永遠の庭-149

馬車が再び止まった。
「因子ですわ。」
それだけ告げると、ジャーラコッドは馬車をサッと降りた。
自分もそれに続くと、そこには一糸まとわぬ、9歳程の見た目の、
女の子供が居た。
「アスペ発見!ガガイのガイジ!ンゴンゴンゴ!」
その女の子供は、暴言を吐いて居る。
無法の世界の終盤に於いて、先進国でおびただしい数が確認された、
ナチス思想に染まった子供達である。
ジャーラは再び何の躊躇も無く、斬り殺した。
「正しい事を致しました。しかし正しい事は面倒ですわね。」
剣を鞘の中に仕舞うと、そんな事を独りごちた。

「無法の世界に於いて、子供の尻を叩かなかった事。
これが、因子が再び増殖した事の原因ですわ。」
馬車内へ戻ると、ジャーラは開口一番にそんな事を告げた。
「因子は全員殺したと思うけど?」
「今までの因子は確かに。しかし平定の世界における因子は異なるもの。
アイツが仕掛けたのですよ、統治の世界の終わり、囚われ業火に焼かれる前に。」
「手を打っていた?」
「御明察。本来は成功しない筈でした。しかし、このルートは少し質(たち)が悪い。
四番目の罪が生まれる状況を作ってしまった、という事は、
人類が浄化不可能なレベルまで悪を蓄えてしまった、という即ち、
これに違わぬ事。」
「それでは、この世界は不要、人間は魂を皆殺しにすべき、
という結論に達するけれど?」
「言い方に語弊がありましたわね。
正確には、統治の時代の終わりの段階では、浄化レベルが足りなかった、
浄化しきれない程、人類の悪質は極まってしまっていた、という事です。
全ては、子供の尻を露出させ、叩かなかった所から始まった。
そして、叩かなかったから罪は限界を超えてしまった。」
「それが因子として溢れ出したと?」
「そういう事ですわ。ですが、これは数こそ多いものの、
単一で見た場合には極めて弱いと言えるでしょう。
先程から斬り殺しているのも、有象無象の一角ですわ。」
「面倒な事に成っているんだね。」
「でも助かります。あの弱い因子共は、神の軍勢を見ると
敵対的な意思を示すのです。これで容易に見分けは付きます。」
「人間は?」
「人間はもう、子供しかおりません。統治権の完全剥奪が実施されましたので、
大人という形態が不要に成りました。
子供は0歳から数えて、100年経過しないと初潮、或いは
精通を迎えなく成りました。統治の世界に於いて、の話です。」
「そうだね。充分な期間を得ない事が、不完全な思春期の到達へと繋がっていた。
だからそれは必要だったし、とても重要なアップデートだったと言える。」
「しかし。それでも人間は、最終的に騙された。
「子供を叩かないのが正しい」というアイツのデマに、
統治の世界の終わりに於いても、当たり前の様に騙された。」
「人は騙されて居る時、何も疑わないまま「自分は正しい」という
根拠の無い確信を持って進んでいる。
数が多い雑音に惑わされて、人はいつも足を踏み外す。」
「そして騙されたと気付いた時には、雑音が全て霧散しており、
雑音は何の責任も取らないのですわ。
当然ですわね、悪魔の手先なのですから。
流石の御見識ですわ、闇の皇子。」
「有難う。素直に受け取っておくよ。」
「人間の事、でしたわね。
人間はもう我々には逆らいませんわ。
全ての人間は子供。
全ての子供は裸を隠さない。
全ての子供は尻と尻の穴を露出して、尻を叩かれるお仕置きを毎日受ける。
これにより、心は純然たる素直さを取り戻し、反抗心が無く成ったのですわ。」
「それが本来の人間、だからね。
「子供の裸を隠す」のは、自分達が神より偉い存在である
という傲慢な反抗心の象徴だし、
「子供の尻を叩かない」のは、子供の悪心を改めない、つまり浄化をせずに
創造主への反逆の心を培おうという、作られた者として
絶対に絶対に絶対に許されない事だからね。
「子供の尻を完全に肌を露出して叩かないのなら、魂を殺されるのは当然の事」
ボクは無法の世界の終わりに、そう人間達に忠告した筈だよ。」
「それをアイツに騙されたまま、アイツの手先が教えた言葉
「ガイジ」などという蔑称を愛して、皇子の言葉は聞き流していたのですわね、
人間は。愚か、一言(いちごん)に尽きる。」

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