あの目の動きは初めてみた

そんな言い方をする人間は、他にいなかったのだろう。

スタバで都道府県限定フラペチーノが販売されているのは、流行に敏感な皆様であればご存知だろう。
専らカフェを選択する際はドトール中心である私でも、先月ネットで広告を見た際は、心を踊らされた。

遂に実食できる瞬間が本日、訪れた。
道中はウキウキした気持ちを抑えられず、マスク越しでもわかる笑みを浮かべながら早歩きで向かっていた。
すれ違う人々の視線がいつもより多く、冷たいと感じたことは言うまでもない。

カウンターに一目散で向かった。
キラキラした見た目の女性店員さんが、笑顔で接客を始めた。
もし学生の時に出会っていたら、こんなに愛想良く接してはくれないだろうと心で呟きながら、メニュー表に視線を落とした。

一番上に、お目当ての商品『サマー ブルー クリーム フラペチーノ』はあった。
「この商品をお頼みしよう!」謎の敬語が頭に浮かんだその瞬間、私の中の弱い心が現れた。
「いい慣れてない長い商品名だ。これをそのまま言ったら、絶対途中で甘噛みする!そしたらこの目の前のキラキラした女性にダサいと思われる!」

私は迷った。
しかし、変な間が生まれてしまったらそれもダサい・
それならこうだと、すぐさま決断。
私は女性の目を真っ直ぐみて言い放った。


「神奈川の奴で!!!」


一瞬で「あ、間違えた」と選択した言葉のミスを反省した。

目の前のキラ女の目が左右忙しく泳いでいた。

それもそうだろう。開発部が丹精込めて命名した商品名を差し置いて、「神奈川の奴」なんて抽象的で訳のわからない言葉を告げられたのだから。
今考えてみたらサマーブルークリームフラペチーノなんて、イギリスの正式名称である「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」に比べたら短くて言いやすい。簡単だったのだ。

想像してみてほしい。
自分に娘が生まれて、一生懸命考えて「恵里菜」と言う名を命名したとしよう。
愛情をたくさん注ぎ、すくすくと育ったその子が小学校に入学し、アホみたいな同級生の小学生から、3文字が長い。そして「菜」は大きくみたらこれだから!と言う理由で「草」と呼ばれていたら、どう思うか?

その反省に持ちきりで、その後の記憶はない。
味も忘れてしまった。
これはもう一度、リベンジするしか無いのだろう。 

この日から僕は、自宅で「サマーブルークリームフラペチーノ」を鏡に向かって1日100回言うことを、義務付けた。

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