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山下 大祐 OM-1 MarkⅡ登場!鉄道写真の心技体

 いよいよ発売となったOM-1 MarkⅡ。OM SYSTEMの強みの一つであるコンピュテーショナルフォトグラフィーの新機能「ライブGND」を搭載して、また一歩“唯一無二”の存在感を強くした。
そこで今回は、OM-1 MarkⅡだからこそ挑戦できるような鉄道写真表現をテーマにしていきたい。執筆過程で感じたのは、OM-1 MarkⅡは鉄道写真の心技体とも言える要素を兼ね備えたカメラだということ。読み進めてもらえると、きっと読者の皆様にも共感していただけるだろう。

「ライブGND」を使ってみる

 早速、新機能「ライブGND」を使ってみよう。GNDとはグラデーション・ニュートラル・デンシティーの略。段階変化する中立濃度という意味で良いだろう。画面の中で、NDフィルターのような減光された部分と減光されない部分が共存し、その境目を段階変化で繋いでいるものである。ND部分の濃度は3段階(ND2、ND4、ND8)から選択。段階変化の幅も3段階(Soft、Medium、Hard)を選択できる。Softは変化幅が広く取られ濃度変化が緩やかなのに対し、Hardになるほど変化幅が狭くなるため濃度変化がはっきりとしてくる。また濃度変化の境界線は直線的であるが、角度をつけたり画面隅に寄せたりといった移動は自由自在にできる。

ライブGNDに設定したファインダー表示

「ライブGND」機能を発動させると、濃度変化の中心を示す線が出現。回転させたり任意の場所に移動させたりといった操作は、前後ダイヤルとマルチセレクターで行う。Infoボタンを押すことで、通常の露出設定モードと行き来する。慣れれば簡単な操作だ。

理屈はわかった。この機能をどう技として繰り出すかが肝心である。もっとも思いつくシーンとしては、露出差の均衡を取ろうとする場合だろう。
例えば、逆光時など列車が黒つぶれし背景の空が白飛びしてしまうような状況があったとしたら、この機能で幾分フォローすることができる。夜空に微かに光る星々と、地上の人工光を同時に捉えるときも同様だ。

OM-1MarkⅡ / ライブGND撮影(ND8/Soft), M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ
OM-1MarkⅡ / 通常撮影, M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ

この2枚はそれぞれ星空を優先して露出決定したものだが、上の写真は「ライブGND」機能で駅の人工光部分を減光したもの、下の写真は同機能未使用の写真だ。明るすぎる駅の露出を程よく抑えてくれているのがわかるだろう。

OM-1MarkⅡ / ライブGND撮影(ND8/Soft), M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ

駅に到着した列車を「ライブGND」を使って星空とともに撮る。窓から漏れる列車の明かりも星空に比べて強いため、やはり同機能を生かして撮りたいシーンである。

この「ライブGND」機能は、複数枚合成によって実現している機能であることから、動く被写体を止めて写すことは想定されていない。では流し撮りならどうだ。そう思って撮影したのは下の写真。

OM-1MarkⅡ / ライブGND撮影(ND2/Soft), M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ

「ライブGND」で画面上の空部分を減光範囲にして、シャドー部を出しながら空の色も出すように設定。その上で、流し撮りをするように列車に合わせてカメラを振りながらレリーズした。すると狙いどおり列車は止まっている状態を写すことができた。地上設備はブレたように写っているが、シャッター速度によるブレというより、複数枚合成時のズレがブレに見えているようだ。注意点としては、連写ができないため一発必中が求められること。複数枚撮影中はファインダー像が消失するということだ。ひとつの技としてここぞの時に使いたい。

「ライブGND」の技は心に響かせよう

以上のように 「ライブGND」を使う場面として、基本的なところを挙げてみたが、これらはあくまで露出の均衡を取るという使用方法である。実は私は「ライブGND」のことを耳にした時から、露出の均衡を崩すことを目論んでいた。その方が心に響くものが撮れるのではないかと思ったからだ。技を技に見せるのではなく、心に響かせる表現方法として使いこなすことができれば、ひとつステップアップできるような気がするのである。

OM-1MarkⅡ / ライブGND撮影(ND4/Midium), M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ

黎明の時間。空のグラデーションを画面中央部だけに残して、それより上方を「ライブND」で黒く締めた。上下に黒いエリアを大きく取ることで、宇宙的な空間に列車が走っているような演出をしている。

OM-1MarkⅡ / ライブGND撮影(ND8/Midium), M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
OM-1MarkⅡ / 通常撮影, M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO

線路脇のキロポストを撮影したものだが、画面の上半分を「ライブGND」であえて露出を落とした。下の通常撮影のものは全体に露出が均一だが、あえて露出差を生じさせることで、深い森の中に被写体があるように表現した。

機動力と描写力の両立!手持ちハイレゾ

ミラーレスカメラがもたらした複数枚合成処理による新たな撮影方法。OM SYSTEMの「ハイレゾショット」もその最たる例だ。OM-1 MarkⅡでは14bit RAW記録が選択できるようになり、更なる高画質化が期待できる。世間のミラーレスカメラにもそういった類の機能は備わり始めてはいるが、OM SYSTEMが特異なのは、それを手持ち撮影でも実現したところにあるだろう。

OM-1MarkⅡ / 手持ちハイレゾショット, M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO

こちらは高山本線の飛騨小坂駅を撮影した写真。単線である同路線は、上下の列車が駅などで待ち合わせてすれ違うダイヤになっている。まさにその待ち合わせの様子である。二つの列車がともに停車している時間はせいぜい30秒程度。その瞬間を狙って手持ちハイレゾを活用した。これなら三脚固定で待ち構えていたほうが堅実と言えるかもしれないが、ここでは次の写真も撮影した。

OM-1MarkⅡ / 手持ちハイレゾショット, M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO

そう、短い停車時間のあいだに縦位置も狙ったのだ。実は飛騨小坂の駅でふたつの列車が停車して待ち合わせる機会は、1日通して非常に少ない。手持ちだったからこそこのワンチャンスに2バリエーションをゲットすることができた。

OM-1MarkⅡ / 手持ちハイレゾショット(拡大), M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
OM-1MarkⅡ / 通常撮影(拡大), M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO

拡大してみると「ハイレゾショット」の高解像さがわかる。もし撮影中に列車が動いてしまったとしても、合成処理する前の素材が1コマ記録されるのでバックアップになる安心設計。
「ハイレゾショット」に限らず、OM SYSTEMは手持ちで撮ることのできる領域を大きく広げ、機動力を高めてくれている。機動力は鉄道写真の躯体ともいえる重要な要素なのだ。

OM-1MarkⅡ / ライブND(ND4), M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS

「ライブND」も機動力を高めてくれる機能のひとつ。OM-1 MarkⅡではさらに一段分効果の幅が広がった。低速シャッター時にレンズ最小絞りでも露出過多になるシーンや、絞りを開けたい時に使っている。単写になるなど制限もあるが、思いついた時に“やってみよう”が良作を生むのである。NDフィルターを持ち合わせていなくてできなかったとなれば、せっかくのひらめきも無かったのと同じだ。

「デジタルシフト」で魅せる

OM-1 MarkⅡはコンピュテーショナルフォトグラフィー機能の充実に話題が集まるが、以前からある「デジタルシフト」機能は私のお気に入りだ。幾何学的な線が集合している鉄道なればこそ、このパース感をコントロールする面白さが高まってくる。「デジタルシフト」は、複数枚合成ではないため動く被写体にも対応するが、単写に限定される。そのためカメラ内機能は撮影前のトリミング確認などに利用し、撮影後にOM Workspace内のデジタルシフト機能を利用するといい。そうすると、走る列車を120コマ/秒の高速連写で撮影した写真に対しても使うことができるのだ。

OM-1MarkⅡ / デジタルシフト, M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ

シンガポールにある廃線となった鉄道駅で撮影。情緒ある駅舎に正対して線路跡の遊歩道を走る自転車を待った。上下方向のパースを「デジタルシフト」で補正して撮影した。

OM-1MarkⅡ / デジタルシフト, M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO

こちらもシンガポールの鉄道駅。鉄道駅の象徴ともいえる時計が印象的なものだったので撮影した。頭上にあるためカメラが上を向いてしまうケースだが、「デジタルシフト」を活用して平面的にみせる効果を狙っている。サイン等の入り方や画面の切り方などは、カメラ内で撮影時に「デジタルシフト」を使うことで調整しやすい。

OM-1MarkⅡ / デジタルシフト, M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ

こちらは国鉄型キハ40形車両の肖像。背景が好ましい場所を吟味し、走行中に撮っている。そのため撮影時は「デジタルシフト」をオフにして120コマ/秒で連写撮影。撮影後にOM Workspaceで調整している。四角い箱である鉄道車両の端正な造形を強調し、デザイン的な一枚にするのが狙い。実は、このシリーズを撮り溜めたら結構面白いのではないかと画策中である。

OM Workspace デジタルシフト調整画面

OM Workspaceでの「デジタルシフト」は、赤丸部のように上下方向と左右方向それぞれの数値を入力して調整していく。

OM-1 MarkⅡはたくさんの技が詰まったカメラだ。機動力という撮影の基幹、躯体になる部分でも秀でたカメラである。そしてそれらは、見る人の心に響く作品にしていくための重要な力なのである。技を繰り出すことが目標ではなく、車両や路線の魅力を自分らしく表現したいという欲求に対する近道として技を使うのである。OM-1 MarkⅡはその欲求に応えてくれるはずだ。心技体の三拍子が揃ったとき、きっと素敵な鉄道写真が生まれてくるだろう。


筆者紹介

山下 大祐(ヤマシタ ダイスケ / Daisuke Yamashita )

1987年兵庫県出身 日本大学芸術学部写真学科卒業
幼い頃からの鉄道好きがきっかけで写真と出会い、今度は写真作品制作の舞台として鉄道と関わるようになる。幾何学的な工業製品あるいは交通秩序としての鉄道を通して、人や自然の存在を表現しようと制作活動を行なっている。
業務では、鉄道会社のライブラリ、車両カタログ、カレンダー、CM撮影などに携わるほか、鉄道誌、カメラ誌等で撮影・執筆を行う。
OM SYSTEMゼミ講師、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員

2018年 個展「SL保存場」富士フォトギャラリー銀座
2021年 個展「描く鉄道。」オリンパスギャラリー東京・南森町アートギャラリー

ウェブサイト:http://www.daisuke-yamashita.com
SNS: https://www.instagram.com/yamadai1987/












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