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「既判力」と「信義則」の間で揺れるH24予備民訴【答案改造⭐︎劇的ビフォーアフター】

みなさま、こんにちは。OLS編集部です。2022年度予備試験短答直前期、皆様はいかがお過ごしでしょうか。ちなみに編集部員はすでに胃腸の具合が悪く、夜もロクロク眠れません。笑

さて、閑話休題。今回は「解答の筋が割れに割れ、大混乱!?」となった難問、平成24年予備民訴の採点実感講義ルポをお送りします。

講座担当は、しかアドバイザー。

対するルポ担当ライターは梶原くんです。

途中、既判力の森で迷いながらも、なんと2通りの筋で答案を書き直す(!)というプロ魂を見せてくれました。

それではさっそく、本文とまいりましょうか。

解答編

この問題については3回目の答案作成になります。最初に書いたのが11月でしたが、そこから何回も(いや、もしかしたら何十回も?)頭の中で思い出すたびに繰り返し考えてきた問題なので、個人的には結構思い入れの深い問題。私が検討してきた法律基本7科目の予備過去問数十問の中では(処理量は抜きにして)理論的にまず間違いなく最難度の問題であるという認識です。

さて、そんな問題について今回書いた答案はこちらです。

構成に19分、答案作成に43分かかりました。

この問題、恐らく一番難しいところは前訴確定判決で生じた既判力は後訴に作用するか、という点。たしかに、明示的一部請求された前訴訴訟物と残部請求された後訴訴訟物とは訴訟物として別個であるという判例の立場(そしてAとBの会話)を前提にすれば、両者の同一関係は認めることはできないと考えられます。しかし、先決関係と矛盾関係については微妙です。(この点、後述)

なによりも問題文における裁判官Aの3つ目の発言にある「第2訴訟において、裁判所は、第1訴訟の確定判決で認められた売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできるでしょうか」という問いかけが絶妙に悩ませます。売買代金債権の一部が認められた前訴確定判決があるにも関わらず、「裁判所は…売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできる」(下線部は筆者。以下同様)という結論は直感的に何かおかしい、と感じる人も多いのではないでしょうか。

実は初見で解いた時、私もここをなんかおかしい…と思いつつ、その後の設問文はYの主張可否を主に問うているのだと読めた(そして、それはたしかにそうなのです)ので、この直感的な違和感と裁判官Aの問いかけを無視して信義則構成で答案を作成しました。

しかし、その後、ある解説を読んだり、出題趣旨を読んだり、自分なりに検討した結果、恐らく信義則の解答筋は少なくとも出題者が予定していたものと違うのではないか?と考えるようになり(詳しくは後述)、既判力を及ばせる構成を採りました。

講義受講編

私は講義そのものには参加できず、質疑応答から参加。その後アーカイブ受講しました。

採点実感講義は今回で6回目になりますが、今回も例に漏れず本当に詳細なレジュメが付されており、大変わかりやすい講義でした。しかアドバイザーによる答案構成も掲載されており、学習効果の高い講義だったと思います。

しかアドバイザーは既判力が及ばない(作用しない)→信義則という構成でしたね。当時の再現答案はほぼ全て信義則構成を採っており、多くの予備校の模範解答もその理解のようです(私が受講していた予備校の模範答案もそうでした)。受験生の相場観としてはこれが書ければ合格ラインには乗ってくるということのようです。

しかし、改めて講義レジュメにも掲載される出題趣旨を読みなおすと「作用の仕方」という文言が引っかかります。

信義則適用による主張制限は果たして既判力の「作用の仕方」なのだろうか?私の理解では信義則は、既判力(114条)が作用しない場合における別の法律構成(2条)です。そうすると信義則による主張制限は「既判力の作用の仕方」と言わないのではないか?という疑問がよぎりました。または「作用の仕方」を「作用する・しない」と読んでいたとしても個人的には日本語としてミスリーディングに感じます。その場合は出題趣旨も「既判力が生じる範囲、そして生じた既判力が第2訴訟に作用するか、そして作用しないとした場合の処理…」などと書くのではないでしょうか。この点、しかアドバイザーは「作用の仕方等」の「等」の部分に信義則構成を読み込むべきという趣旨だったかと思います。

また、信義則構成でYが主張①を主張できないと書いただけでは前述の「裁判所は…売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできるでしょうか」という問いかけには答えていないとも思いました。この問いかけにおける主語は裁判所だからです。

2条の文言から分かるとおり信義則によって拘束されるのは当事者のみであり、裁判所自体は拘束されるようには読めません(そもそも当事者の信義則違反の事情の有無で裁判所の判断が拘束される謂れは基本的にないはずです)。これを前提とすれば、既判力が作用せず信義則で処理するという構成でこの問題を書く場合には少なくとも「裁判所は…売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできる」と結論づけることになるかと思います。

もし、その結論が妥当ではないから「できない」という結論を採るなら信義則を根拠に結論づけることは2条の文言に照らして恐らく難しく、別の法的根拠を持ってくる必要があるのではないでしょうか。

その場合はまず争点効が第一候補として浮かびますが、これは判例で否定されています。そうすると裁判所の「民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め」る義務(2条)に紐付けるか、または信義則適用による当事者の主張制限を前提に弁論主義の第1原則または第2原則を経由して裁判所による判断の可否を検討するか、あたりが候補になってくるのでしょうか。

個人的には弁論主義を経由させることが論じやすく感じます。つまり、裁判所は「当事者の主張していない事実を判決の基礎にしてはならない」(第1原則)し、「当事者間に争いがない事実は判決の基礎としなければならない」(第2原則)のですから、信義則適用による当事者の主張制限の結果、売買契約が成立していないことを前提に判決を書けない、ということになります。つまり「裁判所は…売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることはできない」という結論を間接的・消極的ながら導くことができるかもしれません。

しかし、そうすると当事者の信義則違反がなかった(つまり主張制限されない)とされる場合は結局、最初の「裁判所が否定する判断ができるか」という問いに戻ってくるのが難点でしょうか(私は最初にこの辺りを勉強した頃、「信義則は既判力が及ばない場合にこれを補完するいわば方便である」と理解していました。しかし、平成10・6・12は信義則が認められない「特段の事情」があることを示唆していますし、昭和59・1・19は信義則適用を否定していることからすると、判例は少なくとも既判力が及ばない場合全てを信義則で処理するという立場にはないと考えられます。具体的にはしかアドバイザーが紹介される昭和51・9・30の規範などで信義則の適用範囲は制限されると考えるべきだと思います)。しかし、ここを頑張ったところで果たして出題趣旨にある「既判力…の作用の仕方等」を説明する答案になっているかについては個人的にはやはり違和感を感じざるを得ません。

しかアドバイザーは「裁判所は…売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできるでしょうか」という問いかけ(問いかけ①)にはあまり重点を置かれていなかったようで、その前の部分である「訴訟物が異なるという理由だけで、第2訴訟において、第1訴訟の確定判決既判力が及ぶことはないと言い切れますか」という問いかけ(問いかけえ②)を重視されたようです。私としては、問いかけ①は問いかけ②を裁判官A(おそらく出題者)の問題意識に照らしてより具体的にしたものと読んでいたので、①をより重点的に意識していましが、この辺りの読み方も異なっていたように思います。

この辺りも質問できればよかったのですが…。

限られた質疑応答の時間内では明確に言語化できず質問しそびれてしまい、残念です。もう少し質問力を磨く必要があるな、と思いました。

書き直し編

では、結局のところ、どういった筋が出題者の意図だったのでしょうか。

結論から言うと、私個人としては「出題者はこの事例において既判力が作用すると考えていた」可能性もあると理解しています。

そう考える根拠はここまでに述べた疑問以外にもいくつかあります。

そもそも、この問題の出題趣旨に信義則(または争点効)についての言及がありません。出題趣旨だけを素直に読めば、この問題はあくまで既判力の問題であり、別の法的根拠である信義則(または争点効)による解決を(少なくとも積極的には)求めていると読み取ることは難しいと思います。この点、信義則構成が出題された平成25年司法試験の出題趣旨では信義則構成がハッキリと明示されていることとは対照的です。つまり、信義則構成を積極的に採るべきとする根拠は少なくとも出題趣旨の文言からは見出せないのでは?という疑問があります。もっとも、これはあくまで(「作用の仕方」を「作用する・しない」と読む、または「等」に信義則構成を読み込むという読み方さえすれば)信義則を採る答案が全て排斥されるという意味ではなく、既判力が作用する方向の答案が少なくとも許容されている、出題趣旨に反しないという意味です。

実は、予備試験の問題をあまり検討したこともこの問題の予備校解説を受けたこともないロー経由での司法試験合格者にこの問題文と出題趣旨だけを読んでもらったのですが、「私ならこの出題趣旨が出ているこの問題文を信義則では書かない。既判力の問題として処理すると思う」という返答をもらいました。また別の予備合格者の方は先決関係を認めて処理すべきだとしていましたし、むしろ矛盾関係ではないか?と指摘する合格者もいました。さらに別の合格者はやはり既判力は及ばないと考えていました。この点、安田先生は質疑応答で瀬木比呂志先生の見解を引きつつ「既判力は同一関係、先決関係、矛盾関係が認められる場合のみに作用する訳ではない」可能性を指摘されていました。つまり、この問題は指導者(予備校含む)や合格者の中ですら見解が大きく分かれる難しい問題だったのだと思います。

また令和元年予備試験でも既判力は出題されていますが、その問題文ではご丁寧に信義則・争点効を使うな、とわざわざ明言されています。私はこの記述に初めて触れた時に思わず苦笑いをしてしまいました。仮に平成24年予備試験の「出題者はこの事例において既判力が作用すると考えている」という前提にたてば、受験生がみんな信義則(または争点効)の答案を提出してきたことは出題側からすると大誤算で、採点現場は恐らく大混乱だったはず。もし私のこの想像が正しければ数年後に「(安易に)信義則・争点効を使ってくれるな」と出題者が敢えてわざわざ問題文で明言したくなる気持ちも分かる気がします。勘ぐりすぎかもしれませんが。

私の妄想は置いておくにしても、他の年度での記載を考慮すると少なくとも予備試験の出題趣旨・問題文は要求している法律構成をそれなりに丁寧に描こうとしてくれているとは言えそうです。そうすると「出題者はこの事例において信義則で処理すべきと考えていた」という前提に立った場合、平成24年の出題趣旨は(信義則構成を明言しない点で)あまりに言葉足らず、または(「作用の仕方等」と書く点で)日本語としてあまりにミスリーディングにも思えるのですがいかがでしょうか。

私のこの見解は受験生として極めて少数派だと思います。実際、私と同じ立場の説明をこれまで一つしか見つけられなかったです(正確には逆ですね。私はその説明を読んでから、今の見解に立ってます)。その原因は第2訴訟に既判力が及ぶという結論を一般的な説明から導くことがそれなりに困難であるからだと考えられます。しかし、実はこの「既判力が及ぶ」という立場から説明する記事が過去にOLS のえるにえアドバイザーによって書かれていたことが今回の質疑応答で安田先生より共有されました。

私がここまで「では、どうして既判力が後訴に及ぶのか」という一番大事な部分の論理を敢えて避けてこの記事を書いてきたのは、この難題に対する私自身の拙い考えを示すよりこの記事を参照していただく方がより適切だと考えたからです。是非一度読んでいただければと思います。

https://salon.dmm.com/198/comments/643812

この記事を読んで、まず私は本当に安堵しました。笑

少なくとも一つの立場としてはあり得るのだと思って本当にうれしかったです。

もちろん私は自らの見解が正しいと主張するために今この記事を書いている訳ではありません。当然ながら、しかアドバイザーの解説を批判する意図も全くありません。

しかし、一番大事なのは「いろいろな可能性をまずは検討してみること」だとは考えています。上記で信義則構成から裁判所による判断の可否についての帰結を検討したのは私なりのトレーニングでした。

条文や判例と同じく出題趣旨や問題文も文章である以上、それすら解釈の対象でありいくつかの見解があり得るものなのだと思います。そうすると、読む段階で気をつけておかないと出題趣旨と問題文を「読んでいても」出題者の意図を把握できない危険があります。その意味でもこの問題は予備試験対策の難しさを改めて考えさせられる問題だと感じました。

ですから、(初見で書いた私もそうでしたが)信義則構成で解いた人もまずはそれを一旦忘れて、騙されたと思って「出題者はこの事例において既判力が及ぶと考えていた」という前提に立って、この問題文と出題趣旨を改めて読み直してみてはいかがでしょうか?そうすれば、この問題の全く違った表情が見えてくると思います。

さて、本当に長くなりましたが最後に私なりの書き直し答案を示して締め括りたいと思います。

今回は自分のトレーニングとして、⑴既判力パターン⑵信義則パターンの2通りで書いてみました。

今回の記事ではYの主張②については大きく問題としませんでしたが、答案作成後にこの答案を添削してもらい、そこでの指摘を検討すると⑴既判力パターンで論じても相殺の抗弁につき時的限界を当然に論じた私の答案は論理的に矛盾していることがわかりました。なぜならば、Yの300万円の相殺の主張を「相殺をもって対抗した額」である250万円に限定している私の答案の論理に沿えば、そもそも既判力の抵触は起きていないはずであり、時的限界を論ずる実益はないものと考えられるからです。この点も書き直しでは時的限界についての問題意識を指摘するにとどめる記述に修正いたしました。(なお、この論理を徹底すれば、信義則構成を採ったとしても、後訴における相殺主張がそもそも前訴の蒸し返しをする主張ではないという評価も可能で、相殺が実質的敗訴であるという特段の事情まで検討する必要はないのではないか?という疑問をよぎりましたが、この点は今後の検討課題とさせていただき、信義則パターンの書き直し答案ではスルーさせていただきました)

私はそもそも民事訴訟法が苦手なのですが、既判力、特にこの問題は本当に難しいです…今回の講義で改めて強く実感しました。私が採る見解としかアドバイザーの見解とは逆ではありましたが、この問題を検討する新たな視点を獲得させてくれる大変有意義な講義であったことは間違いありません。また今後、信義則で処理しなければならない問題は当然出題される可能性があります。私のようにこの事例では既判力が及ぶと考える人にとっても、信義則の場合の処理の仕方、注意点などが大変充実している本講義は非常に勉強になるものですからオススメです。私もしっかり復習していきたいと思います。

しかアドバイザー、本当にありがとうございました!

書き直し答案⑴既判力パターン

書き直し答案⑵信義則パターン

編集部からの補足〜入門書だけで予備民訴は書ける!?

なお、しかアドバイザーは過去に「入門書で解く司法試験・予備試験」というパンチの効いたイベントも担当されており、今回の採点実感講義で扱ったH24民訴の問題をストゥディア民事訴訟法の知識だけで解いてらっしゃいました。

2022年短答直前期の追い込みで、知識面の不安から「知識面が足りないので別の基本書を」「あれもこれも加えたい」と迷ってしまっている方もいると思います。

かくいう編集部員も、先日の安田先生とのミーティング中に「今、やることを増やしてどうするの!?」と強く止められたばかりです。

あれもこれも手を広げる必要はないよ、ということで、もし現在悩んでいる方はこちらも是非ご覧いただければ幸いです。

(本文執筆:梶原恭二/ 編集:OLS編集部)

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