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親父の枕元に立った話【軽く怖い話②】

「お前、昨夜帰ってきて寝室に来なかったか?」

子供の頃、自家中毒だか急性胃腸炎だかで脱水症状を起こして3日間ほど入院した。全然大したことなくて下痢嘔吐が収まって経口飲食ができるようになるまで点滴で調整するような入院だったと思う。

親父は典型的なサラリーマンだったが早くに父親を亡くしているからか、今思い返せば良い父親像を模索していたのかもしれない。優しい時と冷たい時の差が激しく不器用だった。

お袋に車で運ばれて数日の入院と予め聞かされていただろうに、2日目の朝に親父が前日発売の週間少年ジャンプなんか持って見舞いに来た。

大病を患ったわけでもないのに気恥ずかしかったけれど子供心には嬉しかった。愛されてるなと思った。

そこで冒頭の台詞である。
「お前、昨夜帰ってきてワシの寝室に来なかったか?」親父は家での一人称がワシだったな、懐かしい。

曰く、今まで生きてきて初めて金縛りにあった、と。
枕元に誰かいて、お前(俺)の声で「ただいま」と聞こえた、と。
すぐに金縛りは解けたが起き上がると誰も居ない。
入院中のお前の容体が悪くなったんじゃないかと怖くなって、お前が欲しがる雑誌を母親から聞いて買って来た、と。

かなりビビってたのか、何度も具合は大丈夫なのかとか本当に昨夜帰って来てないのかと聞かれた。

病床だしまだひねくれずに素直な子供だった俺は親父の見舞いとジャンプは嬉しかったけど正直に答えたよ。
「入院してるのに家の寝室に行けるわけないでしょ?」

親父が若干青ざめた。
「じゃあ昨夜枕元で話しかけてきたのは誰だ?」

家にはお袋も兄もいただろうにと思ったが、聞くと既に二人には聞いたらしく、残っていた可能性が入院中の俺だったらしい。知らんがな。俺にそんな特技ねぇわという話。全然怖い話じゃなかったかも。

しかし誰だったんだろね。
ああ、その当時は知らなかったんだけど、もしかしたら……

それはまた別の機会に。


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