<連載> 小竹直人・OM-1の魅力 Vol.5/ 深度合成
マイクロフォーサーズ(M4/3)の利点は被写界深度が深いことです。比較するとM4/3でF8はフルサイズのF16に相当しますので、広角側で適度に絞り込むと簡単にパンフォーカスになります。画面全体にピントが合っている写真は見ていて気持ちがいいものです。とはいえ、望遠レンズやマクロ撮影でパンフォーカスにするには限界があります。それを解消してくれるのが深度合成機能です。
パンフォーカスと深度合成
8年ほど前にニコンプラザ新宿(現ニコンプラザ東京)のギャラリーで開催されていた徳川弘樹さんの写真展「軌道回廊」を観に行きました。地下鉄の坑道や軌道が描く曲線美や構造美を緻密に描写していたのが印象的でした。そうした撮影はホームエンドから望遠を多用することになります。ある写真の前で作者の徳川さんに「このアングルから最小絞りでパンフォーカスになりえるのか?」と尋ねたところ、ピント位置を移動させながら数枚撮影した写真をソフトで合成したとのことでした。
なるほどなぁ、と会場を後にしました。それは手間がかかって難儀な作業ですが、明確な表現の狙いがあってこそです。そうしたことをOM SYSTEMの深度合成は自動でそれもカメラ内でやってくれるのです。
上の写真のようなアングルでは、桜を前ボケとして列車にピントを合わせるところですが、深度合成を用いるとこのようなパンフォーカスになります。
深度合成は、3枚から最大で15枚までの焦点位置の異なる写真を連続撮影し、カメラ内で自動で合成する機能です。合成する枚数は、撮影の状況に応じて設定します。通常は建造物や料理、商品など静止物を撮影するイメージがあると思います。私もそれまではそのように思っていました。まして鉄道の走行シーンに使ってみようとは思っていませんでした。
それでも、深度合成でどのような表現ができるのかと思案して、ある仮説を立ててみました。例えば5枚合成でパンフォーカスになるアングルでシャッター速度を1/500秒×5回に設定したら1/100秒。遅い列車なら止まるかもしれないと考えました。進入角度0アングル、ローカル線の直線区間を走る列車ならなんとかなりそうだと思ったのです。
実際に試したところ、思い通りに列車を止めて撮影できたのです。瓢箪から駒のようで試して良かったです。
深度合成のピントの動き
それでは、基本的なフォーカスポイントと設定枚数について書きます。カメラの測距点の中からひとつのポイントを選びピントを合わせてシャッターを切ります。すると2枚目、3枚目は合焦ポイントの手前にピントを合わせて撮影し、4枚目以降は合焦ポイントの後方、すなわち画面の奥に向かってピント位置が変わりながら撮影されます。モニターで見ると、最初にピントが前へきて、その後奥へと徐々に移動するのが確認できます。
例えば7と8枚目がどこにも合焦していなかったらそのアングルに必要な合成枚数は6枚ということになります。6枚に設定し直しても8枚のままで撮影しても構いません。どこにもピントが合っていないカットは自動的に合成されない仕組みになっています。
さらに、フォーカスステップ(ピントの合う幅)は1(狭い)から10(広い)まで設定できますが、デフォルトの5でたいていのモノがパンフォーカスになります。重要なのは撮影枚数です。また、絞りは開放値から1から2絞り程度絞り込めば十分です。
深度合成を使った作品紹介
最後に深度合成を使った作品をご紹介します。設定値を記しましたので、ぜひ参考にしてください。
わたらせ渓谷鉄道神戸駅を後にした間藤行きの列車。降りしきる雨も手前のレールから列車付近までピントがきています。
山形鉄道フラワー長井線の白兎駅を列車が発車した直後に撮影しましたが、ブレることなく稲穂の雨粒の光から列車までピントがきています。
35㎜判換算600㎜相当での撮影。手前のレールから機関車そして、偶然線路端に居合わせたキジにもしっかりとピントがきています。
こちらも600㎜相当の超望遠レンズで撮影しましたが、勾配標から手前奥の信号機、列車すべてにピントがきています。
写真は米坂線の羽前椿駅ですが、昨年の8月の豪雨災害で坂町ー今泉間が不通になりました。いつかまたこの駅に列車が入線することを願いたいところです。
深度合成とはなにやらややこしいように思われたかもしれませんが、とても簡単です。まずは試しにやってみることがとても重要です。皆さんも気軽にトライしてみてください。
筆者紹介
小竹直人(こたけなおと)
1969年新潟市生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後。フォトジャーナリスト樋口健二氏に師事。
1990年より中国各地の蒸気機関車を取材し、2012年~17にかけて中朝国境から中露国境の満鉄遺構の撮影に取り組む。近年は、郷里新潟県及び近県の鉄道撮影に奔走し、新潟日報朝刊連載「原初鉄路」は200回にわたり掲載され、以降も各地の鉄道を訪ね歩いている。
近著に「国境鉄路~満鉄の遺産7本の橋を訪ねて~」(えにし書房)などがある。
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