人間の父親を殴った話

私が10代後半、もう集会へ行かなく成ってからの話。
父親はもう関鉄タクシーをクビに成っていた。その後、赤帽に所属する会社にドライバーとして雇って貰えるのだが、それまでの間、父は無職であった。そんな父親は真面目に就職活動をするでも無く、毎日家で酒を飲んで暴れるだけ。
その癖、口癖は「俺が今まで稼いでやったんだぞ!感謝しろ!」であった。
そんな時の話。

その日も父は朝から酒を飲んでいて・・・母が「だって脅されるんだもん」と言って、金を渡してしまうからなのだが・・・そんな訳で、また暴れていた。
夜に成ってもそれは変わらず、終いには父親は母に暴力を振るい出した。
「痛い!痛いよ!やめてくれよ!」
母親の悲痛な叫び。私は母と父の間に入ってをそれを止めようとした(兄は自分の部屋があるので、基本的に自室で静観)。
母親に殴り掛かる父親に、私は言った。
「女に暴力振るって、何が面白いんだ!男として恥ずかしくないのか!」
すると父親は、
「お前、親に逆らうのかこの野郎!」
と怒鳴って私に殴り掛かって来た。防御しようとしして、体を傾ける私。
右肩に痛みが走る。
私はこの情けない男が許せなかった。
「お前それでも男かあああ!」
私が、初めて父親を殴った瞬間だった。
すると、母親が突如として父親に縋り付いて、こんな事を言い出したのだった。
「大丈夫か?大丈夫か!?どっか怪我無いか?」
そして、私の方を振り返って、こう言った。
「お前は実の父親に向かって、なんて事するんだあああああ!」
え?
私、あなたの事、庇ったんだけど・・・。
「何でこんな碌でも無い子供出来ちまったんだろうなあ、ホントに。」
母親は本当に、つまらない物でも見るかの様な目で私をもう一度見て居た。
私の母親は、子供時代を台無しにした私よりも、自分に暴力を振るう男を庇った。
そして、私はまた、悪者にされた。

後でその事を母に聞くと、
「だって当たり前だろ!父親は一家の長。家を支えてくれている一番の存在だって、エホバの証人ではそう教えてるんだから!」
「お父さん、今働いてないよ・・・。」
「働いて無くても偉いの!それがエホバ的なの!だからお前は、お兄ちゃんと違って駄目なんだよ!」
その頃、母は兄と集会に行っており、もう私の事なんかどうでも良さそうだった。
私と一緒に集会へ行っていた頃は嫌そうな顔をしていたのに、兄と集会へ行き始めると、母親はいつもニコニコ顔だった。
兄は、不細工な私より顔立ちが良くて、頭の悪い私より勉強がとても良く出来た。
だから母は、昔から兄がお気に入りだった。
強姦された自閉障害の私は、「いじめられるお前が悪い」と言われ続けた。
産まれた時の「遺伝子上の顔面形成データ」と、「学習の習熟速度の高さ」。
これだけで人間という生き物は、血が繋がった子供でも待遇の優劣を付ける。
やっぱり、生物として出来損ないだと思う。
残念ながら事実である。

しかし、これらは昔の母と兄なので、もう昔とは違う。

さて、そんな事があって数日後。
父親が、急に私の部屋の戸を開けて、私に殴り掛かって来た。
私は咄嗟に避けた。
「何で避けるんだこの野郎!」
父親が怒鳴る。
「俺に殴らせろ!お前この前殴ったんだから、俺に殴らせろ!」
そう言って何回も殴り掛かって来る。
理不尽だと思うだろうか?
重度のアルコール中毒の人間なんて、基本的に相手に理不尽を押し付けて来る生き物なのである。
そもそも、私の人生に、理不尽じゃない事なんて、殆ど無い。
理不尽じゃないのなんて、ゲームとアニメの中、位のものである。
その時の私は、外へ逃げ出して事無きを得た。

しかし。そんなに上手く行く時ばかりでは無い。
母がその内、こんな事を言い出した。
「私とお兄ちゃんは集会へ行って来るから、お前は留守番してろ。その間、勝手に外へ出るな。泥棒に入られるから家に居ろ。」
「でも、お父さんが怒鳴ってて」
「我慢しろ!それが嫌なら一緒に集会へ来い!」
・・・集会は行きたく無かった。
だから、家で我慢するしか無く成った。

『何処にも逃げられない状況をこうして私は造られた』

すると、それを狙い澄ましたかの様に、父親が私を煽って来る。
「おーい○○(私の名前)居るんだろ?おーい意気地無し○○。また俺を殴りに来てみろよ。おーい、意気地無し野郎!」
私は我慢するしか無い。
5分我慢した。
「おーい意気地無し!」
10分我慢した。
「意気地無し野郎、出て来ーい!」
15分我慢した。
「弱虫出て来い!」
30分我慢した。
「いつまで隠れてんだよ弱虫!」
1時間我慢した。
「おーい!お前そんなだから学校でいじめられたんだろ!ざまあみろ!」
その言葉で私は、流石に我慢が限界に来た。

その当寺のウチの家族は、
父「いじめられるのはお前が悪い」
母「男なんだからもっといじめられて来い」
兄「お前がいじめられていたと勘違いしてるだけ」
と思われていた。

繰り返すが、昔の母と兄の話である。今の母と兄では無い。

私は部屋を飛び出していた。
「ふざるんじゃねえ!どんな思い出学校行ってたと思ってやがるんだ!」
私は、父を何度も殴った。でも、顔だけは絶対に殴らなかった。
怪我をするって、分かってたから。
だから、腕や胴体や太腿とかだけにした。
父親が以前私を殴ろうとした時は、普通に私の顔を殴ろうとしていたけれど。
私は父親が憎かった。
そもそも、エホバの証人に入信したのも、切っ掛けは母の妹(私を襲った女の母親)が勧めたからだが、最初に父親が酒ばかり飲んでは暴れている事に悩んでいたのが理由の一つだったからである。
なのにこの父親は、「変な宗教に入った」と言っては、また酒を飲んで暴れる。
一向に何も解決はしない。

ある程度殴った後、漸く父親は黙った。
正直、何も気持ち良くは無かった。
どんなに憎い父親でも、殴った後は罪悪感だけが残る。

私は、母と私の部屋に戻った。
自分だけの部屋があるのは、父と兄だけだ。
少しして、やっと母と兄が集会から帰って来る。
すると、父親はこんな事を言い出した。
「痛えよ!痛えよおおお!ちきしょー!○○のヤツ、俺が何もしてないのに、急に殴って来やがった!しかも何発も何発もだぞ!何なんだアイツは!ちきしょー!」
はあ?
煽ってたのは父親である。しかも「急に」って、ずっと煽ってただろ。
私は納得が行かなかったので、部屋を出て言った。
「お父さんがずっと、「弱虫」「意気地無し」「殴りに来てみろ」って煽ってたんだよ。」
すると、母は
「お前、お父さん殴ったのか!?」
と聞くので、
「殴ったよ。それは確かだけど」
私が言い終わらない内に、母は怒鳴る。
「じゃあお前が悪いだろ!」
兄も、
「そうだぞ!反省しろ○○!反省!」
と言って来た。
父親の顔を見ると、さっきまで痛がってた筈なのに、心底嬉しそうにニヤニヤと嗤っていた。
でも、暴力を振るったのは私。
「謝れ!」
と、母と兄に凄まれ、私は、
「お父さん、ごめんなさい。」
と、謝った。
相変わらず、父親はニヤニヤしていた。

それからも集会の度に、同じ様な事が起こる。
狙い澄ましたみたいに父親は煽って来て、私が我慢出来ずに殴ると、帰って来た母と兄に泣き付いて、私が悪者に成る。
ある時父親は「また拳で殴るしか能が無いのか?バットでも持って来い意気地無し!」と怒鳴っていたので、私も馬鹿なのですぐに頭に血が上って、野球のバットで殴った事が何回かあった。
父は買うだけ買って、一切野球の相手なんかしなかった、そんなバットとグローブ。
勿論、体に近い位置から殴らないから、酷くても打撲程度だけれど・・・でも、結局悪いのは、暴力振るった私なのだと思う。
どんな理由があっても、暴力を正当化は出来無い。
だから、こんな状態から抜け出したいのに・・・。

しかし、母はそんな私の事を
「ウチの下の子、家庭内暴力やってて、本当に困るのよー。」
等と言い触らしていたし、兄も
「○○はいつも暴力で解決するから。」
と言っていて、父親の言っている事を鵜呑みにしている様だった。

私は我慢の限界だった。
だからある時、母と兄が集会へ行っていても構わず、外へ行く事にした。
家に居るから父親が煽って来る。
そもそも、酔っ払っているとは言え、父が居るのにどうして泥棒が入るのだろう?
何故こんな単純な事に気付かなかったのか・・・自分の馬鹿さ加減に嫌気が差す。
・・・まあ、ストレスで思考能力が完全に低下してたんだよな、きっと。
あの時の私は「辛い」しか、感じられなかったから。
ま、それも言い訳と受け取られるんだろうけれど。

私は、夜の公園に行ったり、人通りの少ない通りを歩いたりして時間を潰した。

そして集会が終わる頃、家に帰った。
すると集会から帰って来ていた母親が、
「何でお前は家に居なかった!?泥棒が入ったらどうすんだ!?」
って怒鳴ったので、私が
「酔っ払っていても、お父さんが居るんだから問題無いでしょ?」
と言うと、
「でも居た方がいいし・・・。」
とか、何故か途端にモゴモゴと歯切れの悪い言い訳をし始めた。
そして、部屋から出て行く母親の方から、
「チッ。」
という音が、確かに聞こえた。
「え?何、今の「チッ」って?」
「うるせえな!疲れてるんだよお母さんは!」
そう言って、部屋を出て行った。

間抜けな私はその時、ハメられていたのだと漸く気が付いた。
母にでは無い。
それが666の仕業だと気付くのは、もっとずっと後の事だ。

その後も、夜の街を彷徨いて時間を潰すしか無かった。
母が兄と集会に行かなく成るまで続く。
兄と行かなく成ると、何処かの駐車場で車の中で母と時間を潰したりしていたのだが。

しかし、その後も思い出したかの様に、母や兄は
「あの時○○は暴力をしてた」
と言い出すのだった。
しかし、暴力を振るったのは私だ。
それは悪い事なのだから、私が悪いと思う。
だから私は、子供の尻を叩く事には大賛成だが、殴る暴力には絶対に反対だ。
そこには明確な違いが存在する。
尻叩きでは悪影響が無いが、殴ったら悪影響がある。

この事は黙っておいた方が私の印象は良かったのかもしれないが、私は誤魔化すのは嫌いである。
だから、あった事はあったと書く事にした。
それでまた私を悪者扱いし始める人間も居るのかもしれないが、どちらにしても攻撃する口実をそういう人間は探しているのだし、気にするだけ無駄な気がした。

この記事の中に登場した母と兄は、過去の母と兄なので、今の母と兄とは違う。

そと、もしこの記事の事で私が追い詰められる様な事があったら、自殺しようと思う。
その時はきっと、私が死ぬ時なんだと思うから。
私は小学校低学年で襲われたこの呪われた人生に、そんな縋り付いていたく無い。
少なくとも今現在は、生きて行く理由があんまり無い。
んでは、またね(`・ω・´)ノシノシ

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