美味しいものを食べに行くこと。 きれいなものを見に行くこと。 逢いたい人に逢いに行くこと。 日々の疲弊や倦怠という心の垢を、ざっぶざっぶと洗い流しに行くこと。 ホームではない土地で少しだけ大胆になって、地上1cmの浮遊感を楽しむこと。 悲しいことを、ひととき忘れること。 いつもより感動しやすい私になること。 飛行機の窓から、自分の住む街の灯りを眺めること。 旅の始まりに、終わりに、後日談に、お土産に、 胸がしゅわしゅわするような幸せが見つかること。
わたしは若い頃から引っ込み思案で、一人でレストランに入ることさえできなくて、元夫には箱入りオバさんと散々からかわれたものだ。 ひとり娘の結婚を控えたある日、一人旅でもしてみようかしらと何気なく娘に漏らした。それが発端となり、あれよあれよといううちに旅先を東南アジアの島に決められ、わたしは人生で初めてパスポートを手にしたのだった。 家が恋しくて、心が挫けそうな毎日。今日は勇気を奮い立たせて屋台に並んだのに、列に横入りをされた。おまけにスコールに遭い、ホテルに戻った頃には全身
