見下していた明日16

それから。
闇の皇子は神から充てがわれたワイズマンの女と同居を始め、
しかし嫌っていたセックスをする訳でも無く、
ギターを扱い始めバンドをしてみたり、マスコミに出て来てみたり、
世の中も無法の世界とさほど変わらずに、しかし何かは確実に変わりながら、
進んで行く。
男に成った闇の皇子の嘗ての母は、あれだけ成りたがっていた男に成っても
不満を抱いており、闇の皇子に会おうとした。しかし、同居した女に
追い返されてしまう。当然、闇の皇子も会おうとはしなかった。
一方、父親だった男も、「父親という続柄だった」事を利用して、
金を無心しようとしに来る。
しかし道端で会った闇の皇子は、断った後、去り際に本来の生き物の顔を見せ、
父親だった男を恐怖させた。
当然、父親だった男は二度と会おうとはしなかった。

あの時から、我々が人間の前に姿を見せる事は殆ど無く成っていた。
光の天使も、闇の天使も、地上での役目を一先ず終えた、と言える。
インフラ整備も終え、統治の体系も現状での形としては完成し、
後は人間自身に管理維持させている。
この時も地上では色々な事が起こった。
しかし我々から見たら小事である。
人間とは何であろうか。
少なくとも、人間は人間が思って居る程、特別な存在じゃない。
闇の皇子の言う通り、「尻を叩かれる」という人間の幼体時における本来の役目、
人間の幼体は「裸を隠してはいけない」という、人間としての本来の分を弁える事、
これを完全に忘れてしまったのなら、最早人間は必要な生き物では無い。
その時は人間を全滅させ、新しい生き物が作られるだけである。
「神は人間が創造したもので、人間が人間を作ったのだ」
こんな傲慢な考えで満たされて行く人間の心。
人間が魂を作る事は永遠に出来無い。
そう人間は作られているからだ。
人間は、本来の人間に戻れるであろうか。
それは、これからの人間次第である。


統治の世界が始まって、もうすぐ1000年が経過しようかという時。
もう一度、アイツが地上に放たれた。
闇の皇子は新しい巻物に書かれた自分の歴史をもう一度読むと、
天に帰って行かれた。
アイツは狭間の世界直前の時と同じく、再び因子を生み出した。
しかし、弱って居たアイツは今までで最も弱い因子しか作れなかった。
だが。
地上には、もう闇の皇子は居ない。光の皇子が下りて来る事も無い。
因子を殺せる者は、もう地上には居ない。
あれだけ馬鹿にしていた闇の皇子の事を、今はただ地上の人間達は
求めている。
しかし、それもすぐに終わる。

「子供のおしりを叩いちゃ駄目よー。」
「闇の皇子という奴はガイジやで。ワイらは知っとるんや。」
「神はガイジ!アスペガイジ!人間は世界で一番偉い!
フェミニストはその中でも一番偉い!」
「ガガイのガイジ!大人は子供の奴隷やで!ゲエジはそれが分からないとか、
ほんまゴミンゴねえ!ガガイのガイジ!ガガイのガイジ!ギャハハハハハハ!」

アイツの手下達が、人間の振りをして地上で人々を騙し始める。
「僕等は神の手から離れて、自由に成ったんだ!」
そう叫びながら、冷たい空気が支配する世界が在った。
人々は愛を失い、友情を捨てて、人情を踏み躙って、金に縋った。
そこは、暴力と疑念が支配する社会。
「神を信じる者は障害者よー!障碍者は皆殺しよー!
ピストルで頭を撃ち抜いたり、ガス室で殺したり愉しいわよ―!
イヒヒッ!イヒヒッ!イヒヒヒヒヒヒ!ハイルヒトラー!」
ヒトラーは既に魂が死亡しており、人間の記憶からは忘れ去られている。
つまり、ニヤニヤ嗤って居るこの男は・・・。


地上から、全ての天使が去って行く。
果たして、この世界で生き残れる人間は、何人居るのだろうか?
今までの努力が無駄では無かったと思いたい。
我々は離れて行く地上の大地を見下ろしながら、
一人でも多くの人間が助かる事を心から望んだ。
神から愛された、未だに惑ってばかりの幼い生き物、人間達よ、
願わくば、人間を騙そうとする悪魔の全ての甘い誘惑に、打ち勝てます様に。




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