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「手相」の真実 |手相はインチキじゃない?

一時期、占いサイトのライターをしていて、勉強の為に手相書を読み漁っていたことがある。

あらかじめ断っておくと、俺は当初から「手相はインチキだ」と決めにかかっていたタチであり、いまだに基本的にはそうである。エンターテイメントとしてけっこう面白いとは思うけどね。

きっと俺のような否定派は、手相師とかに

「じゃあ、なんで手に刻まれた線は、ひとそれぞれ違うの?君はその理由を明確に説明できるの?ろくに説明できないくせに、端から手相をインチキと決めにかかる、君みたいの態度を”バカの壁”っていうんだ^^」

とか言われてたちまち論破されそうであるが。すみません、ハイ。

だが先にいっておくと、手相に科学的根拠はない。それでもわずかながら科学的な知見と合致している説もあるので、今回はこの点にしぼって紹介してこう。

手相はインチキか

俺はひねくれているので、手相師に論破されないように、熱心に手相を調べてみたのだ。図書館はいうにおよばず、池袋ジュンク堂にも通って、いろんな本を読んだ。

手相書ってあきれるほどいっぱいあって、いろんな説が入り乱れており、読めば読むほど混乱する。

「線が大切」という人もいれば「気色が重要」といっている人もいるし、はたまた「指紋こそ奥義!」といっている人もいる。


その大半が怪しげな宗教/占術色を帯びているが、ごく一部にドライに手相を科学している、というテイストのものがあった。

この松田薫さんの本は、宗教/占術臭を一切排した切り口で、ひときわ異彩を放っていた。有名人の手をストイックに分析していく、ケレン味のないスタイルだ。

圧巻なのが感情線の分析で、線形パターンにより、その人の社会に対する意識や姿勢がわかると主張している。その一端をここに紹介しよう。

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上記は、もっともよくみられる感情線。

このパターンを持つ人の、社会に対する意識が左の図である。ほどほどに社会の一員…という自己意識なのである。

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次に、人差し指と中指に線が入り込んでいるパターン。

社会の中心に自己がある。したがって"その場での自己"を拡張したがる性向をもつようになる。

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通常の感情線とは別に、人差し指と中指に単線があるパターン。

社会からやや離れたところに自己意識がある。ほどほどに社会と協調もするが、と同時に距離も置く。

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次は、感情線が人差し指下にまで伸びているパターン。

社会と自己とは完全に区別されている。社会の側から見れば協調性のないエゴイストとみなされる危険もある

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マスカケの登場である。

この人は「社会=私」、まさにワールドイズマイン。チームワークが重視される職場では、トラブルりまくる羽目に。

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感情線が下にひん曲がっているパターン。

もはや社会と自己とは完全に分離する。厭世的となり、社会と協調するのは困難となる。


この本を紹介したわけは、当時の職場の人間を密かにチェックしてみたら、よく当たっていて感動したからだ。おいおい手相ってやっぱりインチキじゃなくて、根拠あるじゃん!


手相の弱点

ただいくら「当たっていた」としても、科学の世界で「根拠」と主張するには「反例」のデータも集める必要がある点を忘れてはならない。

反例とはある主張についてそれが成立しない例のことである。

たとえば「マスカケ線をもつ人は成功者になる」という主張の根拠を示すには、

① マスカケ線をもっていて成功した人                

② マスカケ線をもっていたのに成功しなかった人 →反例

の両方のデータを集め、グラフ化して分布具合を可視化し、その傾向のあるなしを提示しなくてはならない。

つまり「マスカケ線をもっている成功者」を数例挙げるだけでは、根拠とすることはできないのである。

「マスカケ」を例えに使ったのは、"成功相"と呼ばれる典型例だからだが、同じカテゴリに属する運命線でも太陽線でもいい。もっとも、成功者たちの手のひらを画像検索で確認したが、運命線も太陽線もマスカケもない人はけっこういる(ジャック・マーの手相を検索してみ)。グーグル先生バンザイ!

この手続きがスッポリ抜けているところが、あまたある手相学の弱点である。

そのほとんどが主観や印象を重視した次元で完結しているからだ。松田薫さんも仮にも「科学」を標ぼうするのであれば統計学的に分析してほしかった。


ちなみに"マスカケは天才の手相!"と、言いふらしている人をたまに見かけるのだが違うと思うぞ…。いまは天才の手相もグーグルで調べられるからね。

マスカケの話でよく引き合いに出される名が、アインシュタインとピカソだが、2人ともぜんっぜんマスカケじゃない。↓ アインシュタインのパームプリント

あと極めつけの成功相に「覇王線」ってのもあるが、あれも迷信と確信している。

だって、俺の母親が持ってるんだもん…


インチキではない手相学もある!?

これで「手相はインチキ」って結論で片付くのであれば話は楽なのだが、そうは問屋は卸さない。

ある時、図らずも手相に科学性があることを示唆しているかもしれない…

そんな研究があることに気づいてしまったのである。

きっかけは、以前にも紹介した本だが、アメリカの心理学者マシュー・ハーテンステインの「卒アル写真で将来はわかる 予知の心理学」を読んだことであった。

じつは進化心理学では顔が左右対称の人ほど異性に好まれることが研究で明らかにされているのである。

そのほか、左右対称の個体群の方がそうではない個体群より健康や知能も優れているのではないか?との議論が存在する。

これだけだとなんだかモヤモヤするが、こういうときにいつも頼りになるのがオブラートに包むことをしない澤口俊之先生である。

顔が左右対称な人ほど美人と認識されます。しかし、それよりも大事なのは健康で知能が高いことです。

引用:https://www.vogue.co.jp/lifestyle/culture/2019-04-27/sexy

は、はっきりいうねぇ。

これに限らずだが、心理学と脳科学者って、やんわり対立している気がする。そして心理学者はオブラートに包むことが多く、脳科学者はより率直にものをいう傾向がある気がする。


この話を目にしたとき「あーっ!」となったのである。

手相でも、左右対称性が大事だといっている占い師がいたことを思い出したのだ。

この本は業界では有名なものである。三輪祐嗣氏という京都で超売れっ子だった手相師の奥義を紹介している。

大正・昭和の時代を路地から見てきた人である。相談者たちの悲喜こもごものエピソードもたくさん紹介されいて、読んでいると世帯じみた香りが漂ってくる。

本書で重要なのは

① 手相で一番重要なのは「知能線」

② 両の手の知能線の左右の形を比較すべし

③ 知能線は遺伝律が刻印されている

③の遺伝律っていうのは、いっぱつでいえば、その人の祖先が背負ってきた業(カルマ)のことである。本書で展開される理論は宗教的なので、これは無視してもいい気がする。

…なる主張だ。

なお左の手は父の遺伝、右の手は母の遺伝を示しているとのことだ。パッと見、簡単そうだがその教えは難解である。

それでも「両の手の知能線が左右相似形だと、すぐれた気質をもっている」とざっくりとだがおっしゃられているのは、傾聴に値する。(ちなみにアインシュタインも左右相似形だ)

↓ 左右相似形の例

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なお両の手の知能線が同じ形であるケースは意外に少なく、ほとんどの人が左右異なった形をしているとのこと。だからといって劣っていると言っているわけではないのであしからず。

↓ 左右非対称の例

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何万人もの手を見ている人が、そういっているのだから間違いないだろう。

この三輪氏の手相術だけは、科学的な知見と合致しているといえるかも知れないと思ったのである。


知能線の謎

俺の知る限り、知能線について医学的に調査した論文はない。

「知能」線といわれているくらいだから、知能に障害がある人は何か特異な形状をしていたりするのかな?と疑問を抱き、

電車のつり革を持っていた知的障害者の手相をまじまじと観察したことがあるのだけど(→鬼畜)、

知能線に限らず基本線すべてが弱弱しかった… むろんこの1件だけではなんともいえないが。

IT技術や遺伝医学が発達した今日、知能線についての生理学的な意味を調査してみる価値はありそうなものだが、どうなのだろう。


なお中国では手相ではなく「掌紋医学」として独自の発展をとげているのも興味深い。

この本はのべ15万人の手を解析して体系づけたとのことで、さすが中国4000年。考える事やる事にタブーなしである。

知能線は脳神経系と深いつながりがあるとの見解は、やはりあった。

線が切れていると頭痛持ちだったり、ほつれや島があると近眼になったり、免疫系が弱くなる可能性があると。

独特の医学的見解も少なくなかったが、あくまで問診のための書物という体裁なので、そこまで知能線の生理学な意味についてハッキリとは書かれていない。


掌紋医学による対応図もあるようだ。

まるで"足つぼ"のごとく、掌のポイントに臓器が関連づけられていて驚かされるとともに、その情熱と探究心には頭が下がる。

今回は知能線に限ってみてみよう。線の各ゾーンと、対応している臓器をざっくりと色付けしてみるとこうなる。

手

要約すると知能線全体の、

人さし指の真下は「自律神経」、人さし指末端~中指の真下は「心臓」

中指末端~薬指下は「脳」

…が対応していることになる。たしかにこの区分法なら、知能線がどんなに短くても辻褄があう。(どんなに短くても薬指まではあるのが普通だから)

つまりは王氏の請け売りにはなるが、

人さし指下の線が弱いと自律神経に、中指下の線が弱いなら心臓に、

薬指下の線が弱いなら脳神経に、異常があるかもしれないと診断されるのか ふむ…


指紋の謎

明石家さんまの「ホンマでっか!?TV」で、

内科医のおおたわ史絵が、左手人差し指の「指紋の巻き」具合で体が強いかどうかが分かると言っている。

この話で思い出したことがあった。

指紋の観相書にも「左手人差し指の紋を観ることが重要」と書かれていたのである。

長谷川滔浦師のこの本は、上品そうな見かけとは裏腹に、

思い込みや断定が甚だしく(このような紋をもった人間は禄でもない…といった下品な記述が点在する)、

個人的にはおすすめできない本であるが、

それでも昭和16年初刊にも関わらず、左手人差し指の重要性を指摘しているのは注目に値する。


じつは胎児の発育過程で、10本ある指紋で最後に形成されるのが、左手人差し指なのである。

大むかしの書物に、医学的知見と一致した見解が載せられているのだから、じつに不思議と言わねばならない。

もう一つ、ビジュアルがふんだんに使われていて、眺めているだけでも楽しい西洋手相書「手を読む技術」でも、左手の人差し指の指紋が重要との記述があった。

※ 左手の人差し指が有胎蹄状紋だと幸運相とある。

…と、これも手相学とサイエンスが(偶然?)一致している事例である。


肉づきの謎

人の体重は日々変化していくが、掌の"肉づき"だけは太ったり痩せたりしないものだ。いくら瘦せてても手だけはプックリしている人もいる、反対に太っているのに手ばかりは筋張っている、

…とそんなものなのである。掌の肉づきは先天的に決まっているのだ。

一般的な手相書では、

肌のキメが細かく、プックリと肉付きがよく、肉が柔らかいほど上相といわれている。早い話、"金持ちの手"ってこと。また淫相学では、この手をもつ女性は名器といわれる。

写真の加藤一二三名人の手は"最上の相"といえそうだ。さすが神武以来 ( じんむこのかた ) の天才。

ゆえに、もっとも簡単かつ正確無比な観相術は、手を繋ぐ/握手することと言われる。女の子は初デートの時、その男が「スカ」なのか「当たり」なのか判断できるね。


手の肉づきがよく柔らかいことを生理学的に述べると、「手の筋肉がよく発達しており、かつ柔軟である」ことであろう。

そういえば一流アスリートほど筋肉が柔らかいといわれるが、関係があるかもしれないと思いネットで調べたら、面白い記事を発見した。

アスリートの筋肉の硬さに着眼した研究である。やはり、筋肉の柔らかさは生まれもった資質なのだ。

柔らかい筋肉は持久力があるとのこと。なるほど、成功者になるにはスタミナが重要ということか。(短絡的…)

有名人の手を観察してみると「家が大金持ち」の人ほど、手がふっくらしていることに気づかされる。金正日・金正恩親子なんかはこの上なく"ふくよかな手"だ。土豪の出である徳川家康の手はふくよかだが、農民の出の豊臣秀吉の手は筋張っている。没落した家の出で、丁稚から身を起こして一代で大金持ちになった松下幸之助の手も、やはり筋張っている。


小指の謎

東洋の観相学でことに注視すべしとされる部位が「小指」である。小指が、ほかの指を差し置いて、特別扱いなのはなぜか?

一言でいえば「金」と「生殖能力」に直接関係する部位と、されているから。小指が貧弱だと金運がよくなく、子宝に恵まれにくいと見られてしまうのだ。血縁社会の中国で特別視されるのも頷けるだろう。


長さの基準については、薬指の第一関節にギリギリ届くくらい、とされているがこれは嘘。俗説である。

今回は特別に、小指の大きさを知る上でおさえるべきポイントを開陳する(プロの易者から聞いた本格的な判断方法です)

① 小指と親指の長さは同じ

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意外や意外、親指と小指は同じ長さなのである。例外はないはず。


②「薬指の第一関節の中間から付け根までの長さ」と、親指の長さが一緒かどうか…を測る。(小指の長さで測っても良い)

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もし②の長さより短い場合は「親指は短い」とみる。

親指が短いってことは、小指も短いと判断するのである。その逆もしかり。すなわち「親指の長短=小指の長短」なのだ。


手相発祥の地インドでは親指が特別な意味をもつのだが、

中国で小指が特別視されるのは、この事と関係が深いと俺は思っている。

いずれにせよ、手相学の本場ではこの2指がきわめて大切とされているのである。


ここまで言われたい放題だと小指が短い人ほど、この説が科学的な根拠があるのか否か、調べたくなるものではないか。

「サルの小指はなぜヒトよりも長いのか~」は、東大の生物学の教授の講義をまとめたものである。

この魅惑的なタイトルからして、小指の大小についての遺伝学的な知見が得られそうでワクワクしたが、

"サルの小指云々~"については申し訳程度に、ほんのチョコっとだけ触れられているだけであった。


要するに、猿の手は木をつかむために進化しているので、小指が長いのである。そのかわり人間と比べると親指は貧弱で、道具を器用に使いこなしたり、組み合わせたりすることはできない。

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…ということは小指が長いのは、猿の遺伝子の名残かもしれないね。

もちろん猿と人間の手の構造が異なるので単純な比較は控えた方がいいが。


最高の手相とは?

結局のところ、俺が何を言いたいのか?を述べる。

まずはこの手を見てほしい。

これは20世紀でもっとも偉大なアーティスト、ピカソの手。

何の変哲もない普通の手相である。

ただし知能線が左右相似相。三輪氏なら「素晴らしい相」と称えるに違いないだろう。


この手を紹介した理由は、良い手相というのは「普通の手相」

...ってことを言いたいからだ。

一般の手相見では、やれ知能線が二本ある、やれ星の紋がある、太陽線が長い、云々と特殊な相があればラッキー!となっててバカバカしくて辟易する。基本線以外は、しょせん手の皺、何の根拠もない


お次は、もう一人の桁違いの天才マイケルジャクソンである。

きれいに写っているパームプリントが落ちていなかったので写生した。

レアというか、じつに奇っ怪な相をしている。

マイケルの手相

マイケルは大天才だったけど、俺の主張に従えば手相は悪相だ。普通じゃないのである。

ここまで読んでもらえた人になら、俺がいわんとする意味は、わかっていただけると思う。


もう一度ピカソにもどるが、

見れば見るほど、まるで手相の教科書のように、ノーマルで弱点が見当たらない。

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基本線3本、しかも合わせ鏡のような左右相似、ぶっ太くて立派な指、豊かな肉付き...

ここまで完璧に「普通」なのは珍しい。


このピカソの「普通の手」をもって「最高の手相」としたい。

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