14歳でドイツ人学校に放り込む その4
前回の最後の文章は、「子供は留年することなく、9年生から10年生に進級が決まった。」であった。
前にも述べた様に、ドイツの新学期は夏休み明けからだ。
つまり学年終了と次学年の新学期の間に二ヶ月間に近い、長い夏休みがある。
次学年の成績如何で、総合学校(卒業しても大学進学は無理)からギムナジウム(Abiturをとれば、国内外の大学進学への可能性あり)への推薦を得ることは、理論上不可能では無い。
しかし、ドイツ人学校の国語、つまりドイツ語が、外国人子弟のためのドイツ語(小学生レベル)では、Abitur(大学入学資格試験)を受けることができるギムナジウムへの推薦を貰えるはずがない。
9年生で受けていた、国語=ドイツ語補習授業を抜け出し、何としても正式の国語授業にも入り込まなければならない。
どうするか?
語学学校も戦略的に利用する
ここで親の留学経験が生きた。
ドイツの大学に外国人が留学するには、大学が行う語学試験に合格しなければならないことを前回に紹介した。
語学学校には、色々のレベルのクラスがある中で、外国人の学生向け・留学生ドイツ語試験コースというのがある。
これは、20歳前後のドイツ人から見た外国人の若者が、学部や院に入る条件であるドイツ語語学試験に通るために準備するクラスだ。
9年生終了時点では15歳になっていた子供の向きのクラスではない。
しかし、若い人たちが学ぶクラスであること、集中コースであること、教育程度の高い学生が来るクラスで、当然教材内容のレベルもそれなりであることが、ドイツ人学校高校レベルをこなそうとする子供に最適だと判断した。
正直に言うが、外国人労働者が多いドイツには、語学学校が沢山ある。
わたしが働いていた都市も人口30%が外国人という都市で、語学学校は数多かったし、コースに選択肢もあったが、一般語学コースには程度・スピード・動機が様々な人が来る。
最短で最高の成果を目指す意欲のある人ばかりが揃うクラスばかりではない。
嫌らしい言い方にしか聞こえないだろうが、同じ授業料を払うなら、程度の高い授業に頑張っても参加すべきだ。
当然、最初、語学学校は、夏休み外国人留学生用ドイツ語語学試験準備特訓コースに、15歳の子供が応募することに難色を示したが、わたしは、参加理由を説明し、最後に参加したという文章を貰えばいい、該当試験を受けられないのは承知の上だと説得して、無理矢理入れてもらった。
やっと来た夏休みの半分以上を、語学学校の集中コースに参加する苦役を、子供は我慢し通した。
最後に得た「外国人留学生用ドイツ語語学試験準備コース参加証明書」をひっさげ、再び新学期が始まる直前の学校で面談を申し込み、子供が新学期から正規の国語授業に参加できるようお願いした。
「書類」があるのはいいことだ。
先生方は承認してくれた。
夏休みの残りは、息抜きも兼ねて、旅行を楽しんだ。
10年生になって、今でもつきあいが継続している、ギリシャ人の友だちもできた。
子供は「ギリシャ人は、ギリシャ語から派生して学問に使われている用語が多く、有利だ。」と羨ましがっていた。
日本語は、例えば「TSUNAMI」が国際的に認知されているが、日本語が母語であることは、ドイツでの勉強には余り有利に働かない。
また、よく言っていたのは、「友だちが30分でできる宿題を、自分は2時間以上掛けている。」という言葉だ。
家庭教師は続けていたし、理数は日本語でだが、わたしも面倒をみたが、最終的には、本人が学んでいるのだ。
全ての科目が普通授業となり、子供は慢性的な睡眠不足、試験前の徹夜、試験後に死んだように眠る日々が続いた。
子供が10年生の前期、年末に、父(子供から見れば祖父)が亡くなった。
今度は丁度クリスマス休みがあったので、一時帰国し、親子で葬式には参列できた。
10年生前期後期は、学業的には、ドイツ人学校での最初の学期の、困難で真っ黒に塗りつぶされた日々よりはましになった。
しかし、毎日を楽しく過ごしているとは言い難かった。
それでも、友だちが出来て、おうちに招待されたりすることもあったし、帰り道に喫茶店に行ったり、一緒に図書館で勉強するといった、年齢相応のこともしていたようだ。
10学年では、正式の国語も含む全教科が評価され、クラスの成績優秀者の表彰も受け(努力賞としての評価だと思うが)、10年生終了時に、ギムナジウムへの推薦状を手にした。
14歳からドイツ語の予備知識無しで、いきなりドイツの総合学校に突っ込まれた子供は、留年をせずに、ギムナジウムに転入できることになった。
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