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強制処分ってなんですか?〜「書けそうで書けない」の壁を乗り越えるために

刑訴の論文試験で出るところといえば、予備試験も司法試験も「だいたい相場が決まっている」というのが通説的な見解だと思われる。具体的には捜査、訴因、証拠(特に伝聞法則)といったところだろうか。

もっとも、いくら出るところが「だいたいわかっている」とはいえ、それだけで答案が書けるほど、この試験は甘いものじゃない。

「あれ、これ、どういう順番で書くんだっけ?」
「あてはめ、どうすればいいんだっけ?」

一度考え込んでしまうと、そこで沼落ち確定である。

たとえば捜査と来れば一言触れる機会も多い強制処分と任意処分。答案に論パを貼り付けて終わりにしているのは、おそらく私だけじゃないと思うが……「どうやらそんな簡単な話じゃなかった」という当たり前のことに、気づかされる機会があったのでご紹介したい。

それが、国木先生の強制処分をめぐる一連のレクチャーである。


今回の担当アドバイザー

今回の担当者は刑事系1位合格、「刑事系科目は俺に任せろ(!)」な国木正アドバイザー(71期)。OLSアドバイザー職のほか、他予備校でも過去問講義などをご担当。受験生の心強い味方である。


強制処分とは何か?

「強制処分と任意処分」といえば、捜査パートの最初、予備校の講義でも最序盤で扱われる馴染み深いテーマである。

ただ改めて「なんですか?」と突っ込んで聞かれると答えにくいのも事実だ。とりあえずテキストの記述や論証は覚えてみたけれど、よく考えるとふわっとしている。

こんな受験生あるあるを察したのか、「強制処分の意義」を紐解く国木アドバイザーの講義はなんと歴史のお勉強から始まった。

条文の建て付けを理解するために、予備校の教材や講義では扱われない刑訴法の沿革レベルの話からスタートしたのである。

まさか旧刑訴法下の規定・制度を踏まえて、現在にまで至る強制処分の定義に関する議論が始まっているとは思わなかった。

旧刑訴法の規定における「強制の処分」は、今私たちが理解している「強制の処分」とは制度上全く意味合いの異なるものであったらしい。

にもかかわらず、現行の刑訴法にも「強制の処分」という旧法由来の文言が残ってしまったことから、その文言に特別の意義を見出そうとする動きが生まれたのだそうだ。

刑訴法197条1項但書では、「強制の処分」という要件にあたれば、「この法律に特別の定」が必要になるという効果を規定している。

ここで学者たちは、刑訴法という国民が作った法律(「この法律」)に、日本で許される「強制処分」の個別具体的な「カタログ機能」を営ませるという解釈に至った。

実際、刑訴法には「強制の処分」に関する規定がいくつか置かれている。

そこの規定をヒントに「強制の処分」にあたるものを考えていった結果、被制約利益から強制処分かどうかを判断する今の学説が登場してきたと。


このあたりの議論を「試験に出ない」「ムダ」と切り捨てにかかる人もいるかもしれない。しかし、背景の厚みが出たことで、個人的には「話がよりわかりやすくなった」と感じた。

背景知識がわかっていなかったせいで、理解がふわっとしてしまう。そういう現象は確かにある。

「有用なムダのありがたみ」を強く感じた瞬間だった。


強制処分にあたる処分とは〜プライバシーを例に

「抽象的な話ばっかりしてもね?」という国木先生の配慮であろう。

具体例として強制採尿やプライバシー(領域プライバシー)を取り上げつつ、強制処分になるかどうかの境目、明確な基準の必要性といった話題についての議論が展開された。

試験問題の元ネタになりそうな事例に関する話(なんとアメリカの有名判例)もあり、興味深かった。

「新しく開発された技術を使ったら、今の最高裁の考える「プライバシー」との兼ね合いでどうなるのか考えてみるのも面白いのでは?」と国木先生。

こうやって、私たちが普段目にしているニュースと刑訴法の世界がつながっていくのだ、と思った。


で、実際どう書けばいいの?

ただあくまでも、私たち受験生にとって至上命題は、試験本番で合格答案が書けるようになることである。

じゃあ、なんで強制処分の書き方は難しいのか。

「この原因は強制処分をめぐる刑訴法の規定の仕方にあるのだ(意訳)」と国木先生はいう。

刑訴法では、刑訴法中に「特別な定め」がある場合に強制処分を許す、という建前になっている。

ところが、実際には、刑訴法の特別な定め、というより既に条文として存在する「検証」処分の要件に当たるか否かの問題になってきてしまうことが多い。

だからこそ答案では書き方が難しいのだと。

じゃあ、実際に書くときはどうすればいいのか。

本講義ではここで、強制処分の考え方や答案に展開する場合の書き方について、国木先生ご自身の答案例をもとに、書き出しから、あてはめまで丁寧な講義が展開された。

さらに、答案の出来不出来を分ける「強制の処分」にあたらない場合=任意処分の話、令状主義と強制処分とのリンクについてのレクチャーも。

しかも、実はここだけの話なのだが……刑訴の答案例(平成27年司法試験・平成27予備試験)というステキなお土産もあった。正直、お得すぎじゃなかろうか……。


「納得のできる表現」を探して

わかったようでいて、意外と書けない。

この感覚は過去問を書いたことのある方なら、きっと共有できるものだと思う。

今回、国木先生のレクチャーを受けてみて、その難しさをあらためて感じた。一方で、国木先生自身がおっしゃっていたように、最後は「書いて人に見てもらう」を繰り返して表現や書き方を洗練させていくしかないのかな、と思う。

ただ、実際の答案例をもとに、捜査(ここでは「検証」にあたるかもしれない処分)の書き方を見せていただけたのは経験として大きかった。

今後も検証などの書き方に迷ったら迷わずこの講座に戻って来ようと思う。

本講座のアーカイブ動画はこちらから

(執筆:別宮央都/ 編集:OLS編集部)


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