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<連載>OMと旅する鉄道情景(第10回/神谷 武志)GROUP K.T.R

夜の蒸機を撮るノウハウ【夜空を彩る大輪の花】

夜の蒸機撮影の楽しみ

東武鉄道でC11が走り始めて早や7年。
機関車不調という理由で運休になっていたC11 207が、北の大地を遠く離れた栃木県で元気よく走っているのにも驚きましたが、今やその姿はすっかり地元に定着し、日光・鬼怒川の欠かせない重要な観光資源になっています。
加えて冬季の楽しみは、ここで近年開催してくれるようになった「クリスマスの花火」。
観光振興を旗印に、地元の方々の多くの志が、冬の夜空に大輪の花を咲かせてくれました。
北千住から東武特急に乗り、北関東を快調に飛ばして1時間40分。下今市の駅に到着します。
C11たちのねぐらである扇形庫を線路越しに見て、駅前から日光交通のバスに乗り換え「倉ケ崎」で下車。ここが今回のメイン会場です。バスの車中でも、ちらほらとファンの姿も。当地はこれもご厚意で駐車場の用意もありましたが、もとより本来は静かな住宅地。駐車可能両数に余裕のあるはずもなく、訪問の際は公共交通機関を使用しましょう。バスはおおよそ1時間に1本走っています。次の大桑駅から徒歩で戻っても30分程度で到着します。
やがてあたりが闇に包まれる時刻に。
遠くで汽笛が鳴り響き、近くにある踏切の警報機が列車の接近を知らせはじめました。
心地よい緊張の時間。寒さも忘れます。
タイミングを見計らって花火が夜空に上がる中、列車通過のタイミングを見計らって花火が夜空に上がる、幻想的とも思える美しさの白煙の中、シルエットになった「SL大樹」が、堂々と見栄を切る千両役者のように進んでいきました。

白煙の中、シルエットに完全に溶け込まない描写力も魅力。OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2PRO, 1/60秒 F1.8 ISO オート

夜の蒸機撮影ノウハウ

ところで夜間の蒸機列車撮影には、昼間と違う準備が必要です。
いくつかのパターンに分けてご説明します。

~1.明るい単焦点レンズを使ってみよう~

まず当地の場合。対象となる列車は動いています。花火の上がる高さは出発前に判断しずらい。街灯などのほかの照明はない。
そういった場面では、明るい単焦点レンズの出番です。ここでは標準レンズ以下の画角が必要なため、ZUIKO DIGITALの12㎜、17㎜、25㎜の3本を用意しました。
撮影場所でカメラを構える先客の方々の機材を覗いてみると、ほとんどの方がフルサイズ換算で「24~105㎜F4.0」のようなレンズを装着しています。
この3本、F1.8級のレンズで揃えても、重さも価格も、合計はこの24~105㎜級1本より下回ります。すごい事実。
花火が上がる時間はほんの一瞬。列車は徐行してくれますが、真横の画角なので画面を横切る相対速度は比較的早くなります。そのためシャッター速度は1/60秒はほしい。そこでF1.2のレンズで絞りF1.8、ISO AUTO で設定しました。実際の撮影では、背景の明るさでISOは6400~10000の間で変化しています。
この場合、三脚はあってもなくても構いません。だって列車は動いているんですから。持っていったとしても、その役割は「画角を固定(安定)させる」という意味だけです。
花火の撮影を楽しんだあとは、踏切を渡って線路の反対側に進みます。ここは幻想的な「LED花畑」です。ここも単焦点・17㎜を使って撮影。発光する「SL大樹」のヘッドマークが少し印象きつ過ぎたので、弱める意味でやや引き付けた構図にして、キャブから見える白手袋が印象的な機関士の姿をポイントにしました。

引きつけアングルの場合は動体ブレの危険性が高まる。高速シャッターを切れる明るいレンズの本領発揮。OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2PRO, 1/250秒F1.8 ISO 4000

~2.三脚からカメラを外そう~

OMと旅する鉄道情景 第1回「オヤ 直江津に行く」でも取り上げましたが、「夜間撮影には必須」と思われている(思い込んでいる)三脚。
三脚で構えると、その場所から動かなくなるばかりか、高さすらも変えない(変える時間がない)場合が往々にしてあります。「OM機動派」の私たちは、一度三脚からカメラを外してみませんか。「知られざるアングル」は得てして三脚の外にあります。スタジオワークでない鉄道写真は、何よりも機動性を大切にしたい。身軽に、いろいろいなアングルを探してみましょう。もちろん安全にじゅうぶん留意することと、多数を占める「三脚どっしり派」の方々のジャマにならないような心がけは必要です。

集中する撮影地を少し離れれば、誰もいない新たなアングルが。
OM-D E-M5mark2 / M.ZUIKO DIGITAL ED12~40mm F2.8PRO, 2秒 絞りF4.0 ISO1600
少ししゃがんだだけで、機関車の見え方はずっと威風堂々に。
カッコ良く撮ってあけたい、われらのC58。
OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO, 1秒 絞り開放 SOオート(320)
OM SYSTEM鉄道部 三脚不要の撮影セミナーにて。

~3.設定は「S優先 ISO オートで」~

フィルム時代はASA1600で撮るのも高感度の悩みが。まさしく隔世の感。
1997年 インド・ダージリン鉄道(神谷撮影)

鉄道情景撮影の際、どのようなオートモードで撮られているでしょうか。
明暗差が急に起きそうな場所では、あらかじめ吟味した露出で「M(マニュアル)」、情景を優先したい場合は「A(絞り優先)」…といった方が多いのではないかと思います。昭和のその昔、「オートはS(シャッター速度優先)か、A(絞り優先か)」という議論が沸騰していました。今は普通に、どちらでも優先モードを選択できる機材がほとんどですが、機材の選択はできても実際の撮影ではそのどちらかになるわけですから、依然として大事なテーマです。
従来「超高感度に弱い」などと言われていたマイクロフォーサーズ。しかしOM-1と、さらに強化されたマーク2の登場にまるで合わせるかのように、世の中、にわかに優秀な画像改善ソフトなども出てきました。効果はてきめん。一気にその「弱点」を克服しつつあります。
「明るく買い求めやすく・小型軽量な単焦点レンズの存在」がキー。さきほどの例でいえば、F1.8でISO10000の設定で確保できた1/60秒シャッターを24~105㎜F4.0で得るには、ISO51200が必要。どちらがキレイでしょう?充分に太刀打ちできます。
列車が停止している場合は、まず「抑えの一枚」を撮影したあと、段階的にシャッター速度をスローダウン、ISOを低下させて連続して撮影してみましょう。手持ちに圧倒的に強いOM SYSTEMです。ゆっくり落ち着いて。低感度で画像がキレイになるシャッター速度で。列車が動き出したり、何かのアクションが起きたときでもダイヤルひとつでISO上限までのシャッター速度になりますから、撮り逃しも激減します。

OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 8~25mm F4.0 PRO
キャブの中を描写した上(1/20秒 絞り開放 ISO12800)を撮ったあと、
ISO1250(1.6秒 絞り開放) に落として描写力優先で2通り撮影。

私はOM-1で、ISOは12800まで、時には25600までを躊躇なく使っています。夜間の撮影も機動性が大事。機動力こそOM SYSTEMの最大の身上。「明るいレンズ」「高度な画像改善ソフト」で、従来マイクロフォーサーズの弱味とされてきた分野は、いくつもの代替手段があるということがわかってきました。しかし機動力で得られる「撮影チャンス」に代替手段はないのです。


~今回のまとめ~

  1. 明るく買いやすく・小型軽量な単焦点レンズを活用しよう。

  2. 三脚からカメラを外してみよう。

  3. S優先、ISOオートで「撮り逃しゼロ」に。

(ISO上限は「ISO/ノイズ低減」メニュー→「ISOオート上限」でカスタマイズできます)。

そして
撮影チャンスに代替はない」。


筆者紹介

神谷 武志(カミヤ タケシ / Takeshi Kamiya )

1963年 東京都新宿区生まれ。1995年より、交通新聞社「月刊鉄道ダイヤ情報」誌にて海外蒸機紀行を6年、国内編を4年、足掛け10年間連載を担当。ほかJAL機内誌や鉄道雑誌(日本・台湾)などで活動。著書は「世界を駆ける蒸気機関車」(弘済出版社)、「日本路面電車カタログ」、「蒸気機関車紀行」(イカロス出版)など。クラブツーリズム社写真ツアー講師。「鉄道写真をもっとオトナの趣味に」をテーマに、地元・鉄道・撮影者がみなHAPPYになれる関係を目指して、さまざまな撮影イベントを企画・運営している。

※GROUP K.T.Rとは、このnoteを担当する「鉄道を愛し、OMを愛する」3人のフォトグラファー牧野和人、神谷武志、高屋力の名前のイニシャルから取った頭文字です。
グループの首謀者神谷の準地元であり、OM SYSTEMの地元でもある「京王線」の旧社名をリスペクトした名称でもあります。今後もさまざまな鉄道ネタをご紹介していきます。どうぞお付き合いの程、よろしくお願いいたします。


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