと同じで、
沈まない太陽もまた、無いのだ。

フェッシーとタナトスは、積もる話もあるだろうから、
ボクは席を外して遠くの空でも眺めて居る事にした。
暫くして、エネマとZ80は挨拶をして去って行った。
どうやら、再び他の都市を回って色々と事後処理しないといけないらしい。
忙しない事だけど、一時でも二人に癒やしがあったのなら幸いだと思った。
午後の陽が近付いて来る。
タナトスに事前に聞いていた因子が訪れる時間が近付いていた。

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