狭間の世界9

先程のヒトラーの因子に関して、強力な因子程飛ばすまでに時間が掛かると思われ、
だからこそ部下の方が細かい情報を与えられていたのだろう、
という話をタナトスとした。

また今日も夕方が来る。
夕暮れの空に、一人の宙に浮いた人間の姿が見えた。
その人間は両手を広げ、何かを無数に周囲に向けて飛ばした。
「第五波です!」
タナトスが叫ぶ。
因子の体は明らかに女であったが、頭の存在するべき部分には
青い鳥の様なマークが浮かんで居るだけで、そこから声が発せられる。
「障碍者は子供を叩くと言っています!
これは暴力行為です!暴力を認めるのは宗教です!
暴力を振るう障碍者の男を許すな!
必ず殴り殺せ!我々のは正しい暴力だ!」
体はスーツだったり、私服だったりしたが、どれも必ずズボンを履いて居た。
ボクは女だからスカートを履かなければいけないなんて思わないけれど、
ここまで徹底してズボンばかりを選んで履くというのは、
一種、カルト宗教の様にも感じるのだった。
まるで、それが教理であるかの様に、必ずズボンなのだ。
それはともかく、姿が一定では無く、常に変わり続けて居るという事は、
この因子は不定形型の因子という事に成る。
複数の意識が反映されているタイプなのだろう。
「「子供の尻を叩け」と言い続ける障害者の男を監視しろ!
そして殺せ!」
周囲には、無数の虫の様な形をした機械が浮いて居る。
「皇子、生体ドローンです!」
成る程、確かにこれはドローンだ。
無法の世界の最終盤に登場した機械で、案の定、人類は悪用をする事を考えた。
監視、テロ、暴力。下らない利用法ばかり思い付いていた。
成る程、だからSNSと連携しましょうって事か。
実に下らない。
「ハイルヒトラー!」
女の因子がナチス式の敬礼をすると、生体ドローンは一斉に襲い掛かって来る。
ドローンはスズメバチに近い形状をしており、尻の先端に鋭い針が付いていた。
「ガイジざまあみろ!アスペざまあみろ!」
それをボクは暗黒剣で薙ぎ払う。
「もう少しでナチスの完全支配が完了する所だったんだぞ!
国連の事務総長もKKKであり、ナチスであり、
セーブ・ザ・チルドレンというナチス組織によって、
日本は白人の奴隷国家にして貰える寸前まで行ったんだぞ!
それなのに「子供の尻を叩け」とか言って邪魔しやがって!
ガイジ野郎がフェミニストを舐めるんじゃねえぞ!
世界中のフェミニストはナチスでKKK支持者なんだぞ!
ヒトラーが大好きなんだぞ!
それに当て嵌まらないフェミニストは一人も居ない!
つまり障害者のアスペ野郎!
お前はナチスに逆らった事で、
世界中のフェミニストを的に回してしまったんだ!
ヒトラーを!ナチスを!障害者は認めなくちゃいけなかったんだよ!
ヒトラーに虐殺して貰って「ありがとう」って感謝しなくちゃいけなかったんだよ!
ギャハハハハハハ!」
「下品さが正しさだと言うんなら、お前は正しいんだろうな。
だが、ボクは人間の信じる正しさなんかどうでもいいんだ。
人が神を作ったんじゃない。神が人を作ったんだ。
遺伝子上に書き込まれたフェイクの知識「進化論」を未だに信じているんだろうけれど、
猿と人間の進化過程における完全な境目を証明した人間なんて、
未だ嘗て誰も存在しないんだよ。
それなのにお前達は未だにフェイクを信じる。それが邪教だとも知らずに。
その遺伝子上のフェイクを拒絶した者にしか、救済される資格は無い。
それと同じで、「子供の尻を丸出しにして真っ赤に成るまで叩く教育」を
信じない者にも、救いは存在しない。
それは神が正しいと認めた唯一の教育法だ。
それを受け容れないのならば、その者は死ぬしか無い。
だからお前は死ね。
愚にもつかない自己弁護をして苦しみ続けるな。
虚偽の生を詭弁で正当化するな、神の生存基準に当て嵌められて、
完全に死ね。」
「うるさい!だからお前はカルト宗教信者なんだよ!
ヒトラーとナチスを実践している存在だけが、
フェミニストに生きる事を認められた存在だ!
世界一のイケメン、ヒトラーの教え通り、死ねガイジ!」
そう言ってまたナチス式の敬礼をしようとして居る。
また生体ドローンをけしかけるつもりなのだろう。
生体ドローン自体はタナトスやフェッシーでも殺せるだろうが、
如何せん数が多過ぎる。
「アハハ!ざまあみろガイジ!アハハ!ざまあみろアスペ!」
相変わらず女は馬鹿みたいにヘラヘラと嗤い声を上げて居る。
そして。
「ハイルヒトラー!ハイルヒトラー!ハイルヒトラー!
ハイルヒトラー!ハイルヒトラー!ハイルヒトラー!」
と6回連続で叫んだ。
当然ナチス式の敬礼も決して忘れない。
一斉に生体ドローン、もとい攻撃するしか能が無い
イケメンという人種の様な虫が襲い掛かって来る。
「あの虫を殺して。」
ボクがそう言うと、目の前が湧き出した水流で渦巻いて、
突如として紅い海が出現した。
そしてその紅い海が一気に吹き上がり波と成って、
周囲を飛んで居る虫を全て包み込んだ。
虫は全て、死んだ。
「道を作って。」
今度は目の前に真っ青な階段が出来上がり、それをあの男が見たらしく、
目の前に白い光を放つ神剣が突き刺さる。
それを抜いてボクは階段を駆け上がる。
女の周囲には紅い水の壁が出来上がり、頭上をも包み込み、最早逃げ場は無く成って居た。
「フェミニストが一人でも居る限り、ナチスは不滅だ!
フェミニストはナチスだ!フェミニストはヒトラーだ!フェミニストはKKKだ!
フェミニスト万歳!世界は悪魔で満たされろ!アハハハハハハ!」
女の因子を頭の天辺から真っ二つに一刀両断する。
女の因子は死んだ。
そして、またこの世界に夜が訪れようとしていた。

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